残業しない、生産性を上げる取組みを評価する

ー組織運営においては、生産性の向上も目指されています。成果は出ていますか?

残業を減らす数値目標を設定しています。各部ごとに3年くらいの実績を見ながら部ごとの目標を作って、部の中で課ごとのを作って。職員が残業目標を守っていないと管理職の人事評価に反映されるということにしています。3年ほどやってきて、全体で10万時間を超えていた残業時間が、7万時間を切る程度まで減ってきています

残業時間減らすことで、業務を細かく改善して生産性を上げる必要性が出てきます。残業の話がきっかけになってそういうことをやってくれていると思うし、まさに狙いの一つでもあります。でも大きな目的はやっぱり地域に出て行くことですね。市役所に閉じこもって残業ばかりしていないで、家族サービスも良いし、自己研鑽も良い。とにかく地域に飛び出す時間に充ててもらいたいですね。

中央省庁ではなく、地方自治体から日本を変えたい

ーところで、どうして中央省庁の官僚を辞して地方自治体のトップになられたのでしょうか?

僕にとって、市のトップは天職に近いと思います。国から変えられることは今でもあると思っているんですけど、市長として変革に取り組むのが自分のキャラクターに合ってます。僕らは基本的に市民に幸せになってもらって、立候補して選挙で当選するという基本的な行動パターンがあります。人とのお付き合いで自分のことが認められて、それが票になって信任されるという流れが好きですね。

中央省庁にはもちろん優秀な人たちがたくさんいて、それぞれ意欲を持って世の中を良くしようと働いている官僚ばかりなのは人一倍理解しています。中央省庁で公務員をやっていた身としては、生駒市でやっていることが横で広がって日本全体でいい形になっていけば嬉しいなというのはとてもあります。

ーアメリカでの経験も生きている

例えばアメリカのサンディスプリングスという街は、人口10万人程度の自治体に対して、市長と6人の市政委員で運営しており、行政サービスの大部分を民間に委託しています。日本でどこまで実現できるかは分かりませんが、市民の力を引き出していくのが理想です。

アメリカに住んでいた頃に、僕の家の近くに公園があって、予算がなくなって工事が止まったんですよ。そこから工務店が勝手に遊具とか設置して完成させてしまいました。日本だったら安全性とか大丈夫?ってなるけど、遊具とか設置して市民が作っちゃうみたいなところは驚きました。自分たちで街をなんとかしようという意識はすごくありますよね。

ーアメリカのシビックプライドを生駒市でも取り入れていきたい?

シビックプライドと言うのかは分かりませんけど、例えば図書館がこうなったら良いな、音楽祭もこれからの文化やろって、市民から提案を受けるんですね。僕よりよっぽど詳しいから「一緒にやろうよ」って言うと結構やってくれるんですよ。ワークショップはそういった市民のスカウトの場になっています。「自治体2.0」が地域住民=お客様という公共サービスであるならば、官民連携で一緒にまちづくりしていくのが「自治体3.0」のあるべき姿なのではないでしょうか。

自分たちでやってもらう方が、自分たちがやりたいことができます。さらにハッピーだし生駒いいよねってなってくれたら、行政も支援できます。アメリカと日本の良いとこ取りですよね。もちろん僕らも行政でやらなくてはいけないことは本気でやるから市民も動いてくれる部分もあるので、気は抜けません。

変化のプロセスも
トップダウンからボトムアップへ

ーこういった行政改革は市長のトップダウンでやってる?

僕自身も2.0から3.0へと変わっていかないといけない。2.0はトップダウンなんですよね。それが必要な時期もあると思うんですけど、それぞれに任せていく3.0に移していきたいと思います。もちろん僕が全部正しいとも思わないですし。いろんな人の話も聞きたい。市民がいる現場に意識的に行っているのは、そういうことです。

今年に入って、ある程度、各部長に任せることを始めています。4月のはじめに「常識を破壊する」みたいな話をして、副業とかAIとかITとか、そんなことを含めて去年と同じことを続けるのは絶対ダメと言いました。そういった未来予測を踏まえて、各部の目標をそれぞれ考えて持ってきてもらいます。そこで何が出てくるか。また箸の上げ下げのようになるのかとかちょっと見てみようかなと考えています。楽しみですね。


副業解禁や子育て支援をはじめ、斬新な採用ポスターや、最近では受動喫煙防止のために喫煙後45分間エレベーターに乗ることを禁止するといった話題がメディアを騒がせる生駒市。時代の半歩先を行くようなメッセージ性のある政策を効果的に打ち出すとともに、それぞれ民間団体と協働することで具体的な取組みに落とし込んでいます。

先進的な官民協働の取組みを進める小紫雅史市長は、地域住民参画型のまちづくりこそが自治体3.0=未来の自治体のあるべき姿だと説きます。実際に数多くの取組みを民間団体に委託し、その結果生駒市に対する愛着度や定住意向が高い水準を示している相乗効果が生まれています。まさに民忠誠度を高めながら内政を充実させていく政治手法と言えるでしょう。

まだ一期目ということで、地域内のイベントには積極的に顔を出す一方で、地域外に出て行くことには消極的な印象も受けました。しかし、市長が内政に専念できているのは、「いこまの魅力創造課」を創設し、役所の外に攻めるチームを強化したからこそ。

連載「今、注目したい市町村の”クニ”づくり」 奈良県生駒市編第二弾では、その「いこまの魅力創造課」の大垣弥生課長補佐にお話を伺います。

生駒市編第二弾「広報誌革命に続いてオトナ女子会を事業化。 前例に捉われない実践で市民の地元愛を育む」も合わせてお読みください。

取材・文:東大史