お笑い芸人「ねじ」のササキユーキさん、せじもさんによる「秋田住みますプロジェクト」が、今話題になっている。
2人は“秋田県出身芸人”として活動しており、「アニメを秋田弁で再現するネタ」などでテレビ番組出演の実績もある。
2人は2019年5月11日、YouTubeねじチャンネルで「秋田住みますプロジェクト」を発表。これは、ねじが2019年9~10月の2か月間秋田に住み込み、お祭りやイベントに無料出演するというプロジェクトだ。2か月間の滞在費や単独ライブの会場費などはクラウドファンディングで集めており、8月24日には目標金額120万円を突破した。
また、プロジェクト発表後は地元でのオファーが相次ぎ、集大成として11月1日には秋田市文化会館大ホールで1200人規模の無料単独ライブ実施も決まっている。(クラウドファンディングは目標金額達成後も、9月8日まで受付予定。詳細はこちら)
2人の活動は、お笑いファンだけではなく秋田県内からも大きな期待を寄せられている。今回は、2人にプロジェクト実施の経緯や秋田への想い、お笑い芸人としての活動について話を聞いた。
「秋田住みますプロジェクト」に懸ける想い
―なぜ「秋田住みますプロジェクト」を立ち上げたのでしょうか?
ササキ:芸人としての武器を明確につくりたいと思ったからです。秋田と言えばねじ、ねじと言えば秋田、というのをちゃんと確立させたいと思って。自己プロデュースの一環ですね。
僕たちは秋田弁のネタでメディアに出ることも多いのですが、どれだけ秋田で認知されているんだろうと考えると、まだまだだなと。
秋田の人たちと接していると、若いタレントのパワーが求められている、と感じるんですよ。東北は若者離れが進んでいますが、秋田はその中でも特にそれが激しい。僕らが小さいときに見ていたローカルタレントさんが、いまだに第一線で活躍していて、新しい人があまり出てきてないんですよ。これって、僕らにとってはチャンスだけど、秋田にとってはピンチじゃないですか。
これは是非僕らがやるべきだなと思って。ちゃんと秋田を背負える芸人になりたい、という想いがあって、このプロジェクトを始めました。
せじも:秋田を盛り上げてきたタレントさんの後ろに、僕らも続いていかないといけないと思ってます。
ササキ:元々、地方に芸人を送るということ自体は他事務所では結構ある動きなんですよ。でも他は事務所主導でやっているので、僕らも最初は「そういうことがあれば良いよね」と思ってました。
でもやっぱり、待っていてもそういう話が来るわけではない。じゃあ、試しに2か月住んでみよう、と。この「芸人主導で地方に行く」というのは、若手芸人の中では初の試みだと思います。
―東京を主戦場としている芸人さんが2か月東京を離れる、ということに不安はなかったんでしょうか?ちょうど賞レースの時期でもありますが……
ササキ:目標のためには2か月くらいは必要だろうと思いますし、迷いはありませんでした。
僕らはコント師なので、キングオブコントに向けてすごく頑張っていたんです。でも去年のキングオブコント決勝の日、驚愕の事実が発覚しまして……その日はたまたま仕事で秋田にいたんですが、放送されてなかったんですよ。
せじも:TBSが流れてないんです。
ササキ:キングオブコントと秋田は、どちらも僕らが頑張りたいと思っていたこと。でも、矛盾とまではいかないけど、この2つがリンクしていないことに気付いたんです。
それで「切り離して考えよう」と去年のキングオブコント決勝の日に決めました。9・10月は秋田のお祭りや文化祭が多い時期なので、行くならこのタイミングで行きたかったんですよ。賞レースだから行くのやめよう、という考えにはならなかったですね。
せじも:実際、お祭りのオファーはすごく多いですね。やってみないと分からないことがたくさんあります。
ササキ:名刺の必要性とかね。多分、東京の若手芸人で名刺持っている人っていないんですよ。でもローカルでやっていくにあたって、名刺を持ってないって話にならないんですよね。
せじも:ちょっと笑われたもんね。
ササキ:「どうやって連絡すれば良いの?」って言われて。確かに、自分たちで動いていることなんで、事務所じゃなく直接連絡してもらった方が良い。文化祭の件もそうですけど、1から勉強することばっかりです。
―イベントに2人をお呼びすることも単独ライブを観ることも、無料ですよね。どうして無料にしたんですか?
