国道6号線から海へ向かって伸びる坂道を登ること数分。「広野町特別養護老人ホーム花ぶさ苑(以下、花ぶさ苑)」は、見晴らしの良い丘の上にあります。
明るく出迎えてくれたのは、社会福祉士で施設長を務める植田博直さんと入社7年目となる介護福祉士の袖岡(そでおか)あかねさん。「新しい特別な毎日ではなく、今まで通りの日常を入居者さんに送ってほしい」と植田さんは話します。
花ぶさ苑では現在、介護士の募集を行っています。未経験者も歓迎とのこと。「仕事に行きたくない日はない」というお二人に館内を案内してもらいながら、日々の様子を聞きました。
自宅で日常を送るように過ごしてもらいたい
花ぶさ苑は、広野町唯一の特別養護老人ホーム。入居するのは、日常生活に全面的な介助が必要とされる要介護3以上の高齢者です。
花ぶさ苑では、10人を1グループとする「ユニット型特養」を採用。各ユニットに職員がつき、入居者一人ひとりの生活リズムや個性に合わせた個別ケアを行っています。入居者はそれぞれの個室やパブリックスペースであるリビングなどでおしゃべりをしたり、食事をしたりして過ごします。
「ここは自分のお家なんです。入居者さんそれぞれの行きたいタイミングでトイレに連れて行くし、自室に戻りたいと言ったら戻ってもらう。まだできていないけど、いずれは食事も『今食べたい』と言ってくれたタイミングで提供してあげたいんですよね」
そう優しく語る袖岡さんは、家族の転勤を機に地元の青森県から広野町に移住し、花ぶさ苑で働き始めました。介護職に就いて、もう20年以上になるそうです。
「入居者さんそれぞれに、好きな過ごし方があるんです。歌を歌って手踊りするのが楽しい人もいれば、それを聞きたくなくて耳を押さえている人もいる。そんな時には、離れてみたらいいんじゃない?と声をかけることもあるんですが、一緒にはいたいみたいで(笑)不思議ですよね」
仕事の話をする袖岡さんはとても楽しげ。入居者さんと良い時間を過ごしているのだろうと、仕事をする姿を見せてもらう前から想像が膨らみました。
「ここでは普通の日々を提供できたらなと思うんです。その代わり、節目のお祝いをしたり、いわきFCの試合を観に行ったりと、たまにのイベントは思いきり楽しんでもらいます。例えば、旅行はたまにだからこそ楽しいわけじゃないですか」と植田さんも続けます。
気づきを率直に伝え合えるフラットな関係性
職場の雰囲気について袖岡さんにたずねると、開口一番「みんな本当に明るくて、仲が良いんですよね」と、ハッキリとした答えが返ってきました。ユニットリーダーを担っている袖岡さんですが、「リーダーだからといって、何か決定したり意見が強くなったりすることはない」と話します。
「例えば入居者さんへのケアの仕方について、それぞれ違う意見があることもあります。スタッフの人数が少ないからこそ、立場に関わらず気になったことは伝え合おうねって日ごろから言い合っていますね」
朝礼で前日にあったことの共有事項を伝え合う以外は、特段スタッフ同士で何かを話し合うための時間は設けていないと言います。
「施設長が朝と夕方に必ずユニットを巡回するので、相談したいことや確認したいことがある時はその時間に話すことを大切にしています。改めて話し合いの場を作ると、日程調整が難しかったり、かしこまって言葉がうまく出てこなくなったりすることもあるじゃないですか。時には施設長にその場で連絡をして話すこともあるくらいです」と袖岡さん。
業務をしながらふと思ったことや困ったことをリアルタイムで話すようにすることで、仕事をするうえでの価値観を共有することにもつながっています。
「私は介護の仕事は担当していませんが、施設長だからといって事務所にこもりっぱなしになるのではなく、毎日入居者さんと職員の顔を見に行って、雑談をしたり、冗談を言い合って笑ったり。それが、職員の考えを知り、私も思いを伝える機会になっていますね」と、植田さんも返します。その様子から、立場は関係なく意見を言い合える関係が築かれていることが伝わってきました。
入居者もスタッフも、みんなでみる
スタッフ同士が良い関係性の中でコミュニケーションを取れたとしても、入居者さんそれぞれに合った介護をするのは大変です。お風呂を跨ぐのが難しい人、食事をとるのが難しい人、またその理由も身体の状態や認知症の進行などにより異なります。
介助のシーンでは、例えば寝かせ方一つとっても、少しの支えで動ける人と抱きかかえなければならない人とで違うそう。脳梗塞で身体の片側が麻痺してしまっているから支える向きに気を付けるなど、入居者さんの数だけ介助の形があり、体調の変化に合わせる必要もあります。
