鍾乳洞と天文台を有し、毎年多くの観光客が訪れる田村市滝根町。そんな滝根町で、田村市の特産である米、ピーマン、さつまいもを栽培する男性「遠藤良一さん」
農園の名前は「光(ひかり)農園」。若くして事故にあった息子さんのために、会社を早期退職して自ら立ち上げたその農園では、栽培から収穫、加工、販売までを手がける。
「若い人に地域に入ってきて欲しいから、移住者には積極的に協力する」
「地域の農業を衰退させたくないから、新しいことに挑戦し続ける」
「お菓子の原材料を作り続けるのは、地元の菓子屋を存続させるため」
遠藤さんの言動から見えてくるのは、地元に対する熱い想い。
地域愛と持ち前の旺盛な好奇心で繰り広げる農業ビジネスを中心に、地域の課題や移住する上での心構えなどについて話を聞いた。
目次
メーカーの営業職を早期退職して本格就農
遠藤さんが働いていたのは、日本を代表する大手農機具メーカー。そこの営業マンとして活躍していた。同時に実家は農業を営んでいたため、休日や繁忙期には実家を手伝う、いわゆる「兼業農家」としての生活。
「トラブルで夜中の1時に会社のお客さんから呼び出しがかかって、明け方に帰宅するなんていうこともよくあった。とにかく朝早くから夜遅くまで働いたね」
家に帰ると農業の手伝い。35歳頃からは、農家としても責任のある仕事を任されるようになっていた。
そんな忙しさの中にあっても、農業を嫌いになることは不思議となかった。むしろ「自分で米作りをしたい」という想いは募り、55歳で会社を早期退職。2016年に「光農園」を立ち上げた。
「光農園を立ち上げた理由は、1つは『自分で米作りがしたい』と思ったから。もう1つは、若くして交通事故にあい、障がいを負った息子に何か残してやりたかったから」
当時10歳の息子さんを襲った突然の悲劇。幸い一命は取り留めたものの「高次脳機能障害(※注釈)」と診断された。「見えない障害」とも呼ばれ、周りから理解されにくいその障害を多くの人に分かってもらおうと、事故後、遠藤さんは県内で高次脳機能障害の家族会を立ち上げ、当事者やその家族との交流、そして啓発活動に取り組んでいる。
農園の名前は、そんな息子さんの名前の一部からとった。
※高次脳機能障害とは…
事故などにより脳がダメージを受けたことで、注意力・記憶力・言語・感情のコントロール等に支障が生じる認知機能の障害
若者を取り込むためには、チャレンジが欠かせない
光農園の立ち上げから2年後、補助金を活用しつつ、足りない分は融資を受け、地元滝根町にミニライスセンターを立ち上げた。
「借金を背負ってでも、なんとしても滝根町にライスセンターを作りたかった。高齢化が進む地元を廃れさせたくない。そんな想いだった」
光農園が収穫を請け負う田んぼは、東京ドーム約6個分(30町歩)。口コミで広がり、今では地元だけに収まらず、滝根町の至るところから声がかかる。
光農園では、節水型乾田直播(※注釈)という栽培方法に取り組む。水管理の手間が減り、化学肥料は不要、二酸化炭素の放出も抑えられ、そして味は変わらず美味しいという、生産者、消費者、環境全てにうれしい画期的な栽培方法だ。
※節水型乾田直播とは…
水を張らない乾燥した田んぼに直接種をまき、必要最低限の水で稲を育てる栽培方法
全国的には徐々に浸透してきているものの、田村市ではまだそこまで広がりを見せていないという。
「後継者作りは地域の大きな課題だけど、この栽培方法が浸透すれば、都会のサラリーマンや子育て世代でも、営農したいという人が増えてくるんじゃないかと思います」
光農園が米だけではなく、ピーマン、さつまいもを手がける理由は、安定した就労環境を提供するため。春は田植え、夏はピーマンの収穫、秋は米とさつまいもの収穫、冬はさつまいもの加工、販売と年中雇用を目指している。もちろん従業員の休日もしっかり確保する。
「農家の間では、農業はきつい上に儲からないというのが常識でした。その常識を変えなければ、若い人の参入や後継者を育てることはできません。新しいことにも積極的に挑戦して、若者に選ばれる農業というを目指さなければと思っています」
