ネイティブ.メディアでは、この度新たに「Nativ.Life インタビュー」という連載企画を始めることになりました。
この連載は、移住や二拠点居住などの様々な形で地域と関わりながら、“自分らしい生き方”を選んだ人たちの生の声を通じて、いまを生きる私たちにとっての“暮らしの選択肢”を見つめ直す企画です。
地域との多様な関わり方が広がるいま、等身大のストーリーとノウハウを通して、
「地方に関わること」がぐっと身近に感じられるようなインタビューをお届けします。
記念すべき第一弾は、ネイティブ.メディア編集長の倉重宜弘(くらしげ よしひろ)さん。
我らが編集長もまた、東京と広島を行き来する“リアルな二拠点生活”を続けている人物です。
月の前半と後半、ちがう場所で暮らしています
倉重さんは、いま「東京と広島」の二箇所を拠点にした生活をしています。 月の前半は東京、後半は広島。だいたい2週間ごとに行き来しているそうです。
「そんなに頻繁に移動して大変じゃない?」と聞きたくなるかもしれませんが、倉重さんにとっては、「かれこれ3年以上もつづいていて、今ではすっかり馴染んできました。」…とのこと。どんな経緯でこうした生活になったのか、そのきっかけから聞いてみました。
そもそものきっかけは、「仕事」からでした
もともとは、こんなふうな生活を自発的に計画していたわけではなかったそう。
きっかけは、シンプルに仕事上の必要性からだったそうです。
「最初に起業した会社の主な仕事が、瀬戸内を中心にした地域のマーケティングに関わるものでした。広島中心にメンバーも増やし、オフィスも必要になってきたころに、広島県の企業誘致政策のお話もあり、これはもう拠点をつくるしかないなと。」
その結果、自らも広島にも単身用のマンションを構え、「広島と東京、どちらでも暮らす」という形に落ち着いたそうです。
“仕事がきっかけとはいえ、二拠点生活というスタイルを選ぶところが、ある意味倉重さんらしいところですが、本人曰く「思い切ってやってみると不思議なもので、そこで暮らさなければ気づかない発見や、自分でも思っていなかったメリットが増えていった」とのこと。
それは、どんなことだったんでしょうか。
危うく”シクジリ”かけた住居選び
二拠点生活を始めるにあたって、最初に考えるのはもちろん「どこに住むか」ということです。倉重さんは、最初はオフィスに近い利便性だけを重視して、家探しをしていたそうです。というのも、それまでも出張で通っていたその延長の感覚で、”ホテルの代わりの家”という意識しかなかったから。
しかし、広島の職場の仲間に相談したところ、「そんなマチナカに住んでも、広島の良さは分からないですよ!せっかくなんだからもっと広島らしい景色が味わえる場所にたほうがいいのでは?」と言われて、ハッとしたんだとか。
「つい仕事のことだけ考えていた自分がちょっと恥ずかしいというか、生活するという重みが意識できていなかったんですよね…。」と苦笑い。
もう1つ意識したのは「日々の生活のための動きを具体的に意識した動線」なんだそう。
広島での生活は「一人暮らし」のため、食生活や買い物を考えた動線が、無理なく描けるかが重要なポイントになってきます。「今から考えると当たり前なんですが、一人暮らし自体久しぶりなので、その生活シーンを思い描くのを忘れていたんですよね。自炊はしない前提だったので、毎日同じものを食べることがないよう、平日も休日も色んなパターンの食生活が想像できるような場所を探すようにしました。」
その結果、当初の想定より少しオフィスから離れてはいるものの、かえってコンパクトで便利な広島の町の魅力を十分堪能できそうな動線が描ける場所をうまく選ぶことができたのは、良かったとのこと。「あのときメンバーに、キツめに指摘してもらってホント良かったです」と笑います。
2つの場所を行き来して、気づいたこと
東京〜広島間は、よく「飛行機」か「新幹線」かで意見や好みが分かれる距離感だと言われます。「自分は迷わず新幹線です!」と言い切る倉重さんは、「自分にとってこの新幹線での移動時間は、かなり大事な時間なんです」と話します。
「行き来するのに丸4時間はきつくない?と言われますが、全然そんなことはないですよ。まあ仕事でパソコンを開いてることも多いんですが、 Youtubeを見たり本を読んだりのまとまったインプットの時間にもなります。言ってみれば動くコワーキング的な感覚なんです。」とのこと。
「もっというと、ぼーっと車窓を眺めながら、色々考えるというか、そういう時間としてもいい時間なんだなと感じることも増えています。自分と向き合うというとちょっとカッコつけすぎですが、ニュートラルな感覚で色々と思いをめぐらしていると、不思議と考えがまとまってくることも少なくないんですよね」
さらに倉重さんはこんなことも。
「少し大げさかもしれませんが、二箇所を行き来するときにくぐる”異空間トンネル”というか、そんな感覚もあるんですよね。パラレルワールドを行き来するちょっと不思議な時間のように感じることもあります。これ多分、二拠点生活している人とは共感できる感覚なんじゃないかなと。」
ふたつの土地に身を置くことで、日々の中に“切り替え”が生まれる。
それが結果的に、自分自身をいい意味で”整えてくれる”気がするんだそうです。
広島の人たちと関わってみると…
その土地に暮らしてみると、同じ頻度で出張で通っていたときと違って、その地域の人との関係もまた違ってくるそうです。
「広島の人って、基本オープンで気さくなんですよね」 倉重さんが暮らし始めて感じた印象は、さらに続きます。
「色んな方と出会うきっかけ自体はまだ仕事が多いんですけど、自分がここに”暮らしている”と話すと、打ち解ける度合いが深いですね。飲み会やごはんに誘われても、帰りの時間を心配しなくて良いですしね(笑)」
地元の日常をテレビのニュースでみていても、気づくことは少なくないようです。
「広島という場所で印象的なのが、やっぱり”平和”というキーワードが日常に根付いているんだなということです。東京だと8月にしか話題にならない戦争や平和に関する話題は、本当に毎日のように目にします。これはもう文化だなと感じます。」
それに…
「あ、あと夕方のニュースの最後は必ず“今日のカープ”っていうコーナーで締められるんですよね。真のカープファンにしか響かないマニアックな情報で、ときどき”?”って思っちゃいます」 と、笑いながら教えてくれました。
“暮らす”というモードでその地域での時間を過ごすことは、想像以上に気づきの多い経験なのかもしれません。
二拠点生活でのデメリットとは?
