地方の運送会社と聞くと、「伝統的で保守的」「新しい変化が起きにくい」といった先入観を持つ方も少なくありません。しかし、三重県で50年以上の歴史を刻んできた多貴商運は、そうしたイメージを覆す会社のひとつです。

創業以来、自動車部品輸送という地域産業の動脈を支え続けてきた同社。その安定した経営基盤を背景にしながら、現在はドローン事業や社員へのAIリスキリング投資、さらには大学と連携した社会体験プログラム参加など、次々と未来志向の取り組みを進めています。
本記事では、Nativ.media編集部が代表取締役である東出 貴綱さんにお話を伺い、挑戦を続ける多貴商運の取り組みとその背景にある未来志向の戦略を紐解きます。

地域産業の動脈を支えて50年。未来志向の運送会社、多貴商運とは

—— まずは、多貴商運がどのような会社なのか教えてください。

東出: 多貴商運の創業は1972年で、三重県鈴鹿市を拠点に自動車部品を中心とした輸送事業を主軸に展開してきました。現在は約120名の社員を擁し、鈴鹿物流センターやサテライトオフィス瀬戸などの拠点を構え、中部圏を主な営業区域としています。

—— 50年以上続いてきた御社の「強み」はどこにあるとお考えですか。

東出: やはり「人材」です。運送業は人材がいないと、売上が成り立たない業種です。

ドライバーをはじめとする現場のスタッフが安定して勤務してくれているからこそ、今の多貴商運が成り立っています。また、父が創業してから積み重ねてきた実績や地域・お客様との関係性という歴史も、感謝すべき強みだと思っています。

—— 主軸の運送業を大切にしながらも、直近の10年は事業の多角化にも積極的ですよね。

東出:はい。会社としての差別化を図るために新しい取り組みに手を広げてきました。

具体的には、自動車部品輸送を軸としながら、鈴鹿市・守山市での倉庫運営や、自動車メーカーの一次サプライヤー向けの業務請負・人材派遣へと領域を広げてきました。単に「運ぶ」だけでなく、保管・管理まで含めて物流全体を支える体制を整えています。

さらに近年は、不動産事業や福祉タクシー、ドローン関連事業などにも取り組み、地域や顧客企業との接点を広げています。

話題性ではなく、未来を見据えて選んだドローン

—— 中でも社長がいま注力している取り組みのひとつにドローン事業がありますね。具体的にはどのような活動をされているのでしょう。

東出: グループ会社でドローンスクール「HKB」を運営しており、国交省認定の登録講習機関として大阪と京都で「一等・二等無人航空機操縦士」の講習を行っています。

さらに、昨年からは韓国発祥のスポーツ「ドローンサッカー」の三重県支部としての運営もスタートしました。

—— ドローンは世間でも注目される技術の一つですが、免許取得や実務管理の運用コストがかかり、きちんと事業運営するのは意外に難しいと聞きます。そんな中で、ドローン事業に踏み切ったのはなぜでしょう。

東出: もともとは地域の防災訓練に参加したことがきっかけで、地域貢献活動の一環になると考えました。

いまドローンに注力しているのは、こうした「地域との連携」と「空輸の可能性」の2つの観点からです。

まず、ドローンサッカーは年齢や体力を問わず楽しめる「次世代のバリアフリー・スポーツ」として世界的に注目されており、地域の学校やイベントでの体験会を通じて、若年層との関わりを増やす狙いがあります。

また、物流業界において今後は「空の輸送が進む」と考えています。国内の物流の動きが鈍くなっている中で、今後は従来のトラック輸送だけでは厳しくなることが予想されます。三重県には離島もあり、空輸活用の可能性があると考えているので、地域特性も考えると携わっておく価値があると思いました。

そして将来的に空の輸送が進むのであれば、社員にドローンの免許を積極的に取得してもらうことが、彼らのキャリアの選択肢を広げることにもつながると考えています。

ドライバーの仕事は体力勝負で、加齢とともに感覚が鈍る不安も出てきます。そうした時に、ドローンなら国家資格として年齢を問わず操作ができるので、身体への負担が少ない仕事の選択肢になればと思います。

2026年は効率化元年。AIリスキリングへの投資背景

—— 多貴商運の挑戦は事業の多角化にとどまりません。2026年を「効率化元年」と掲げ、テクノロジーを活用した業務改革も進めているそうですね。

東出: 業務効率化は昨年ごろから具体的に検討し始めました。以前から生成AIの進化は注目していましたが、ここ1~2年で「これは実務でも使える」と判断できるレベルまで来たと感じたことが大きいです。現在は事務所でもChatGPTなどのAIツールを少しずつ使い始めています。

