来年度から本格的な準備が始まると言われている「ふるさと住民登録制度」。その骨子や方向性について、断片的にマスコミから報道されてはいますが、その具体的な姿はまだ見えてきてはいません。現時点ではまだ構想のみで、本格的な制度設計や仕組みの開発もこれからだということですが、自治体及び関係各所からの注目が集まる中、現時点での意図やその方向性や仕組みの概要について、まさにこの制度立ち上げのキーマンである総務省 自治行政局 地域力創造グループ 地域情報化企画室長の志賀真幸さんに、ネイティブ.メディア編集長の倉重からのインタビューのお時間をいただきました。仕様などについてはあくまでイメージで、詳細はこれからとの大前提をもとに、色々とお話を伺うことができました。

総務省 自治行政局 地域力創造グループ 地域情報化企画室長 志賀真幸さん
関係人口を“可視化”する国の共通基盤とは?
倉重:今日はお忙しい中お時間を頂きありがとうございます。今、自治体や移住・関係人口界隈で徐々に注目を集めている「ふるさと住民登録制度」ですが、まずはこの制度を構想された背景から伺いたいのですが。
志賀:はい。ご承知のとおり地方創生の取り組みを約10年続けてきて、もちろん一定の成果を挙げられている地域もありますが、日本全体としてはやはり急激な少子高齢化と人口減少に抗えている実感にはつながっていないという現実があります。特に地方で人口が減ると真っ先に問題になるのは、担い手不足です。日常生活の基盤を支える人がどんどん減っていく。このままでは地域の産業や交通などの維持すら難しくなる―そんな危機感が出発点でした。
倉重:それは、本当にそうですね。
志賀:移住促進の取り組みも重ねてきましたが、人口減少の局面ではどうしてもパイの奪い合いになりがちです。その一方で、移住せずとも地域に深く関わる人たちが、新しい風をもたらす事例が各地で増えてきました。そこでこの「関係人口」を政策の柱に据えて、その動きを加速することで人口減少の課題を補っていこうというのが大きな流れです。
倉重:ライフスタイルや価値観の変化もその後押しにもなっていますね。
志賀:そうですね。更にデジタルの進展も追い風になりうると思います。情報発信やマッチングなどがデジタルの得意領域です。これを最大限活用しながら、各地で誰がどんな形で関わっているのかを可視化し、地域と人とのコミュニケーションの基盤を創ることで、この関係人口の動きを加速して、実効性ある仕組みにできるのではと考えました。これがこの制度の基盤となる考え方です。
倉重:国が制度として提供する共通基盤があれば、関係人口を“見える化”して具体的なアクションに繋げやすくなる、というわけですね。
志賀:はい。既に地域のファンクラブ的な制度を始めている先進地域もありますが、そうした活動を後押しできるような共通プラットフォームを整備し、全国の自治体と多くの国民をゆるやかに結びながら、人の流れと地域との関わりを活発化させるパイプをつくることに意味があると思っています。
倉重:その中核が、スマホで手軽に「ふるさと住民登録」ができるアプリの構想なんですね。利用の第一歩は、利用者が自ら関心のある自治体を探して登録するイメージなんでしょうか。
志賀:そうですね。登録された情報はその自治体に共有され、「誰が地域のファンか」を把握できます。また登録の仕方については、“ベーシック登録”と“プレミアム登録”という二層を想定していて、まずはベーシック登録で緩やかに繋がるーとりわけ出身地など身近な縁から始め、定期的に情報が届くという基本的な仕組みを提供したいと思っています。
倉重:自治体から登録者への通知はアプリのプッシュ通知やメールで届くということですかね?
志賀:その予定です。既に各自治体は日頃、ホームページやSNSで多様な情報を出していますよね。その中で「ふるさと住民」となった人たちにも知らせるべきものがあれば、まずはそこからでもという感じです。URLリンク付きのメッセージを送って、自団体のページへ誘導するなどという利用法もあると思います。
倉重:受け手側のニーズにあった情報を発信するにはどうしたらいいんでしょうか?関係人口といってもそのニーズは様々ですし、関心のない情報ばかり届くと、逆効果になり得ますよね。
志賀:そこは登録時にある程度の属性や関心分野を設定して、マッチングできればと思っています。利用者は興味ジャンルを事前に登録でき、発信側も発信内容にカテゴリーをつけて発信します。例えば「イベント情報」をチェックしておけば、地域の祭りや催事の知らせが届き、帰省や旅行の計画と重ねやすくなる、というイメージです。
倉重:複数の自治体を一つのアプリでフォローできるのもメリットがありそうですね。紙の広報を住所地外のファンに郵送している自治体もありますが、そこもこの仕組みである程度デジタルに置き換えられるかもしれません。
志賀:そう思います。この制度は必ずしも域外の人たちだけの利用ではなく、域内の住民が使うこともありうるのではないかと。住んでいる場所によらず、自治体との繋がりを強くするインフラになればと思っています。
倉重:登録時に取得する個人情報は、どの程度を想定していますか?