そのため、入居者さんの情報はこまめに職員間で共有し、更新し続けているといいます。「要介護のレベルが同じでも、介助の方法は違うこともままあります。職員それぞれが入居者さん一人ひとりの手引書をつくりながら、赤ペンを何回もいれているような感じ」と袖岡さんは教えてくれました。
入居者さんだけでなく、新しい職員のこともみんなでみるのが花ぶさ苑。未経験の方は、認知症に関する知識を身に付ける「認知症基礎研修」を受講し、先輩のサポートのもと、現場で介助を学んでいきます。ステップアップしながら実務経験を積めば、国家資格の介護福祉士にも挑戦可能です。
「口の中に食べ物が入ったままだと次の一口は食べられないから、もぐもぐしているのを見て喉が動いたなっていう時にスプーンを差し出すんだよ、といった感じですね。そういうのをひとつずつ見せながら教えて、実践してもらうことで介助のスキルを身に付けてもらっています。看護系の専門学校を卒業して新卒で入社した職員も、2年目になる現在は独り立ちし、安心して夜勤も任せられるようになりました。
教える際には、特定の指導係を設けず、職員みんなで面倒を見ています。マンツーマンにすると、教わる側も教える側も、うまくいかなかったら自分の責任みたいになっちゃうのはなんだかなと。みんなで育てると成長の喜びを分かち合えて、嬉しいですよ」(植田さん)
同じ日は二度とないから続けている仕事
新卒職員が一人前に育ったほか、アルバイトを採用するようになったことで働き手一人ひとりの負担が減り、有休の取得率も上がってきたのだそう。シフトの要望次第では公休が増える仕組みもあり、職場の魅力の一つになっています。
しかし、まだ人手不足は続いています。花ぶさ苑には最大40名分の個室がありますが、現在の入居者は22名。現在の職員数では満室になるまで入居者を受け入れることができません。働く人を増やせれば、個々人に合わせたケアも、受け入れられる入居者の数も増やしていくことができます。
広野町に来る前から介護の仕事を続けている袖岡さんに、この仕事のやりがいを聞いてみました。
「入居者さんの好きなことを一緒にやったり、今できていることを続けるためにものごとに取り組んだりすることで、入居者さんと一緒に笑えることが一番嬉しいです。 毎日を一緒に楽しめたらいいなという思いでやってきました。入居者さんは一人ひとり違うし、変化もしていく。最期を迎える経験もしていて、その度に良い介護ができていたかを考えてきましたが、正解はないんですよ。だからこそ、この仕事にやりがいも楽しさも感じて続けているのだと思います」
最後に、植田さんが職員として求めている人物像と、介護職を検討している方へのメッセージをいただきました。
「人が好きで、入居者さんのことを大切に思ってくれる人が来てくれたらなと思います。入居者さんの中には要望を口に出せない方もいるので、時には相手が望んでいることを汲み取る力も必要です。同じ話を何度でも笑顔で聞いていられる人も向いている仕事だと思います。機械に置き換えられる仕事が増えている世の中ですが、目の前の相手をリスペクトしながら介助をするというのは、人にしかできない仕事なんじゃないかな。
花ぶさ苑や広野町に限らず、移住してみたい地域や仕事が浜通りにあるならば、実際に見に来てみるのがよいと思います。東日本大震災で被災したイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、前進している部分もある。自分で足を運んでみて、暮らしや自分が働く姿をイメージしてワクワクできた場所の門を、ぜひ叩いてみてほしいです」
花ぶさ苑では正社員の介護職員の他、パートタイムの勤務など、ライフステージに合わせた働き方も歓迎とのこと。要望があればオンライン面談も受け付けています。気になった方は求人ページをのぞいてみてはいかがでしょうか。
花ぶさ苑の求人はこちらで紹介しています。
>https://arwrk.net/recruit/koubikai
■広野町特別養護老人ホーム 花ぶさ苑(社会福祉法人 光美会)
2010年に開所した広野町唯一の特別養護老人ホーム。2021年4月から福島県いわき市を中心に介護施設を展開する社会福祉法人光美会が指定管理者となり運営している。職員数は22名。介護職員は12名で、11名が国家資格の介護福祉士を取得。
所在地:〒979-0402 福島県双葉郡広野町下北迫東町211-2
TEL:0240-27-1755 (受付時間:9:00~16:00)
HP:https://www.koubikai.jp/hanabusa/
※所属や内容は取材当時のものです。最新の求人情報は公式ホームページの採用情報をご確認いただくか、直接お問い合わせください。
文・写真 蒔田志保