「観光地を巡る、それだけの旅ではどこか物足りない」
そんな感覚を抱いたことはありませんか。
名物を味わい、写真を撮り、帰路につく。けれど数年後に思い出すのは、風景よりも“誰と笑ったか”だったりします。今回お話を伺ったのは、兵庫県在住のYさんとHさんです。おふたりは普段から一緒に旅行をする仲なんだそう。

お二人が茨城県鉾田市(ほこたし)と出会ったのは2025年のこと。
体験型の旅プログラム「タイミートラベル」(*)を通じた農業体験が、最初の入り口でした。そして今回お二人は「チイオシ鉾田市プロジェクト」の農業体験をきっかけに、兵庫県から茨城県へおよそ600kmの距離を越えて再び鉾田市を訪れます。なぜ遠く離れた鉾田市へ“もう一度”足を運んだのでしょうか。その理由についてお聞きしてみました。
(*)タイミートラベル…タイミートラベルは、地方での仕事や生活の体験を通じて、滞在費を賄いながら第二の故郷を見つけることができるサービス。2025年4月30日をもってサービス終了している。
「旅行をしたい!」から始まった、ごく自然なきっかけ
——本日はインタビューのお時間をいただきありがとうございます。お二人が最初に鉾田市を訪れたのは、2025年の「タイミートラベル」がきっかけだったと思うのですが、なぜ行こうと思ったのですか?
Hさん:気持ちとしては、旅行したいなっていうのが一番だったと思います。学生だったのでできるだけ費用を抑えて、行ったことのない場所に行こうって。Yさんがいろいろ調べてくれて、“これどう?”って引っ張ってくれた感じです。
Yさん:私は大学時代に47都道府県制覇を目指していたのですが、茨城には行ったことがなく、行きたいなってずっと思ってて。そのときにちょうどタイミートラベルの募集を見つけて、“これはいい機会やな”と思って応募しました。
——最初は「旅の目的地」の一つだったんですね。その時実際に参加してみて、特に印象に残っていることは何ですか。
Yさん:人参の収穫体験ですね。毎日食べているのに、どうやってできているか考えたことがなかったなって。人参ってこうやって育つんだって、自分の視野が広がった感じがしました。
Hさん:僕は交流会が一番記憶に残っています。地域の方や農家さんと一緒にご飯を食べて、お酒を飲んで。普通の旅行では、現地の人とこんなに深く、長い時間語り合うことなんてないじゃないですか。その時間の濃さが、これまでの旅とは全く違いました。
「人」が中心にある旅
——普通の旅行と違うと感じた点はありますか。
Yさん:やっぱり、一番は“人”だと思っています。普通の旅行だと、見るとか食べるとかがメインになりますよね。でも人と過ごした時間が一番印象に残っているんです。
Hさん:現地の人とここまで深く関わるというのは、普通の旅行ではなかなかないことかなと思うので、そこが最も違うと感じた点であり魅力でもあると考えています。
離れていても続いた繋がり
——一度目の訪問が終わって、兵庫に帰ってからも、鉾田市の存在は二人の中に残っていましたか?
Hさん: ありましたね。日常生活の戻ってからもふとした瞬間に「あの時の豚肉ナポリ(*)、もう一回食べたいね」と話したり…、二人のなかで過去一番思い出深かった旅行といえば、間違いなく鉾田市でした。
Yさん: タイミートラベルの際お世話になった、五右衛門.farmの菅谷さんご夫妻とは、ずっとSNSで繋がっていたんです。私が就職して、東京で2ヶ月間の研修をしていた時、「ちゃんとご飯食べてる?」ってメッセージをくださって。
——まるで本当のお母さんみたいですね……!
Yさん: そうなんです。私がSNSに投稿するたび必ず「いいね」をくれるし、家族のように接してくださる。大人になると職場や家族以外で甘えられる「第三の居場所」ってなかなか作れないと思うんですけど、私にとってはそこが鉾田市でした。
(*)豚肉ナポリ…鉾田市内にある飲食店「洋食亭ときわ」で食べられる鉾田市のソウルフードの一つ。地元産豚肉「だいじょ豚」を使ったナポリタン。
再訪の理由は、観光地ではなく「人」
——そして今回、また鉾田市に来ようと思った理由は何でしたか。
Hさん:五右衛門.farmの皆さんと、現地コーディネーターの坂田さんにもう一度会いたかったからです。
——二度目の体験はどうでしたか?
Hさん: 1回目に訪れたときには、五右衛門.farmのみなさんと初対面だったので、どうにかして仲良くなっていきたいなっていう関係性の構築の方に気持ちが向いていたんです。だけど、今回はすでに関係性ができていたので、農業体験そのものに集中できる余裕がありました。人参の種類によって色が全然違うことに感動したり…。

Yさん: 私は、今年は最強寒波の影響で土が凍っていて、おととし来た時よりも人参を抜くのが大変だった!というのが印象的でした(笑)。でも、そんな厳しさも含めて現地に来ないとわからないことだな、と。

