三重県南部、人口約8,000人の小さな町・御浜町にある「かきうち農園」では、社員6人、パート4人の計10人が美味しいみかん作りに精を出す。社員はほとんどが地域外からの若者で、平均年齢は24.5歳。そんな活気あふれるかきうち農園の代表取締役社長垣内清明(かきうち・きよあき)さんに話を聞いた。
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実家のみかん畑を受け継ぎ、地元御浜町へUターン
垣内さんは、地元御浜町出身の52歳。京都で10年程サラリーマンとして働いていたが、父親の他界とともにUターン。実家の約0.7ha(ヘクタール)のみかん畑を継ぎ、生産農家として10年間みかん作りに専念していた。
その後、当時御浜町が農業の法人化を推奨していたのをきっかけに決意、規模を拡大し従業員も増やした。法人化して11年目となる現在は園地を14ha(ヘクタール)まで拡大。栽培した15種類以上の柑橘や加工品を販売。また、食品の安全、環境保全、労働安全に取り組み、令和2年2月にはASIAGAP認証*を取得した。
*ASIAGAP認証 食品の安全・環境保全・持続可能な農業に取り組む生産者に与えられる国際認証
農業も他産業並みの仕組み作りが重要
チャレンジだったという法人化に踏み切ったのには、垣内社長の強い思いがあった。
「農業も他産業並みにしっかり稼げる仕事にせなあかん。魅力ある儲かる農業の実現をしていかなあかん。親が辞めたら、子どもが継がなかったら、それで終わってしまうのでは継続性がない。少子高齢化で衰退の一途を辿るこの地域の産業のためにも、法人だからできるしっかりした仕組み作りをして、みんなが “やりたい” と思える農業をやっていくべき」と、地域の基幹産業の維持発展に向けてチャレンジを続けている。
かきうち農園では、みかん作りだけ行う農家と違い、一般企業と同様に生産から販売まで一貫して自社で行っている。
一般的な生産農家は生産物の栽培のみを行い、JAや市場など決まった所へ出荷する場合が多い。市場で第三者によって生産物の値段が決められて、手数料を引かれた残りが収入となる。生産・商品開発・販路開拓・事務・販売など、一企業法人として柑橘事業に取り組む垣内社長は「なんとかして、自分で作ったものは自分で付けた値段で販売しなければ」と、価格決定権を持って利益の出るビジネスを展開している。
今は地域外からの若い社員で活気ある会社だが、当初はどれだけ求人を出してもリクルートに行っても応募のない状態が続いた。とにかく知ってもらうために情報発信を続けて、やっと来てもらえるようになったという。
組織づくりで取り組んでいることは、若い人に選んでもらえるような働き方や女性が活躍できる職場、誰もが「面白いね、楽しいね」と言えるような環境を整えること。また、経営理念にもある‟成長できる環境”や”物心両面において幸福”になれるような状況を、どうやったら提供できるかということを考えている。
会社としては三重大学と商品開発を行うなど、6次産業化(生産物の加工から販売まで行い付加価値を付け、産業の可能性を拡げる)をより進めるとともに、本格的に海外輸出に取り組んでいく方針。農業を切り口とした観光にも関心を持っている。
スマート農業で仕事効率を上げる
広大な園地を限られた人数で隅々まで手を入れていくには、効率を考えて動くことがとても重要。かきうち農園では「アグリノート」というアプリを活用し管理を行なっている。
どこの園地で誰が何時間どういう作業をしたかなど、各自が日々の作業報告をアップする。肥料の量、薬剤使用の有無や使用量・濃度、収穫量など全て記録していくもので、園地のマップも表示、記録はカレンダーでチェックできる。それらの記録から、1年間を通しての人件費や資材経費がわかり、収穫高を入力することで園地ごとの収益を出すこともできる。
若い人がチャレンジできる環境を作る
淵上さん・荻原さんについては「とにかく素直で一生懸命頑張ってくれてます」と垣内社長。
「先日、大阪のあべのハルカスに2人で物販に行ってもらったんです。『一生懸命売っているよ』と周りの業者さんがすごく褒めてくれて。外の方からそういう声が聞こえてくると、嬉しいですよね」と笑みがこぼれた。
「みんなにはどんどんチャレンジして、経験を積んで成長してほしい。海外にも行けるようにしたいね、そのための環境づくりは我々がするべきこと。若い子たちが成長し力をつけていくことが、会社の成長でもある。色々な経験をして『御浜町へ来て良かったな。かきうち農園に来て良かったな』と思ってもらえるように日々取り組んでいく。御浜の地から海外に羽ばたいてもらえるような人材になってもらいたい」と語った。
未経験者が農業を始めるには
農業未経験者にとって、農業のいろはを始め経営など様々なことを学ぶことが出来る法人への就職は、農業を始める一歩の一つだろう。
そもそも、個人で就農するには畑・道具・資材・人手、そして資金の全てを準備しなければならない。その上スキルがなければ、最初から上手くいくなんてことはない。例えばUターンでの就農においても、道具や畑などハード面が揃っていたとしても、経験も信用もなければ銀行で融資を受けることは難しい。スキルが身につくまでは法人で働くことで農業の現場と経営について学び、「やっていける」と見通しが立ってから独立する道を選ぶことができる。
先輩も周りにたくさんいる御浜町だから、安心して自身のペースで農業人として成長できる。
みかん農家は決して楽な仕事ではないけれど、苦労して作ったみかんがお客様のもとに届いて喜んでもらえる。これが何よりのやりがいだ。
常にチャレンジを続ける垣内社長の思いは、農業にトライしたい人の勇気へと変わっていく。
(2022年11月取材)
垣内さんの移住ストーリーを動画でもお楽しみください↓
▼かきうち農園に就職移住して、みかん農家になった若者の物語▼
▼愛知県から移住して、みかん職人になった寺西さんの物語▼