目の前の厳しさから楽しもう

最後に、Session4に続いて参加者それぞれが3日間を振り返った締めの言葉を、ノーカットでお届けしたい。ひとりひとりの心に火が灯ったことを感じ取っていただけると思う。

■ 魚住 雅彦さん(多良木町役場職員)

「今年はより具体的な内容になってきたと感じています。誰でもみんなでできることがたくさん出て来たので、今からは『誰がやるの?』じゃなくて『自分がやる』という心意気が必要かなと思いました。私の話をすると、私たちの世代は、小学校の水泳は川でした。でも、いつのまにか危ないからとプールに変わってしまった。だから仲間と、子どもたちを連れ出して川遊びをはじめました。そうすることで、子ども達が川は気持ちいい、と気づきます。多良木の豊かさを知ります。そういうふうに、目の前のことからやっていきましょう。」

■ 西希さん
昨年参加したら、すごく感動して町が好きになりました。そのときは、初めて会った外のみなさんとはまだ心の距離があった。でも1年を経て、多良木町のことを素敵だと思ってくれて、それを教えてくれる人たちと近くなって、それとともに『自分たちがここで何かしたい』っていう気持ちを見つけて、一緒にやろうって言ってくれるひとがいる。わたしたちのワクワクを大事にしてくれて、わたしたち同士をつなげてくれた。たらぎラブなサポーターがいるってほんと幸せだなと思う。だから、地元の年配の方たちにも『なにしてるのかな、楽しそうだな』って、思ってもらえるように、来年に向けてこれから、わたしたちの目線から感じてる多良木をもっとたくさんの人に発信していきたい。この1年間でつながれて広がって深まれた。これからもっともっと、深くワクワクして楽しみたいと思いました。本当に感謝の気持ちでいっぱいです、ありがとうございます。」

■ 松崎良太さん(株式会社Kibidango代表取締役社長)

「ここから始まっていくと思う。10年20年30年というアクティビティになっていった将来、『最初から関われたんだ』っていうことを、ここにいるみんなで祝えればいいなと思います。」

■ 井筒耕平さん(多良木町地方創生アドバイザー 株式会社sonraku代表取締役)

「西さんがサポーターっておっしゃったのを聞いて、自分はサポーターなんだと気づいてしっくり来たんですね。というのは、僕、阪神タイガースとヴィッセル神戸のファンなんです。そのファン心理で多良木に向き合うとどういう感じになるかというと、誰か一人の選手が好きとか選手みんなのチームそのものが好きとか、いろんな『好き』がある。そして、阪神やヴィッセルの情報を能動的に取りに行こうとするんです。選手の誰が調子いいとか悪いとか、新しく誰が入って来るとか。僕たちが多良木のファンであり続けるためには、そういうふうに、人の情報をどんどん発信してほしい。自分で発信したり、紹介しあったり。自分の情報を一番詳しく持っているのは自分で、自分が発信しないかぎり伝わらない。今はインターネットという手段があって誰でも発信できますから。ファンでさえいれば、ファンクラブに会費を払うとか、スタジアムに足を運ぶとか、全然苦にならない。だから、応援したくなるような情報発信とチームづくりをしてもらえたら、すごくファンって増えるんじゃないかなと思いました。」

■ ATSUKO AOIさん(ミュージシャン)
ATSUKOさんは昨年のTBDCの後、多良木の人と自然の素晴らしさに心を打たれ、3日間涙が止まらなかったという。その感動を息子のひろくんと一緒に歌にした。レコーディングされた「多良木の森」のCDを送ったところから町長と文通友達に。CDは、役場で次々に職員を喜ばせている。

「歌で多良木の魅力を表現するというかたちで、これからも一緒に活動していきたいです。」

■ アグリトラベラー 長根汐里さん
長根さんは、多良木産のアワビのようなステーキ用肉厚しいたけと、球磨焼酎にハーブをかけ合わせたスカイブルーの焼酎の新銘柄「TARAGIブルー」を切り口に、多良木の魅力を発信している。

「地方創生のまちづくりのさまざまな現場にかかわっていて、まだまだこれから、というところもあれば進んでいるところもあるんですが、本当に最初の、立ち上げに関われているっていうのは、とってもすごいことだと思うんです。去年から今年、来年へと続いていくTBDCだけど、ゼロからイチをつくるのはとても大変で、ワクワクもするけど苦労もあると思う。どうしても、歴史があるからこそ変化が苦手なまちのなかで 楽しいことしているはずなのにあれ?こんなだったかな?と思うことがあると思う。そんな時に、この3日間ここに集った事実とコミュニティがあるっていうことが支えになればいいなと思います。みなさんがしようとしていることは、そもそも本当にすごいことなんだよっていうことをお伝えしたいです。」

■ 宮川将人さん
宮川さんは宇城市三角で営む洋蘭農家であり、くまもと☆農家ハンターの代表。農産物への鳥獣被害を自分たちで解決し、さらには捕獲したイノシシをジビエに加工し、ITを活用してマネタイズする取り組みは「生物多様性アクション大賞」の最高賞にあたる農林水産大臣賞を受賞した。(https://farmer-hunter.com/blog/

「 TARAGIXのミーティングを、僕たちの地元、三角町(熊本県宇城市)でもぜひ開催したいと提案しました。僕らは、クラウドファンディングでお金を集めたり、返礼品でジビエのお肉を出したりしてきたので、苦労しそうなところについてノウハウがあります。ジビエにポテンシャルを感じている仲間として、そのノウハウを提供したい。普段とは別の場所で話すのはすごく刺激になると思うし。やるからにはアクションを求めたいので、僕らが待っているのは1月31日までです。
三角町を含め宇城市でも、外の人を呼んで『これやったらいい』『あれやったらいい』と意見をもらうことをしてきましたが、『じゃあ自分がやる』という人が現れない。それを繰り返していると、取り組み全体が失敗の経験になってしまう。『結局だめだよね』って。だから、一歩でも具体的なアクションを起こすことが本当に大事だとすごく思います。