この10年で運送業を取り巻く管理項目は膨大に増えています。労務管理、コンプライアンス対応…。本業に集中したくても、情報処理の負担が増え続けているのが現状です。

—— 増え続ける事務負担をAIで解決しようというわけですね。

東出: はい。例えば、プレゼン資料や見積書の作成、事故が起きた際の詳細な記録・報告など、過去に比べてボリュームが増している資料作成業務の手助けをAIにさせたいと考えています。

—— 社員に対してAIリスキリング研修を行うという大きな投資も決断されました。システムを外注して導入するのではなく「リスキリング」という形を選んだのはなぜですか。

東出: 当社にはまだ紙ベースの業務も多く残っており、外注システムの導入以前に、まず業務のデジタル化が必要な段階です。

だからこそ、「外部に頼りきるのではなく、まずは自分たちがAIを使いこなせる状態をつくることが先決だ」と考えました。まずは自分たちで業務を整理し、データ化し、どこにAIを使うべきかを見極める。その上で次の一手を判断していきたい。

そのためには、社員一人ひとりのAIリテラシーを底上げし、一定のレベルでそろえることが不可欠です。特定の担当者だけに依存するのではなく、組織全体で活用できる状態をつくるために、リスキリングという形を選びました。

まっさらな目線を歓迎。大学と連携するプログラムへの想い

—— 効率化に関連する取り組みとして、ZEN大学とフューチャーリンクネットワークが協業する社会体験プログラムにも参加されます。この取り組みについても教えてください。

東出:2026年2月後半から3月にかけて実施される「サプライチェーンDX体験プログラム」の受け入れ企業として参加します。学生さんが現場起点で物流プロセスを可視化し、業務フロー図の作成やDX提案を行うというプロジェクトです。

—— プロジェクトへの参加を決めたのはなぜでしょう。

東出: 若い世代や違う立場の人の目線で「この業務は無駄なのでは?」「こうしたらもっと効率よくできるのでは?」といった指摘をもらいたいと考えたからです。

私たちはどうしても業界の常識に縛られてしまいます。学生さんのまっさらな目線で切り込んでもらうことで、BPR(業務改革)のヒントが得られるのではないかと期待しています。

2026年2月後半〜3月に行われる、ZEN大学と協業の学生向け企業連携プログラム 多貴商運は受け入れ企業として参画する

—— 今回のプログラム参加について、社内の皆さんの反応はいかがでしょうか。

東出: 「斬新」「楽しみ」という声が多いです。日常業務だけでは得られない刺激になりますし、同じ目的に向かって学生さんと交流することは、社員にとっても成果が出ると楽しい経験になるはずです。

また、ローカルなエリアで活動する当社を広く知ってもらう、PRや採用面でもポジティブな影響があればと考えています。

拡大ではなく「備え」10年後も生き残る会社であるために

—— 歴史ある企業でありながら、他社・地域との連携や、新しい事業・取り組みを積極的に行い続けています。背景にはどのようなお考えがあるのでしょうか。

東出:様々な取り組みをするなかで、常に考えているのは「10年後も会社が生き残るためには?」ということです。

運送業界はドライバー不足、労働時間規制などの様々な課題を抱えており、今後5年~10年で事業者の数は確実に減っていくといわれています。

その中でも当社が生き残るためには、同業他社や地域の中での差別化が不可欠ですし、基幹事業である運送業を支える人材にとって魅力的な職場であり続けることが重要です。

新しい事業や取り組みを決める時にも「右肩下がりになる事業ではなく、将来も需要が落ちないのか」「当社の事業を支えてくれている社員や地域の皆様にとってメリットがあるのか」という点を考慮するようにしています。

また、他社との協業や地域との接点も大事にしているのは、同業界の業務の延長線上では得られない新しい交流が社員の刺激や営業の幅を広げることにつながると考えているからです。

—— 流行っているからやる、というよりも未来を見据えた「備え」の冷静な選択という印象を受けました。

東出: そうですね。将来どうなるかわからない中で、少しずつ選択肢を増やしておきたい。それが結果として、社員や地域にとってもプラスになればと思っています。

—— ここまでで、多貴商運の取り組みとその背景について紹介してきました。

一見すると大胆な取り組みの数々ですが、その根底には、派手な成長戦略よりも「安心して続けられる会社であること」への想いがあります。次回記事では、その“居心地”へのこだわりに迫ります