阿武隈高地に位置する福島県田村市には1,000m級の山が複数存在し、豊かな山林資源に囲まれています。市内には森林組合や林業に関する民間企業が複数存在し、充実の受け入れ体制を利用しながら、移住して就林する人も増えています。今回は田村森林組合にフォーカスを当て、理念や事業内容、地域のブランド材「田村杉」、そして求める人材像について、専務理事兼参事の管野孝さんにお話を伺いました。
この記事の目次
地域力を育むために、足元にあるものを自分たちで活かす
田村森林組合では「人も森も活かして地域力」を理念として掲げています。人や森や大地はこの地域の資源であり、こうした足元にあるものを活かせなければ、地域は衰退していきます。隣の芝生が青く見えることがあっても、自分たちの足元を自分たちで活かすことができる地域は、地域力を持っているということです。こう言うと当たり前の話ですが、当たり前のことを当たり前にやるというのが、大事だと考えています。短期的な見方や経済合理性ばかりを優先すると、その先が何にも成りません。
住んだり仕事したりしていると、「このまちには何も無い」と思えてくることがありますが、これは当たり前のことを見失っている状態です。人は自分の感覚やマイルールを正当化し事実を歪曲して捉える傾向があるものですが、灯台下暗しであって、このまちの良さはたくさんあります。「あっちの方が良い、便利なものが良い、ここには何も無い」という考えは、自分で自分の身を助けようとする自助の精神が消え、他力本願になっているのかもしれません。田村市は自然が豊かですが、それは不便さがあるということ。何が良いのかを見定め、さまざまな選択肢の中から選び取り、実際に手足を動かして行動するのは、他人ではなく自分です。選択や行動の結果責任も自分で負うのが基本的な考え方。その上で、一人で解決できないことはもちろんあります。「他人の胸を借りる」という言葉もあるくらい、自助の上で人を頼りみんなでやるのは普通のことです。当たり前に、自分でやれることを一生懸命やっていると、何かに成るし心ある人が必ず助けてくれます。
「家の構え」という言葉がありますが、構えとは整うという意味で、中の構造も外からの見た目もバランス良くしっかりしているということ。そうした構えの家を見ると、「住む人もきっとしっかりした人なのだろう」と思うものではないでしょうか。家の構えに統一感がある地域は価値観も共有しやすいでしょうが、最近はさまざまな構えの家があります。個人の価値観やコミュニティ自体には多様性が必要だと思いますが、地域力という点においては、そこにいる人たちがある程度同じベクトルを向いていることが大事だと考えています。
田村森林組合の事業について
福島県は首都圏の木材需要の最大13%を供給してきた地域で、田村市は市内の60%が森林に覆われています。林業はこの地域の主力産業であり、落ち葉は農業用肥料に、山を伐採して出た木材は加工して材木として、また薪炭として使われてきた時期もあります。最近ではサステナブルな燃料として注目されている木材ですが、高度成長期の頃まで、木材は日本の主要な、そして日常的なエネルギー源でした。木炭検査員が市場に出る薪炭をチェックし、等級をつけるという時代があったのです。
森林組合とは「Forest Owners Cooperative Association」であり、文字通り森林の持ち主が出資し、組合員となって組織しています。田村森林組合では、森林を管理することと、資源として木材を活用すること、この2つの両輪を回していくために、さまざまな事業や地域に向けたイベントなどを行っています。指導事業(林業経営や技術指導など)、森林整備事業(組合員の山において造林・除間伐等の請負など)、購買事業(林業機械や資材の取扱など)、林産販売事業(素材の正量正価販売、組合員への木材供給など)、加工事業(「ウッドミル田村」での製材加工など)、その他利用事業(山火事防止対策や森林環境学習など)を行っています。
森林環境学習では、市内の小学校はもちろん、震災前の多い時には姉妹提携した東京都中野区から2000人ぐらいの子どもが来たこともありました。水は人の体に絶対に必要で大切なものであることを話した上で、その水がどこから来るのかを考えてもらいます。「今朝、起きてまず何をやった?」と聞くと、子どもたちは「歯を磨いた」「顔を洗った」と口々に答えます。「その水はどこから来るの?」と聞くと、「蛇口をひねったら出る」。「じゃあ、蛇口の水はどこから来るの?」と聞くと、浄水場と答える子もたまにいますが、この段階で答えに詰まる子が多いですね。答えは、「水は山から来る」です。林業が担う森林の管理は水源の管理でもありますから、森林や山と普段使っている水はつながっているということを、知識として持ってもらえるよう話しています。
地域のブランド材「田村杉」。魅力を活かしさまざまな用途に利用
「田村杉」はこの地域で育った杉で、主に建築部材として重宝されているブランド杉です。阿武隈高原の降水量や、寒暖の差のバランスに恵まれた環境で育まれた「田村杉」は、良質な木材としてさまざまな用途で利用されています。田村森林組合木材加工センター「ウッドミル田村」で用途に応じた乾燥処理を施し、建物の骨組みとなる構造材として、天井や床といった内装の仕上げに使う造作材として、フローリングやその下地用として、このほか集成材や建具材としての用途にも利用されています。田村森林組合の事務所建家や、田村市運動公園総合体育館ラウンジにある椅子やテーブルも、「田村杉」を使用しています。