ササキ:僕たちの目的は「秋田の人にもっと知ってほしい」ということと、「秋田の人たちが応援してくれるような存在になる」ということ。そう考えたとき、お金は良いや、って思えたんですよね。無料にすることで呼びやすくなるんなら、全然いい。それから、秋田にはお金を払ってお笑いを観に行くっていう習慣が無いので、少しでも行きやすくなるなら良いかなと。とは言え滞在費はかかるし、2か月間収入が途絶えると、その後の生活にも支障が出るし、コンビの存続にも関わる。そういう経緯でクラウドファンディングを始めました。何もかも手探りで、行き当たりばったりでしたね。
せじも:あまり利益にはこだわってないです。
―全国展開している会社ではなく、秋田のクラウドファンディング会社と一緒にやっているというのも良いですね。
せじも:最初は悩んだんですよ。元々有名な会社を使ったほうが良いのかなとか。
ササキ:でも僕らのやっているプロジェクトの性質上、秋田にクラウドファンディングをやっている会社があるのにそれを無視する理由は無いですもんね。「FAN AKITA」さんのことを僕らきっかけで知ってくれた方もいるかもしれないですし、微力ながらそういうところでも力になれたらと思って。地元を少しでも盛り上げられるならばという一心です。
―「FAN AKITA」さんのことはどのように知ったんでしょうか?
ササキ:秋田情報を発信している「WE LOVE AKITA」というサイトの方が情報を集めてくれました。この人バイタリティが凄くて、秋田を盛り上げたくてしょうがないんですよ。僕らのプロジェクトの話をしたら「なんでもいいから手伝わせてくれ」ということになって。
せじも:その方が地元企業「八郎めん」の社長を紹介してくれたんですが、この方にもかなりお世話になりました。
ササキ:社長には、いろんな方を秋田で紹介していただきました。制作会社さんとか、役場の方とか、ローカルタレントさんとか。本当に、まわりの人に恵まれてますね。
秋田の人と一緒に、秋田を盛り上げたい
―そもそも、お2人はどうして秋田から東京に出てきたんでしょうか?
ササキ:元々は、秋田があんまり好きじゃなかったんですよ。
せじも:選択肢が少ないからね、やりたいことに対して。田舎だから。
ササキ:秋田にいると、やれることに限りがあると思ってました。僕らは農業高校出身なんですけど、やっぱり卒業後の選択肢って限られてて。高校卒業後、東京アナウンス学院お笑いタレント課に進学したんですけど、すごい浮いたんですよ。「こんな選択するやついるの?」って。それが凄く嫌でしたね。夢見ることが恥ずかしい、とまでは言わないですけど、変に目立っちゃうというか。「お笑いがやりたい」って言っても、「お笑いってやるものじゃないでしょ、見るものでしょ」みたいなノリ。それが凄く嫌で……「ここにいたら夢が見れない」って高校の時思ったんですよ。それで飛び出して。でも、僕らが秋田を出て15年の間に変わったと思います。
せじも:今はネットが普及してるし、YouTubeとか表現方法がありますから。
ササキ:地方から発信することが当時よりも簡単になってるから、風通しがすごく良くなってるんじゃないかな。だから秋田でローカルに活動することも、規模の小さい話ではないという時代になってきてますよね。もし地元が嫌だと今思ってる人がいたら、1回出てみたら良いと思います。じゃないと分からないことがめちゃくちゃあるし、地元にいて「地元が嫌だ」と言ってても視野が狭くなっちゃうから。1回離れてみたら絶対良さが分かるし。
せじも:外に出て、地元の良さを広めていくっていうこともできるしね。
ササキ:かえって地元の人と触れ合うことが多くなって、「秋田を盛り上げたい」って思ってる人がすごい多いんだということを知って……力になりたいというか、一緒に頑張りたいと思ってます。そう思ってる人たちと、一緒に秋田を盛り上げたい。
普通だと思っていた「秋田弁」が武器になる
―最初から秋田弁のネタをやっていたわけではないんですよね。いつ頃からやり始めたんですか?
ササキ:ねじになる前はトリオで活動してて、その後期ですね。7~8年前。
せじも:仲の良かった作家さんに「やってみたら」って言われたんですけど、最初は何がおもしろいのか分からなかったですね。秋田弁で話すっていうのが、僕らにとっては普通過ぎて。
ササキ:面白いと思えるようになるまで、結構時間かかりましたね。秋田弁の面白さを俯瞰で見れていなかったんで。
―東京では「何を言っているのか分からない」ということも笑いのきっかけになると思うんですが、秋田ではどんな笑いになるんでしょうか?