鉾田市の名物を囲んだ初日の夜
——初日の夜は五右衛門.farmの菅谷さんご夫妻や、そのお子さんたちも交えた交流会があったそうですね。

Hさん: あの時間は本当に最高でした。訪れたお店の店主さんが菅谷さんと仲が良いそうで。菅谷さんが持ち込んだ人参とサツマイモを使って、特製のかき揚げを作ってくれたんです。それがもう、とんでもなくおいしかったです!今まで食べたかき揚げの中で、間違いなくトップレベルでした。

Yさん: 農業の話だけじゃなくて、将来の話とか、家族の話とか、普通のことを普通に話せたのが嬉しかったですね。
Hさん: 今回、1泊2日の滞在を通して他の方とも関わってみて確信したのは、『鉾田市の人の温かさは、たまたまじゃなかった』ということです。前回は五右衛門.farmさんが特別に温かく親切なんだと思っていました。しかし、五右衛門.farmさん以外の農家さんも、みんなが“おかえり”という雰囲気で迎えてくれる。その懐の深さが鉾田市の普通なんだな、と感じました。
Yさん: だから、また来たくなるんだと思います。
「離れていても…」これからの関わり方
——今回、再び鉾田市を訪れたことで、この先どのような関わりをしていきたいと考えるようになりましたか。

Hさん:単純に、これからも支援や関わりを続けていきたいなと思っています。ふるさと納税もそうですし、離れていても自分にできる方法でこの町を応援していきたい。今までは特定の地域に対して「ここに関わっていきたい」という強い気持ちを抱くことはなかったのですが、前回の、そして今回の旅を通して、お世話になった分を何らかの形で還元したいと思うようになりました。
Yさん:具体的なことはこれからですが、まずは自分の周りの人に、鉾田市という面白い場所の話を伝えていきたいです。友人との会話で旅行の話題になったとき、鉾田市の話はこれからもたくさん出るだろうなと思っています。

——お友達に鉾田市を案内するなら、どこに連れていきたいですか。
Yさん:やっぱり、まずは五右衛門.farmさんを紹介したいです! それから、鉾田は作物が本当に魅力的なので、素材を活かした美味しいものを食べてほしい。いちごの農家の村田農園さんが経営するカフェ「畑のラウンジ Hati-Hati」のいちごシェイクとか……地場のものを味わえる場所に連れていきたいですね。いつか、自分にできる形で地域の魅力を発信し続けていけたらなと思っています。

参加を迷っている人へお二人から
——今後も同様のプログラムが実施される際、参加を迷っている方へお二人ならどんな声をかけますか。

Hさん:迷っているなら、まずは「行って、食べてみて」と言いたいです。若い世代だと特に農業体験と聞くと少し身構えてしまうかもしれませんが、入り口は「美味しいものを食べに行く観光」でいいと思うんです。ご飯を食べに行くついでに体験してみよう、くらいの気持ちで。でも、そこで実際に地域の人と関わってみれば、その良さが分かって、気づけば沼っていくと思うんで…。何も考えずに、まずは飛び込んでみてほしいです。
——沼る!?(笑) まずは気軽に、ということですね。
Yさん:私も、絶対に行ったほうがいいよって言います。普通の旅行や観光よりも、普段できない貴重な経験ができるし、深い人との関わりも持てる。絶対に一生の思い出に残る良い旅になると思います。

——お二人の言葉には、経験者としての強い説得力がありますね。本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。
編集後記

「47都道府県を制覇したい」「なるべく費用を抑えて旅行したい」。お二人が最初に鉾田市を訪れたきっかけは、そんな日常の延長線上にある発想からでした。地域と関わる入り口は案外、誰もが持っているありふれたものなのかもしれません。しかし、そこから一歩踏み込んで、現地の人と同じ食卓を囲んだからこそ、二人はただの観光地とは違う深く特別な関係を感じています。インタビュー中、お二人が鉾田市について語る様子は、「移住」や「地方創生」といった大きな主語ではなく、もっと身近な、仲の良い親戚の家に遊びに行くような感覚があるのだろうな、と思っていました。遠く離れた茨城県という場所に、自分の体調を気にかけてくれる人がいる。そんな何気ないやり取りの積み重ねが、お二人の言う「沼る」という感覚を作っているのだと思います。関係は、つくるものではなく、育つものなんだと改めて感じた時間でした。「おかえり」が聞きたくて。 その一言のために、また飛行機に乗る。 そんな地域があること自体が、何よりの価値なのだと感じます。お二人の3回目の鉾田市訪問の際には、またどんな新しい景色や繋がりが育っているのでしょうか。追いかけつつ、私たちも次なる企画のヒントにしていきたいと思います。
粒度は違えど「地域との関わりを持ちたい」と思っている多くの方々に、こういった入りやすい入り口をどのように提示していくのか。感じるハードルは人それぞれ違うからこそ、私たちも考え続けねばならないと感じました!ここまで読んでいただきありがとうございました。
文責:ネイティブ.メディア編集部 室井