志賀:本人の同意を前提に、いわゆる個人情報4情報(氏名、住所、生年月日、性別)の登録はイメージしていますが、まだ具体的には決まっていません。ベーシック登録時は、気軽に始められるよう、ニックネームとメールアドレス、所在地域程度に抑える可能性もあります。一方で簡単なアンケート調査なども用意して、出身地なのか、どういう経緯でその地域に関心を持ったのかとか、地域での活動にどう関わりたいのかとか、そういう情報を蓄積できるといいかなと。ただ、最初はまずは敷居を低くして、ライトな繋がりから育てることを考えています。
倉重:その“繋がり”を土台に、次の段階としてのプレミアム登録がある、ということですね。そこも少し具体的なイメージを教えていただければ…。
志賀:プレミアム登録はやはりこの制度の本丸となる位置づけです。まだ詳細は検討中ですが、基本的には地域の担い手として一定の活動量を満たす方を自治体が認証する方式を考えています。具体的な内容は地域ごとに考えていただければと思いますが、国としてもある程度の事例やレベル感なども示せればと思っています。
倉重:どのくらいの頻度でその地域を訪れているかとか、具体的にどんな活動に参加しているかなどが、その基準になるということでしょうか?
志賀:そうですね。自治体がその要件を満たすと判断したら「プレミアム登録」を承認します。それに対して、例えば交通費の補助や公共施設の市民料金の適用など、官民でサポート特典を用意するという仕組みができれば、その活動を後押しできるのではと考えています。
倉重:そうなると、ある程度は本人確認が厳格に必要そうですね。
志賀:そうですね。プレミアム登録には、できればマイナンバーカードでの認証をと考えています。できるだけ自治体側も安心して手間なく利用できる仕組みにしたいと思っています。
倉重:なるほど。このアプリで発信される情報は、基本的には何かの「募集」など活動の“場”を提供する情報になるような気もします。いわゆるウェブ上の応募フォームのような形で、「いつ・どこで・何に、何人」かをアプリ上で募集するような仕組みは想定しているのでしょうか?
志賀:そうですね。仕様はまだ全く未定ではありますが、そういうイメージを持っています。申込から実績確認までできれば、プレミアム承認の根拠に使えそうですし。受付や管理などの機能もある程度は実装できるようにしつつ、あまりそれに縛ることなく、自治体側が自前運用に繋げられる余地も残したいとは思います。民間の方からも時々、情報や機能の連携を要望いただくこともありますが、少なくとも最初のうちはまずは自治体が発信者であり管理者である想定でいます。
倉重:ありがとうございます。ここまで伺うと、基本的な設計思想や、大まかなアプリの機能、運用のイメージまで、制度の外観が見えてきたような気がします。では次に、もう少し俯瞰的な視野にたって、この制度が狙っている社会へのインパクトや、この制度構想に込めた想い
などを深掘りさせてください。

[左;総務省 志賀さん 右:当メディア編集長 倉重]
「ふるさと住民」を”国民運動”に昇華させたい。
倉重:制度づくりに込めたミッションというか、価値観のようなものについて伺いたいなと思います。私が思ったのは、まずこの「ふるさと住民」という名称がもたらすインパクトについてです。「関係人口」というワードはやはり一般にはなかなか馴染みづらいと思いますが、これを「ふるさと住民」という親しみやすいワードに置き換えたのにも、意図があるのではないでしょうか?