新たな農業法人の立ち上げ。挑戦するのは「さつまいも」事業
2023年、遠藤さんは2人の仲間とともにさつまいもに特化した農業団体「MNRファーム」を新たに立ち上げた。地元の畑でさつまいもを栽培し、加工、販売する。
さつまいもを手がける背景には、地元の老舗菓子屋が次々と閉店していくことに危機感を覚えたことが1つのきっかけだった。
どの菓子店にも田村市民なら誰でも知るような看板メニューがあり、人気を博していた。しかし、後継者不足や高齢化などにより、次々とそんな愛される菓子屋が閉店していく。
「いわば田村市の味がなくなっていくわけですよね。寂しいですし、田村市の財産がなくなっていくようなものです。だからこそお菓子の原材料に使ってもらえればと、さつまいものペーストやパウダーを作っています」
光農園で加工した干し芋は、田村市のブランド認証された産品に与えられる「田村の極」に選ばれた。ツボの中でじっくりと火を通す「壺焼き芋」も人気商品だ。そんな光農園での加工経験を生かし、MNRファームでは新たに専用の機械を購入し、「冷凍焼き芋」にも挑戦している。

つぼ焼き芋の様子
「私のモットーは『他でやっていないことをやってみる』こと。言ってしまえば、好奇心旺盛なチャレンジャーです。それで失敗することもありますが、やってみないことには、自分が納得できないんです」
「計画を作って行動する。その結果を見て反省する。物事を進めるには、それしかありません」
常に勉強し、努力を重ねる遠藤さんの言葉だからこそ、背中を押してくれるような大きな安心感と説得力がある。
地元に若い人が来ると刺激になるので大歓迎
ここ数年「新しく移住してくる人が飲食店の経営を考えているので、お米を提供してくれないか」という相談を受けることが何度かあった。もちろん遠藤さんの応えは「YES」。しかも「事業をするのは大変だから」と、採算度外視、赤字覚悟での提供だ。
「事業が軌道に乗って、若い人がここに定住してくれたらいいと思って協力しています。地域が廃れていては、子どもも孫も返ってこない。新しい若い人に刺激をもらって、地域を元気にしていくことの方がずっと大切。若い人が来てくれるのはとても楽しみなんです。できるだけ応援したい」
移住検討者へのメッセージ
「豊かな人生を送りたかったら、田村市はおすすめです。私が育った滝根町の菅谷という地域には、本格的なケイビングが楽しめる『入水鍾乳洞」を始めとした、豊かな自然があります。今思えば、私がこれまで他の地域に移ろうと思わなかった理由は『滝根町だったから』かもしれません。それくらい、永住しやすい場所です」
地域で暮らすうえでは、コミュニケーションも欠かせないと話す遠藤さん。
「滝根町には温かい人が多いと思う。もちろん中には気難しい人や、新しい人を受け入れるまでに時間がかかる人はいるけど、そういう人とは距離を置けばいい。地域には必ず世話好きの人がいるから、そういう理解のある協力者にまずは頼って、組(※注釈)のことや地域のことを教えてもらうといい。組長には、最初に挨拶に行った方がいいね」
※組とは…
地域の最小単位。共同作業(草刈りや水路の掃除等)や相互扶助(冠婚葬祭の手伝い等)を行うことがある
先住の人も新しく移住してくる人も「お互いに助け合う気持ち」があれば大丈夫だという遠藤さん。
「若い人には刺激をもらえる。ぜひ一緒に地域を盛り上げてもらいたい」
光農園
電話: 090-1067-6546
Instagram:https://www.instagram.com/hikari_farm.tamura/
ECサイト: https://www.tamura-online.shop/view/category/shop17
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たむら移住相談室
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