楽しくて、ご飯がおいしくて、また来たくなるーそんなお店が近くにあったら嬉しいですよね。福島県田村市大越町にある「めし処より処湯佐ん家」は、JR磐越東線大越駅から徒歩約10分の場所にある、30代のご夫婦が営む町の定食屋さんです。2025年12月現在、お子さんの誕生に伴い、長らくメインメニューに据えてきた定食と蕎麦をお休みし、ビュッフェスタイルに切り替えて営業しています。おいしいだけでなく、あたたかくて楽しい地域の拠り所を作り続けたいとチャレンジするお2人に、お話を伺いました!

・湯佐一夫さん(料理担当)
大越町出身。高校卒業後、板前として県内外のさまざまな場所で勤務。山形県の居酒屋で働いていた際、当時大学生でアルバイトをしていた早希さんと出会う。その後福島県に戻り旅館で料理長などを勤めた後、大越町で「湯佐ん家」をスタート。早希さんの育休中はホールも兼任。

・湯佐早希さん(ホール担当)
山形県鶴岡市出身。大学卒業後、地元銀行に就職し勤めた後、結婚を機に福島へ。現在は大越町で、一夫さん、一夫さんの両親、2020年生まれの長男、2025年生まれの次男と、6人で暮らす。2025年12月現在、お店のスタッフとしては育休中。

家族に背中を押され、大越町に蕎麦が食べられる定食屋をスタート!

左から、一夫さん、長男・一縁(ひより)くん、次男・凛音(りと)くん、早希さん。お店でたくさんの人に育ててもらったという一縁くんは、人見知りを全くしないのだそう

ーお店はいつから始めたのでしょうか。
一夫さん:2021年7月12日、コロナ禍真っ只中にオープンし、2025年で5年目に入りました。お店の名前は、単純に僕たちの苗字。「ゆさんち」って、みんな言いやすいじゃないですか。大越町は飲食店が多くないので、あらゆる人がふらっと来て、互いに出会いゆったり過ごせる、そんな拠り所にしたいと思い、「めし処より処湯佐ん家」という店名にしました。

一夫さん:店を始めたきっかけは、長男の誕生です。板前は面白いけれど、仕事環境で残念なことが多く嫌になっちゃって。「もう料理は二度とやらん!」と、一時期は配送の仕事をしていました。でも長男が生まれて、かっこいい親父でいたいと思ったし、自分のやりたいことや夢を諦めて、生活のためだけに働く背中を、見せたくなかったんですよね。だからもう一度料理の世界に戻って、この店を開こうと決めました。

早希さん:前のお店が閉まり、この場所が空いていると夫の母から教えてもらったことも、始めるきっかけの1つでした。夫はずっと板前として料理をしてきたので、「その腕を生かせるならやってみたら?」という思いで勧めてくれたのかなと思います。

ー板前から定食屋になるのは、同じ飲食業でも大きなキャリアチェンジでしたね。
一夫さん:そうなんですよ。定食屋にした理由は、ほかの飲食店さんと競争するのではなく、一緒に盛り上がる「共創」がしたかったから。湯佐ん家の周りには、割烹料理店、スナック、居酒屋、寿司屋があって、ここに無いジャンルということで、蕎麦も食べられる定食屋をやることにしました。ずっと会席料理を作ってきたので、とんかつや唐揚げはどうやって作るのか、定食屋のメニュー構成はどうしたら良いか、全くわからない状態から始まりました。蕎麦は板前修業中に、長野県で信州そばの打ち方を教えてもらった程度だったので、湯佐ん家でお客さんからのクレームや蕎麦屋さんからのアドバイスをもらいながら、何度も打って出してを繰り返しました。

一夫さん:徐々にお客さんに受け入れてもらえるようになり、蕎麦とかつ丼は人気メニューになりました。蕎麦を食べるためにわざわざ県外から来る人もいて、最初は何キロも廃棄していたことを考えると嬉しいですね。この間は新潟ナンバーの車で来たカップルが「かつ丼食べに来ました」って。ビュッフェスタイルで営業をしているのでメニューから外していたけれど、はるばる県外から来てくれたんだと思って、すぐに作りました。

田舎のビュッフェは楽しさ特盛!お盆に乗せ放題のワンプレートや焼肉が人気

メニューは日ごとのお楽しみ。カレーやおでん、揚げ物のほか、奥の冷蔵ケースには焼肉セットやお刺身、地元農家さんのネギを使ったネギ味噌、漬物、納豆、デザートまで盛りだくさん

ー2025年9月にスタートした、期間限定のビュッフェスタイルについて教えてください。
一夫さん:ワンプレートと食べ放題が選べます。うちのワンプレートは、お盆の上にどれでも乗せ放題というもの。平日昼が税抜1,100円、平日夜と土日祝日が税抜1,200円です。おかわりはできないので、たくさん乗せてください。おかわりができる食べ放題に途中から切り替えてもいいですし、飲み放題もつけられます。

