関係人口創出への取り組みが、各地で加速しています。同時に、やはりどの自治体でも大きな悩みのタネのようです。
正直、まだ「移住促進」と割り切ったほうが、やりやすいといえば、やりやすい。その「移住促進」の成果がなかなか見えにくいからこそ出てきたのが「関係人口」という言葉でもあるので、悩ましい堂々巡りです。
関係人口創出は、「どこでも、これをやればいい」という単純なものでは当然ありません。
しかし各地の状況をいろいろと見ていると、あきらかに「これはやらないほうがいい」と思える悪手(あくしゅ)に陥っていると思えるものが散見されます。
あくまで私見ですし、狙いが全て見えているわけでもないので決めつけるつもりはありません。でも敢えて”難しい方へ”行く必要もないのは確か。そういう観点で感じたことを共有してみます。

その① 「ふわっとしたサイト」を立ち上げること

関係人口の創出で最も難しいのは、その活動や目的に関する情報発信です。これが本当に難しい。
発信の手段は、当然インターネットが主になります。しかしこれが「関係人口」となると難易度が非常に高いのは事実です。

というのも、ウェブサイトは主に「検索」でアクセスされるもの。ということは、どんな「検索キーワード」でアクセスさせるかはっきり狙いを定めないと、いわゆるSEO対策が打ちにくいのです。「移住促進サイト」なら「地域名+移住」を柱に記事を増やせば、まあまあ狙っているユーザーが集まりますし、自治体が主催ということであれば、検索結果の上位表示も狙えなくはありません。しかし「関係人口創出」を直接的なテーマにすると、そうはいきません。なぜなら、「地域名+関係人口」などと検索するのは自治体関係者くらいなものでしし、明確な目的がないまま、まずは「この地域は色んな人が、いろいろ活動してて、いいところです」的なことを「ふわっと」訴求するサイトを立ち上げても、それを目的に検索させるのはほぼ不可能なのです。
実はすでに、そういうサイトがかなり立ち上がっています。しかも実は、その内容自体はなかなかの力作で、読めば面白いものもあります。なのにアクセスが増えないという事例が極めて多いのです。もちろんアクセス数だけが目的ではないし、次のシナリオが想定されていれば別です。しかし各地でこの悩みに陥っている事が多いのも事実です。

厳しい言い方をしてしまえば、これはやはり「集客」を見据えたデジタルマーケティング戦略を描ききれていないという事の証でもあります。
例えばお店をかまえるときには、どんな店にして何を売ろうかだけではなく、どうやって集客しようかをまず第一に考えます。しかし、いまだにWebサイトやSNSなどのネット施策は、つい「誰もが見られる=誰もが見てくれる」と勘違いを拭いきれていないようです。どんな目的のサイトも、どうやって集客するかを「先に考える」べきです。
その地域で、どういう狙いで、どんな人達を関係人口として集めたいかといういう戦略が曖昧なままに、「まずは情報発信だ」という意気込みを先行させると、アクセスがあまりに少なく、返って自信を喪失しかねません。だからこそ、この点は特に注意すべきです。

技術論以前に一般論として、この情報過多の時代に、曖昧な主張はますます届きにくくなっているのも事実です。

その② 「ワークショップ」に逃げること

いま全国で、地域課題をテーマにする様々なコミュニティや会議、セミナー、ワークショップが盛んに行われています。もちろんそれはそれで有意義なものも沢山あるでしょう。(それ自体を否定するものでは決してないので、誤解なきようお願いします。)
しかし、それらが「まずは始めるのが重要だ」とか、「課題を洗い出すため」とか、あるいは「参加型にするために」などという枕詞で行われているとしたら、かなり問題です。そうしたイベントの多くは、ほとんどが徒労に終わるからです。逆に有意義なものの多くは、次の方向性が(仮説でも)明確で、やや強引なくらいリードされる感じのものか、あるいは参加する人のレベルが非常に高く、限られた人で高次元の議論や価値観の共有を目指すもののどちらかです。

よくあるのが「地域課題を持ち寄ってください」という投げかけで始まったり、「この課題について解決策のアイデアを出してください」というような構成で企画されたワークショップ・イベントです。もちろん問題意識が高い人達もある程度集まるでしょうし、議論はそれなりに盛り上がることもあります。ちょっとセンスのいいファシリテーターが進めると、それなりに面白くなることもあります。しかし冷静に振り返ると、そこでなされた議論の多くは、これまで自治体内や関係者などでさんざん議論して、それでもなかなか現実的に着手できなかったことを辿る程度の「体験」に過ぎません。もちろんそれによって新たな仲間を見つけたり、意識の高い人を見つける機会にはなり得ます。しかし、それ以上でもなく、それ以下でもない場合があまりにも多いのが現実です。こうしたイベントが、場合によって数百万円とか、場合によっては数千万円とかの予算で行われていることもあります。これはやはり、どう考えても費用対効果の説明はつきません。

イベントは「やった感」があるのが本当に危険です。目的を明確に見定める注意がことさら重要な選択肢です。

その③ 「関係人口」を直接募集すること

「関係人口になりたい人、集まれ」という直接的な募集が、未だに散見されます。もしかしたら、そういうやり方で、今までは結構いい人材が集まってきた地域もあったのかもしれません。しかし少なくともこれからは2つの理由で、この手法は多くの場合避けるべきかと考えます。

ひとつは、今までそういう投げかけて反応してきた「地方創生」イノベーター的な人材が、どうやらほぼ出尽くした感があるからです。もちろん若い人たちの中からそういう人も一定数生まれては来ると思いますが、数的にはかなり少数です。地域おこし協力隊の募集が各地で難しくなっているのも、同じ理由なのではないかと想像します。「うちの地域は困っているので力を貸してもらえませんか? つきましては関係人口(もしくは、〇〇応援会員)になって定期的に来訪して課題解決しませんか?」というような募集の仕方は、これからは増々効率が悪くなるはずです。

もう一つの理由は、そもそも「関係人口」自体はあくまで”手段”であって、”目的”ではないからです。目的はあくまで「地域の発展」であって、そこには明らかに「どう発展させたいか」という明確な意思と戦略が不可欠です。そこが無いまま「とにかく関わって」は無いなと。敢えて男女づきあいに例えて言うなら、「将来、こういう家庭をつくりたいから結婚も視野にいれて、(もしくは結婚という形式にはこだわらないでいいから)付き合ってもらえませんか?」と言うべきです。それもなく、ただ「関係を迫る」のは、やっぱりよくないですよね。(表現が不適切かもしれませんが…)

以上が、最近特に強く感じる「避けるべき」施策です。限られた予算と時間と人員のなかで、当然避けられるリスクは避けたい。3つの悪手に共通するのは、手段として何を選ぶかより、(可能性を含めて)それを経て成し得る目的が不明確なこと。これは何をするにも当然重要です。関係人口創出という課題設定が難しいだけに、手段の目的化に陥らないよう、最大限注意する必要があります。

文:ネイティブ倉重

【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。