志賀:そうですね。「ふるさと住民」というネーミングは、有識者会議の提案で様々な議論の末に生まれたものです。おっしゃるように、こういうワードを使うことの背景には、やはりこの関係人口創出の流れを、ある意味”国民運動”といえるレベルに引き上げたいという思いがあります。日本人の多くが、生まれ故郷かどうかにかかわらず、また都会生まれで“田舎がない”人でも、どこかの地域に思いを寄せて関わることが一般的なライフスタイルであり、ある意味”文化”の一つであるという感覚を広げたいのです。
倉重:価値観は言語化されないと生まれません。「ふるさと納税」がそうだったように、「ふるさと住民」という言葉が広がるだけで、大きなインパクトがありそうな気がします。
志賀:まさに。「ふるさと住民がたくさんいる地域はいいね」と言われるようになれば、個人と地域との関わり方も変わってくると思います。
倉重:本当にそうですね。そうなってくると、やはり居住地が地域の内か外かなどの違いもあまり関係ないかもしれません。もっというと必ずしも「“地域おこしが好きな人”」「まちづくりに直接関わりたい人」などに限る必要もなさそうですね。その地域への一定の関心が強く、繋がりを持っていたいという意志さえあれば、そこから始められるのかなと。
志賀:はい、そう思います。例えばですが、地元の学生が卒業で域外を出る時に登録してもらえるようにできたとしたら、その地域と緩やかな関係を保つきっかけにもなります。地元からは、そういう若者が帰省するきっかけになるような地域のイベント情報を発信したり、何かしらの後押しもできるかもしれません。そういう利用シーンもあり得るかなと。
倉重:ある意味“地域との緩やかな接続回線”を確保する仕組みというわけですね。わかりやすいメリットですし、色々と利用シーンが想像できますね!
志賀:移住してもしなくても、Uターンしてもしなくても構わないと思います。大事なのはその地域と「関わる意思表示」をしてくれることです。そこから個々の関係性が、いろんな形で育っていくのかなと思います。
倉重:裾野を広げつつ、やがてその中から地域の担い手を、というのが狙いなんですね。今の地域の課題に照らすと、その可能性は大きいなと。
志賀:そうですね。まずは「地元をフォローする」くらいから始めて、そこから地域の催事やプロジェクトに触れ、関わる機会を自分のペースやその時々のライフスタイルに応じて選んでもらえればいいですね。
倉重:一方で、意志のある人や動ける人にはより深い関係を結べる道筋も示していきたいですね。担い手としてのステップは、行政側の承認という形で見える化できそうです。
志賀:そうですね。そのあたりのルールや仕組みは、一定の基準は示したいとは思いますが、やはり各自治体が主体的に考えていただきたいなと思っています。それに対するインセンティブなどもそうですね。
倉重:“好み”や“縁”、”善意”だけで関わるのではなく、ある程度何かしらのメリットがあることも大事ですよね。私もやはり「それが無いと、人はなかなか動かない」と考える派でして(笑)。行動を続けられる呼び水となるような制度を備えることで、この動きを社会全体で後押しできるといいですね。
志賀:たしかにそうですね(笑)。同時に、私は地域に関わる事自体が本人の人生を豊かにすると思っていますし、それがある意味最大のメリットではないかと思います。関係人口は決して地域の”人手”ではありません。地域と個人がより良い関係性を強めることで、双方の幸福度が高まること自体がその本質だと思います。それこそが”地域活性化”そのものだと思っています。
倉重:まさしくそう思います!担い手というのは、もちろん地域の生活を支えるという役割もありますが、その地域の価値を創出する側に立つという視座のほうが、より本質的かと。関わり方は人それぞれですが、そうしたいという思いがまずあって、そこからどのくらい自分の時間をそこに投じられるか、その程度やレベル感はそれぞれでいいというスタンスが重要な気がしますね。
志賀:今の若い人たちは特に、地域貢献や社会的な取り組みに関心が高い傾向があると言われていますよね。そういう人たちが将来、こうした動きの中核を担っていただけるようになれば、ありがたいですね。

[左;当メディア編集長 倉重 右:総務省 志賀さん]
自治体に期待すること―仕組みを整え、地域内外を巻き込む戦略・体制の準備を
倉重:この制度について報道され始めた最初のころに、「関係人口の登録者数1000万人を目指す」ということが大きく報道されました。マスメディア的には大きな数字を出すほうが報道しやすいという面はあると思うんですが….(笑)数字だけを追いかけることにならないかという懸念は聞かれますね。
志賀:はい。1,000万人というのはあくまで象徴的な目安にすぎません。自治体にその数字目標を担ってもらおうというような意識も全くありません。やはり数を増やせばいいというものでもないですしね。一方で、先程もお話した通り、国民全体に広がるムーブメントになっていけばいい、そういうレベル感を目指している意志を感じていただく為の象徴としてご理解いただければと思います。
倉重:なるほど。確かに国がやることであれば、当然そのくらいの規模は目指そうという。
志賀:はい、そうですね。
倉重:スケジュール感としては、どんなイメージなんでしょうか?