早希さん:湯佐家は、足りないよりは余るほど出すという家系です。定食の時も、例えば唐揚げが基準サイズより少し小さいなと思ったら「もう一個つけとくべ」というのが、ざらにありました。ビュッフェスタイルにも湯佐家の性格が出ています笑。

平日のワンプレートランチは、お盆にどれだけ乗せても税抜1,100円。焼肉をつける人も多いそう

ービュッフェのみの営業に切り替えるのは、チャレンジでしたね。
早希さん:かなり勇気がいりました。でも田舎でビュッフェって無いし、都会のランチビュッフェや食べ放題は高いことが多い。「ワンプレートで、リーズナブルに選べる楽しさを味わってもらう」というのをやりたくて、うまくいくかどうか何度も練りました。最終的に、怖がっていたら何もできない、そもそもお店を始めたのだってだいぶチャレンジだったよねと、思い切ってスタート。予想以上に焼肉をやる人が多くて驚きました。蕎麦を食べに来て「無いんだ…」とがっかりした後、焼肉を思いきり楽しんで行かれる人がいます。自分が求めていたものが無くても、ビュッフェなら違うメニューでその気持ちを補えるんだという発見があって、とても面白いです。

一夫さん:ビュッフェにしてからは僕が1人で料理とホールを担当していますが、ホールの立場が理解できるという意味でも、やってよかったです。お客さんとの接点の作り方を考えることは自分の成長にもつながるし、早希さんの苦労を知って、感謝の気持ちも生まれました。

ーどんなお客さんが来られますか?
早希さん:平日昼は市内、休日昼は市外の方が中心です。ゴールデンウィークやお盆、お彼岸の時期は、県外ナンバーの車も来ています。ビュッフェを始めてからは、近所にお住まいの年配の女性の方々が来るようになりました。

一夫さん:元が取れているかは分かりませんが、ビュッフェの楽しさは来店のきっかけになるので、プラス思考でやっています。この楽しさが次の楽しさを生み、人が人を呼んで盛り上がれば、いずれ通常営業に移行した時に、何かしらの形で戻ってくると思っています。

大事にしているのは、「湯佐ん家って楽しい!」とお客さんが思えること

田舎の実家に帰って来たかのようなホッとする店内。照明や内装、厨房やトイレなど、至るところを夫婦でDIYしている

一夫さん:ビュッフェ以外に宴会もやっていて、基本的に2時間飲み放題つき税抜5,000円ですが、予算は個別にご相談したり、メニューも臨機応変です。ご家族の米寿のお祝いには長寿の象徴ということでエビフライを揚げたり、お子さんたちの「パパ、誕生日おめでとう!」という声が聞こえた時は、そば粉のパウンドケーキを出したりもしました。あまり決めすぎず、「これをやったら楽しいかな?」とその場で考えています。

一夫さん:僕自身は飲食店をやるにあたり、料理がおいしいのは大前提だと思っています。でも実際に食べておいしいと思うかは、お客さん次第。だから、おいしい料理を作る自信はあるけど、飲食店としてやっていく自信は、今でもありません。お客さんの声を聞きながら、常にいろいろなやり方を試しています。

一夫さん:味はもちろんですが、「湯佐ん家に来てよかった、楽しかった」と言ってもらえることが一番のやりがいであり、僕たちが大事にしている部分です。お客さんを見ていると、気さくに喋ったり笑ったりする、あの会話や雰囲気を楽しみに来るのだろうなと思います。食事は楽しくてなんぼです。どんなにいい料理でも、無愛想に出されたらおいしくないじゃないですか。普通の味つけでも、楽しくしていた方が、断然おいしくて楽しい。仕事としてやることはやるけど、お客さんとのやり取りは、休憩のような気持ちでやっています。まあ、単に僕がふざけているだけっていう節もありますが……。

一夫さんと早希さんの明るく気さくな人柄に、初めてでもリラックスして食事が楽しめる

一夫さん:常連さんから「早希ちゃんはいないの?」と聞かれて「俺ですいませんね」と返すこの会話を、笑いながらできる空間を作ってくれていたのは、早希さんなんです。うちの売りは、早希さんの笑顔。話しやすくて聞き上手で、よくここまでファンが集まるなと、びっくりしています。

早希さん:「お互いに覚え、覚えられる仲でいようね」という気持ちで接客してきました。私の顔やお店を覚えてもらうだけでなく、私もお客さんの趣味や好きな食べ物、どんな気持ちでここに来たのかを、知りたいと思いながらお話しています。最近面白かったのは、私には全く笑わなかったお客さんが、夫とはゲラゲラ笑ってお喋りしていたこと。悔しいですが、夫がホールに入るようになったことで、総じてお客さんを受け入れる幅が大きくなっていると思います。