ササキ:秋田でやると、「何言ってるのか俺たちは分かるから面白い」って言ってくださるんですよ。「さすがに秋田の人でも分かんないわ」って笑ってくれることもありますけど。
せじも:終わった後に「うちではこういう言い方をするよ」と話しかけてくれたりとか。
ササキ:特にお年寄りは喜んでくれますよ。「今の子が秋田弁使ってけだ(使ってくれた)」みたいに。あと、ボケが現実を超えてくる、みたいなことがよくあります。
せじも:「東京は治安が悪くて怖い」というのに対して、「秋田の夜道は怖い、ちゃんと熊が出る」っていうボケがあるんです。そしたら、それをやった日の夜に熊が新幹線にぶつかるっていう事件が起きたりとか……。
ササキ:秋田は面白いです。2か月秋田に住んで東京に戻ってきたら、もっと面白いボケがたくさんできるんじゃないかと思いますね。
ローカルタレントではなく、アンテナショップのような芸人に
―今回、プロジェクトの集大成として無料単独ライブをやりますよね。どんなライブになる予定なんでしょうか?
ササキ:単独ライブでは秋田弁のネタももちろんやりますけど、そこにこだわらずやりたいなと思ってます。僕らはローカルタレントになりたいわけじゃなくて、アンテナショップみたいな芸人になりたいんですよ。東京で15年活動した僕たちがやれることって、東京から秋田のことを広げていくことだと思うんですよね。そして、それって僕たちにしかできないことじゃないかなと思ってて。だから、単独ライブも「僕らは東京でこういうことをやってますよ。東京で秋田を広めていきますよ」ということを見せられるようにしたいんです。僕たちのスタイルを見てほしい。
せじも:単独だし、普段やらない30分の長編ネタとかもやりたいですね。
―会場は1200人規模ですよね。これを満席にできたら、すごくかっこいいですね。
ササキ:満席にできるイメージしか沸いてないです。そういう経験があるわけじゃないので怖いですけど、いける気がします。僕らはできると信じてます。
―ライブに来る方も、東京とは全然違う層になりそうですね。おじいちゃん・おばあちゃんとかも来ていただけそう。
ササキ:お客さんの層は違うと思いますね。
せじも:「ねじはできるんだぞ」っていう心意気を見せたいです。
ササキ:2か月間24時間お笑いのことだけ考えられるっていうのはなかなか無いので楽しみですね。15年間でそんなことは初めてだし、ずっと2人一緒にいるから、考えざるを得ない。結構純度の高い2か月間になるんじゃないかな。
―最後に、プロジェクト終了後の目標を教えてください。
ササキ:これは目標と言うか、絶対ならなきゃいけないと思ってるんですけど、出身地である潟上市の観光大使になりたいです。それから、2か月秋田でやった結果を踏まえて、東京のテレビにもっと出たいです。秋田を背負ってやってる芸人という説得力を2か月でつけて、それを持ってテレビに出たい。それが秋田の人たちへの恩返しになると思うので。キャラクターとして、「ねじ=秋田」を確立して、ネタ番組にたくさん出たいですね。
せじも:あと、秋田のCMに出たいですね。秋田の人たちが知っているものに出る、それが重要ですね。それで、間に立てるような存在になりたいと思います。うまい言い方わからないですけど、関わる人を増やしていくというか。秋田の人にも、外にいる人たちにもアピールしていかないと。
ササキ:僕らにとって、これは人生変えるプロジェクトですから。人生変えたいなと思います。
【プロフィール】
ねじ
秋田県潟上市出身のササキユーキさん(右)・せじもさん(左)のコンビ。県立金足農業高校で出会い、卒業後上京してお笑い芸人に。トリオとして活動後、「ねじ」を結成。東京でのライブ出演を中心に活動しており、ネタだけではなくMCとしても活躍。コント師。ケイダッシュステージ所属。
主な出演番組:秋田朝日放送「秋田県立いぶり学校中等部」(ナレーション)、BSフジ「冗談騎士」、日本テレビ「ZIP!」、テレビ東京「にちようチャップリン」など
・ねじTwitter:@neji_sasa_seji
・せじもさんTwitter:@5E_J1_M0