そして、三角町や宇城市に来たいろんな外の人に会った僕から見て、今、多良木には宇城市では出会えなかった人たちが来ています。ぶっちぎりで、いい人たちが関わってくれています。ただ金稼ぎに来ているっていう人がほとんどなんですよ、普通だったら。でも、損得なしで来てるじゃないですか。松崎さんなんて、東京で仕事してたほうが稼げるはずなのに、3日間もここに来ている。ハートのある人たちがここに集まっているっていうのはすごいことだと思うから、この人たちを呼び続けるには、プレイヤーである地元の人たちが口コミを広げなきゃいけない。あの人たち、すごい使えるんですよ。でたらめなこと言ってますけど、けっこういいとこあるんですよ、とか。わざとらしくても。それは本当に言っていかないと、第三者の評価が必要です。青井さんたちが多良木をよくしたいよくしたいって言ってても、それと連動して有権者から声が聞こえてこないと、町長も議員さんたちも動けないですよ。この人たちを離さないようにしないと、10年チャンスは来ないと思います。
僕は、まちの動きと連動していろいろやろうとしたけど、うまくいかなかった。だったら自分で、とやったのが農家ハンターです。予算がないからできない、じゃなくて、議員でも町長でも声をかけて、どんなことを話しているかをちゃんと議事録をとって提出するぐらいのことをしたら、三角でのミーティングに行くためのバス代ぐらいは出してくれるかもしれません。行政との戦略的な関係づくりはとっても大切だと思います。」

■ 青井一暁さん
ビジネスは厳しいです。TARAGIX にしても、今ここにいる人は買ってくれたとしても、まだ多良木に来ていない人には響かないかもしれない。面白いツアーを組んでなんとか一度多良木にきてもらい、ファンになってもらった人たちにその後ずっと買い支えてもらうとか。あらゆる角度から工夫していくこと。ビジネスの厳しさを様々なアイデアで解決していかなければなりません。でも難しいことにチャレンジするのはクリエイティブなことなので楽しいはず。でも、やっぱり厳しい(笑)。お金を受け取るって本当に大変なことです。クラウドファンディングにしても、ネットに上げとけばお金が勝手に集まるわけなんかなくて。考え得るあらゆる手段を尽くして支援を集めなければなりません。これからは「厳しいがデフォルト」でいきましょう。例えば TARAGIX1箱の価格が3000円だとしたら、送料が2000円かかります、とか言われて、『え?』みたいな。(笑)そういう目の前にある厳しさから楽しんでいきましょう。

■ 古庄良匡さん
プロダクトデザイナー
「出張の多い仕事ですが、多良木に一番来ています。何かが起きるだろうという仮説から始まったプロジェクトだけど、実行してみたら、みなさんしっかり受け止めていただいて、現実が動き出していることにすごく感銘を受けています。参加はしていないけど、キャンプに野菜を持って来てくださった方がいました。今この場にいない町の人の中にも、きっとまだまだ何かしたい気持ちを持っている人はいると実感しています。みなさんが活動していくことによって、そういう人たちにどんどん広がっていく可能性を感じました。」

■ 唐川靖弘さん
ファシリテーター
「今年から担当課に異動して来られた役場の栃原さんとお酒を飲んでいたら『正直、最初青井さんのこと理解するのに2ヶ月ぐらいかかりました。ぜんぜんわかんなかった。大丈夫かな?と思ってた。でもこの場に来て、こういうことがやりたかったんだとわかりました。これからは信用します』っておっしゃっていました。かたちにすると、みんなわかる。だから、かたちにする活動にフォーカスしましょう。今回、僕は話をこういう風に持って行こうという意図はなく、みなさんから湧いてくるお話をそのまま書き留めていました。感じたのは、企業などのワークショップではみなさん言葉巧みに話すけど、色や熱がない言葉が多いです。でも、みなさんからはもっとシンプルにピュアに、『やりたい』『思う』という言葉が出てきた。心の中にあることを一緒に見える化できて、素敵な2泊3日だったなと思います。」

丘の上にキャンプサイトをつくって、町の内外の人が集い、話す。シンプル過ぎる建てつけで、なおかつ成果はひとりひとりの内面の成長や変化、という目に見えないもの。公共事業として役場や議会の理解を得るのはさぞ難しかっただろうと推察される。それでも実現したTBDCの現場からお届けした本稿を、読者のみなさんはどうお読みになっただろうか。

筆者は現場で、0が1になる前、0.Xの段階にあるときの、得体の知れないワクワク感を味わった。事実、TBDCをその場限りのアイデア大会で終わらせないために、すでに参加した町民たちが中心となって「たらぎビジネスデザイン協議会」を立ち上げ、各分野で活躍する講師を招いた勉強会を定期的に開催している。そして、さまざまなビジネスアイデアが実現に向けて動き初めている。まだ何ものでもない何かがどんなふうに形になっていくのか、引き続き注目していきたいと思う。

●TBDCたらぎビジネスデザインキャンプ 概要

  • 会 場 : 妙見野自然の森展望公園
  • 主 催 : たらぎビジネスデザインキャンプ実行委員会
  • 共 催 : 多良木町
  • お問い合せ : 多良木町しごと創生機構 (TEL)0966-42-7007
  • TBDCたらぎビジネスデザインキャンプ 参考サイト

取材・文:浅倉彩