早希さん:お店のSNSでは、あいまいにせず、できるだけ正直に発信するようにしています。産休に入るときやコロナになったときも、「少しお休みします」とだけ書くと、万が一何か起きた際に対応しづらくなったり、ごまかしている印象を与えてしまうかもしれません。正直に伝えることが、お客さんや私たち自身にとっての、安心につながると思っています。

2026年も挑戦の年に。おいしさ+αを味わえる「湯佐ん家」にぜひ来てほしい

ーこれからチャレンジしたいことを教えてください。
一夫さん:徐々に定食や蕎麦も復活していこうと思っています。今、新しい蕎麦のメニューにチャレンジしていて。うちの蕎麦は普段、蕎麦粉屋さんのおすすめでマッチ棒くらいの細さにしていますが、かけ蕎麦にすると食感も弱いし弾力が無くなってしまうんです。だから平打ちパスタのような麺にして、しかもかけ蕎麦ではなく、つけ蕎麦にしようと思っています。普通のおつゆと、カレーつゆや鶏ごぼうのつゆを一緒に並べて、味の変化を楽しめるようにしたいなと。ネギ農家さんから仕入れたネギを使ったネギ塩ダレを、おつゆに入れるとめちゃくちゃおいしいんですよ。普通はワサビとネギですが、大盛だと食べているうちに飽きてくるので、いろいろな楽しみ方ができるようにしたいですね。

平打ち麺のあたたかいつけ蕎麦は、食べ終わるまでいくつもの味を楽しめるよう開発中。「蕎麦は地元の舌になじむようアレンジしてきましたが、そばつゆを丁寧に仕込んでいて、その味だけはぶれることなく、軸として大切にしています」と早希さんが話してくれた

一夫さん:2026年は、出店を軸に営業するつもりです。知り合いにキッチンカーについて教えてほしいとアタックしているところで、外で営業できるようにしたいとも思います。

仕出しも考えましたが、お客さんと面と向かうほうが、僕は自信を持って提供できます。おいしい料理に、楽しさといった+αの部分を乗せていけるよう、これからも挑戦していきたいです。

早希さん:今までもいろいろやってきたのを見ているので、夫のどんなチャレンジにも驚かなくなりました笑。夫は軸がぶれない人。家族みんなで、いつも陰ながら応援しています。開店当初も「また失敗しちゃって」と売上が作れないのを見ながら、「そっか、またがんばれ!」と思っていました。

一夫さん:大越町は、市内や周辺観光地への通過点として立ち寄る人が多いです。だからこそ、湯佐ん家で楽しい時間を過ごしてもらうことで、「また来たい」と思えるきっかけを作り続けていきたいと考えています。さらにうちに来た人が、「あぶくま洞やムシムシランドにも寄ってみようか」と、市内のほかの場所へ足を伸ばす流れが生まれれば嬉しい。そんな拠り所をつくっていきたいです。

ー田村に移住してみたいと思われている方に、メッセージをお願いします。
早希さん:嫁いで来て思っているのは、地域の皆さんの人柄が温かいこと。長男は3歳で大越こども園に入園するまで、毎日お店に連れてきて、育児をしながら仕事をしていましたが、お客さんや地域の人が、長男の成長を共に見守ってくれました。赤ちゃんの頃は来る人みんなに抱っこしてもらい、「大きくなったね」と声をかけてもらったり、今でもスーパーなんかで「湯佐ん家の子とお母さんだよね」と話しかけてもらって、お喋りに花が咲いたりします。お客さんが来たら授乳を中断して接客したり、段差が多い店内を動き回る息子に目を配れなかったりと大変なこともありましたが、こうした田舎で、育児と仕事を完全に切り分けない良さみたいなものが、たくさんあるなと思っています。

店頭にある看板は、一夫さんが一枚板に文字を掘り、オープン時にお客さんに塗ってもらったもの

看板作りの様子。たくさんの人のあたたかさが、湯佐ん家を支えていることが伝わってくる

一夫さん:家族はじめ、地元の先輩や後輩、たくさんの人に支えてもらって、ここまでやってこれています。地元の人たち、あんまり食べには来ないけれど笑、見てくれているのは分かりますから。たまに遊びに行ってお話ししたり、アドバイスをもらったりして、「よしやるぞ!」っていう活力から始まる仕事もあります。お金云々とか、ご飯を食べに来た・来ないではなくて、周りの人の人柄に支えられて、僕もがんばろうと思えています。うちは、定まらない定食屋です。メニューを変更してみたり、焼肉重視にしてみたり、いきなりローストビーフを置いてみたり。これからも面白さを発掘していきます。友達の家に行くように「湯佐ん家、行くべ!」って、気軽に楽しみに来てください!

めし処より処湯佐ん家

住所:福島県田村市大越町上大越久保田23番地1
電話:080-7151-3389
昼営業:11:00~15:00(L.O14:00)
夜営業:17:00~22:00(L.O21:00)
定休日:不定休
HP:https://www.instagram.com/yusanchi0712
※ご予約・お問い合わせは、電話にてお願いします。

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