ここまで読んで「なんだかいいな。やってみたいな」と思った人もいるかもしれません。
でも、もちろん現実には、色々と大変なこともあるようです。
「もちろん、生活を二重化することで発生するコストは、馬鹿にならないですね。一人暮らしとはいえ、ある程度の生活コストや必需品にはやっぱりお金がかかりますし。東京には家族がいるので、郵便物や行政の手続きなども時々面倒なこともありますしね。」
でも一方で、こういう面もあるそうです。
「自分が学生時代に一人暮らしをしていたとき以上に、今は一人で生活するための準備がしやすいですね。家電量販店では、冷蔵庫と洗濯機と電子レンジの三点セットでなんと5万円ポッキリ。そこまで安いのは知らなくて驚きましたし、ありがたかったです。あと今はマイナンバーもあるので、住民票を移す手続きも本当に簡単なんですよ。東京と広島では自分の家族が受けられる自治体の補助制度などもほぼ同じだったのもあり、心配していたほどの影響は全くありませんでした。これはその人の状況や地域にもよるとは思いますが。」
二拠点生活はまだまだ公式なスタイルとしては一般化してはいませんが、政府もそれを強く推奨するような流れになってきました。こうしたサービスやサポートは今後さらに便利に良くなっていくかもしれません。
「完璧な移住」じゃなくていいと思うんです
倉重さんは言います。
「二拠点生活は、そんなに構えなくても、割と気軽に挑戦できるようになってきたかもしれませんね。」
何かのきっかけで少し思い切って踏み出してみると、思っていた以上に自分の人生に大きなメリットをもたらす可能性がある。そんなふうに捉えているというのが、倉重さんの二拠点生活への考え方のようです。
広島と東京を行き来する暮らしのなかで、倉重さんが日々感じていることがあるといいます。
「全く根拠はないんですが、もしかしたら自分は『どこでもなんとかやっていけるかもしれない』という不思議な”自信”みたいなものが、自分の気持ちの中に備わってきている気がします。」
まったく違う場所で過ごしてみると、
見える景色も、会う人も、なんだか少しずつ変わってきて、自分の可能性みたいなものが、思っているより広いかもしれない…なんて思うこともあるそうです。
観光や出張では気づけなかった、その土地の人や“日常の風景”に出会えるのが、なんとも面白い。「”住む”ってやっぱり特別なんですよ。」
半分だけでも、そこに自分の“生活”があると、地域の見え方はもちろん、自分の人生そのものが少し変わって見えてくるのかもしれません。
編集後記
初回ということもあり、2時間半にわたるロングインタビューで、(たまに脱線したりしながら)終始あたたかくて、少しリラックスしながら話が聞けた時間でした。
「2つの別の世界を行き来している感じ」とか、 「どこでもやっていける自信がつくかも」とか、 倉重さんの口からふいに出てくる言葉は、 どれも聞いていてハッとすることがありました。そんなふうに考えたことなかったな、とか、ちょっとその感覚、味わってみたいかも、と思わされるようなものでした。
はじめは少し俯瞰した地域との関わりだったんですが、気づけば地元の人との飲み会の話や、スーパーの位置情報、最近お気に入りの飲食店の話まで…どんどんミクロな話しになって来ます。
「ああ、本当にここで暮らしてるんだな」と感じられる内容になりました。
このシリーズでは、今後もこうしたその人なりのリアルな暮らし方の中から生まれる、価値観や考え方の変化を感じられるような、そしてその中から読者の皆さんが何かのヒントを得られるような、そんな記事を出していけたらと思っています。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
では、また次回のNativ.Life Interviewでお会いしましょう。