志賀:発表している通り、今はまだ構想段階で、現在はまさに予算も調整中です。来年度はじめにはそのあたりも明確になり、具体的な動きをお見せできればと思っています。
倉重:ということは、アプリなどの開発もその中でということでしょうか?
志賀:そうですね。実際にそうした仕組みができるのも、来年度いっぱいかかるのではないかなと思っています。詳細の仕様なども含めまだまだこれからです。ただ都度、各市町村や有識者などから、ご意見や要望なども伺いながら進めたいなと思っています。
倉重:なるほど。そうなると、今後に向けて、各地域にどんな動きを期待されますか?一部の地域では既にいろんな企画を検討し始める動きも見られていますが…。
志賀:まずはやはり、各地域でどんな人と繋がりたいか、どんな人を「ふるさと住民」として迎えたいかを整理しておく必要はありますね。さらに言えば、そうした人へどんな情報を発信し、どういう反応を期待するのか。地域が求める「担い手」の具体的なイメージや、その役割について検討する必要があると思います。
倉重:なるほど、なるほど。しかしこれも、地域によって差がありそうというか、、、具体的にイメージできるところとそうでないところが出てきそうですね。
志賀:そうだと思います。政府としても、ある程度のながれというか事例というか、おおよそ「こういう考え方で整理したらいい」とか「こういう地域の動きは参考になる」などの情報を提示していって、ある程度それに沿って考えればまずは始められるようなサポートはできたらと思っています。
倉重:事例があるとありがたいという地域はありますよね。
志賀:もちろん、最終的に何を目指すのかは地域で考えていただくしかないのですが、導入の敷居は下げたいなと思っています。
倉重:そうですよね。あと地域の課題や担い手を迎え入れるには、当然地域の事業者などとの連携は必要ですよね。
志賀:まさにそこが重要だと思います。商工会、農業団体、まちづくり会社、NPOなどと以下にうまく連携できるか、協力体制が作れるかが最も重要なポイントですね。これには一定の時間もかかると思いますので、特にその連携体制の整備を準備をしていただくのが一番かと思います。自治体の職員だけでこの制度を動かすのは非現実的かなと。自治体内の主担当部署の皆さんが核となって、地域の様々な関係者の皆さんと連携する“面”を作れるかどうかが、本当に大切だと考えます。
倉重:関係人口のトップランナーとしてよく事例になっている、飛騨市でも、ヒダスケという仕組みを現場で支える関連団体を作っているようですしね。やはり3~4年周期で人事サイクルがある自治体職員だけでは中長期の運営はなかなか難しそうですし、現場に入り込んで動くための体制づくりはポイントになるでしょうね。
志賀:そうですね。各地で進む「先行事例」についてもご紹介しながら、人的体制づくりの考え方なども各自治体と共有していければと思っています。
倉重:ありがとうございます。およそのマイルストーンや、自治体が準備段階で考えるべきことのヒントや方向性もいただけた気がします。
志賀:12月中にはまた、改めて今後の動きなども含めて発信していきたいと思っていますので、どうか宜しくお願い致します。
倉重;個人的には今まで以上に「ふるさと住民登録制度」への期待が膨らんできました!今日は本当にありがとうございました。
編集後記
今回改めて貴重な機会をいただき、この制度の狙いや背景にある思いなどを伺うことができました。冒頭にもありましたが、特にアプリの仕様や機能についてはあくまで仮説レベルだとの大前提ではありましたが、おおよそどんなもので何ができそうなのかはイメージできた気がします。またいわゆる「関係人口」に期待するものの大きさや、国民一人ひとりと地域との関わり方の大切さが基盤となって、この制度が考えられていることも理解できました。我々もこうした動きを拡大していく側の者として、国や自治体と連携しながら、「ふるさと住民」という理念と文化、ライフスタイルを育んでいきたいと強く思いました。
期待をもちつつ、次の情報発表を待ちたいと思います。
文責:ネイティブ.メディア編集部
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