明治時代から優良材として知られる「田村杉」は、太平洋戦争後の東京の復興にも大いに役立ちました。昭和30年頃まで林業も地産地消が基本でしたが、戦後の東京は復興資材に乏しい状況でした。そこで山林資源を持つ地域の人々が、自分の山から伐採した木材を貨車に乗せて東京の木場へ運び、さらに自らも東京に出て材木屋を営みました。秋田や福島、静岡や和歌山といったさまざまな地域の人が集まったそうです。木場の材木屋に関わっていた人から、「『田村杉』ってあったよね。あれは良い杉だった」と言ってもらっていました。
木は自分で勝手にブランドにはなりません。ブランド価値は消費者が決めていくものですし、マーケットとの結びつきも考えなければなりません。ブランドに育て上げる人が必要であり、地域に誇りを持つ人が増えれば、「田村杉」のブランドはこれからも上がるでしょう。これについても、真面目に当たり前にやることが大事だと考えています。
多様なバックグラウンドを持つスタッフが在籍
スタッフは圧倒的に中途入社が多いです。前職も林業だったという人もいれば、東京消防庁や水道局に勤務していた人、電気工事や大道具の舞台制作をしていた人など、さまざま業種からの出身者がいます。入社動機も人それぞれですが、林業に興味があるということは、見合うスキルを持っているか、或いはこれから身につけるやる気を持っているということだと捉えています。一緒に働く仲間になる人なので、採用面接ではお客さんと駆け引きするような言葉ではなく、自分の考えを自分の言葉で話してもらっています。
私自身は高校卒業後に田村森林組合に入社しましたが、動機は特に無かったですよ。何も考えていなかった。でも高校や大学卒業の段階で「自分はこういう方向性で生き、仕事をしていきます」と定めていることの方が、違うように思います。人は社会に出てから、他人に出会い、考えを深め、気づいたら定年の年齢まで行っているような気がします。そのくらい期間をかけて、生きる根本を考え続けているように思います。「こうであらねばならない」というものはありませんし、文系や理系のような区分けが設けられていても、世の中のものはそう単純に分けられるものではありません。森林と蛇口から出る水がつながっているように、違うと思うようなこともどこかでつながっているものです。
自ら考え答えをアップデートし続ける、そんな「呼び水になる人」に来てほしい
「私たちが生きるためには何が必要か」という問いに、すぐには答えられない人や、それを探し続けている人が、おそらく田村森林組合に来るのだろうと思います。人は食べるためだけに生きているのではないですよね。家の構えのように、自身の生活にも、中の作りや見た目といった、自分にとっての良いバランスがあると思います。じゃがいもを蒸したら素材そのまま味わうのか、バターを塗るのか、塩をかけるのか…目の前の食材を自分はどう食べるのかと、同じことかなと思います。なぜ仕事をするのかといえば生きるためであり、楽しく生きるなら、自分は何をやるか、誰とやるかを、悲観的にではなく前向きに考えることが大事です。
人を惹きつける呼び水は、人だと思っています。企業が事業拡大をする際に資本を入れることがありますが、その企業に人を呼ぶのは資本ではなく、人が人を呼ぶのです。「金の切れ目は縁の切れ目」という言葉で表現されるように、お金で集めた人は、お金が無くなれば離れます。社長や地域の名士、居酒屋の看板娘のような、「この人に会いたい」と他人から思われる、そんな呼び水になるような人に入ってほしいですね。
未来の可能性に向け、これからも「当たり前のことを当たり前にやる」
未来には無限の可能性がありますが、今できることは1つずつであり、自分の今いる足元から、一方向に歩くことからしか始まりません。だからこそ田村森林組合では、当たり前のことを当たり前にやるというのを、これからも続けていきます。森林や田んぼといった資源を管理し、その資源を自分や地域や社会のために役立てていきます。サービスとは、人の満足のために行うものであり、それが回りまわって、自分の満足につながるのです。
田村森林組合
住所:福島県田村市常葉町西向字堂ケ入62-7
電話:0247-67-1101
営業時間:月〜金: 8:00〜17:30
休業日:土・日・祝祭日
駐車場:あり
HP:https://tamura-forest.or.jp/
e-mail:info@tamura-forest.or.jp
ウッドミル田村(田村森林組合木材加工センター)
住所:福島県田村市常葉町西向字堂ケ入62-3
電話:0247-67-1017
営業時間:月〜金: 8:00〜17:30
休業日:土・日・祝祭日
駐車場:あり
HP:https://tamura-forest.or.jp/
e-mail:woodmill@tamura-forest.or.jp
この記事を読んで田村市での生活に興味を持った方、移住を検討している方は、お気軽にたむら移住相談室へご相談ください。
たむら移住相談室
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メール:contact@tamura-ijyu.jp
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