「わたし」には何ができるか

Session3 「つなげる」 解決策をビジネスモデルに。

「つながる場が自走するには?を考えるために、みなさんが明日からマクドナルドのフランチャイジーになるとしたらどんなことを考えるかを考えます。お客さんはどんな人か、お客さんとの関係性、働き手や場所、どんな体験、もの、メニューを提供するか?何を仕入れる?いくらで売る? 10人がそれぞれ考えれば、いろんなことが出てくると思いますが、自活と持続を考えるとできるだけみんながひとつになって同じ方向を見つつ、そこにそれぞれがどんなアイデアを乗せていけるかを考えたいと思います。」

「考えるベースにしたいのは、『石倉マルシェchocotto』です。人気と聞いています。chocottoはすでに、人と人、物と人がつながる場所だと思うので、これをどうやったらみんなで進化させられるか、おもしろくできるか、みんなの知恵を入れていってもらいたい。そこで、自分がマルシェの一日オーナーになるとしたら、どんなコンテンツが提供できるか考えてみてください。」

・ばあちゃんたちが長く楽しんできた猪鍋や血合いや家庭料理を提供して、オーガニックジビエマルシェとして尖らせられないか。
・見晴らしがいいから、大声コンテストとか。
(近隣の)宇城市の離島でキャンプをしている人が増えているから、キャンプと絡めたらいいかもしれない。
・じいちゃんばあちゃんの知識を教えてもらう。
・全国1位のイノシシ市場があるので、目利きの人が一番いいお肉を選んで、ぐるぐる回しながら焼いてお客さんを呼びたい。
・夜のマルシェもいい。昼間のマルシェは売る人と買う人にわかれて、夜は混ざり合いたい。そうすることで、深いところまで話せる「本音で語れる場」になるんじゃないかな。

「このマルシェってひとことで言うとどんな場所ですか?なんて紹介される場所?」

・多様性のある場所。
・ちゃんぽんマルシェ!ちゃんぽんは、みんな一緒にやる ごった煮になれる場所という意味。
・いろんな意見が許容される。
・イノベーションはかけ合わせ。今まで想像していなかった何かと何かがかけ合わさって何かが生まれることなので、このマルシェはイノベーティブな場所になる。
・儲けよりも、当たり前だと思っていたことに対して、ありがとうやいいね!やすごい!がもらえるという価値がある場所。
・中と外、世代間の隙間を埋めるつながりの場。
・アイデアを試してフィードバックをもらえる場。

この後、唐川さんから
「自分はマルシェに何をもちこめる?自分だったらこういう関わり方をする?」
「こういうものを負担しなきゃいけない、いつも求められるといやだな ハードル上がるな、ってどんなこと?」
「例えばチームをつくってやるとして、どこまでをイメージできる?2019年に1回やってみる、とか?」
「ちゃんぽんマルシェがあればこういう人が来てくれるんじゃないか、というイメージはありますか?」

といった実現可能性を探る質問が重ねられ、3回のセッションを通じて形成された「つながる場としてのちゃんぽんマルシェ」という共通言語が多面化、深堀りされていった。

最後のSession4では、
「ちゃんぽんマルシェにどんなブースを出したいか」をグループごとに話し合い、絵でビジュアライズした。欲しい「場」のイメージから、そこに働きかける自分の「行動」のイメージへと思考の切り口が転換されたことで、参加者からはさらなるアイデアが湧き出た。

・昔やった夜の遠足が楽しかった。鹿が出てきたりうさぎが出てきたり。そのツアーをしたらどうか。
・1年間を通して狩猟やイノシシの捌き方、縄文の史跡を巡ったり縄文土器を見つけるなど縄文人の人生を追う「縄文人生ゲーム」
・町長が命名した「たらぎエコひいきキャンプ」。内容は、イノシシが火のまわりでぐるぐるまわっていて、猪汁(ししじる:郷土料理)の食べ方や味を知れて、入っている具材の生産者に会いにいける。郷土の食材のつくりかたブースでは、地元の若者や達人が柚子胡椒などの作り方を教えてくれて作って持って帰れる。座学もあって、おばあちゃんの知恵が聞ける。
・英語だけでやりとりするマルシェがあるみたいなので、球磨弁を覚えて使うマルシェ
・仏像を見にいく。
・東京から来るととても遠いので、一回きた後、たらぎの食材を定期購入する方法を用意する。届くたびにたらぎで会った人の顔を思い出し、1年に1回来たくなるような、たらぎのことを思い出すしかけとして提供する。
たらぎが全国に負けないのは、球磨焼酎と有機野菜とジビエ、この3つの組み合わせ。それを前面に打ち出した定期購入を。
・表現ブース。地元の人が「たらぎのこの景色が好き」を表現した写真や音楽、絵、俳句など

キーとなるチームとプロジェクトの出現

最終発表者となった西希さんと佐藤亜希子さん、並河望加さんのグループは、アイデアの発表というよりは遂行する覚悟をもったビジネスピッチだった。ここまでに出た意見を受けとり、包含するような内容に、聞いていた参加者からも活発な意見が飛び交った。

「私たちは、多良木でとれる旬のものをボックスにつめて定期的に送るビジネスがしたいと思います。私たちはこのアイデアを、仮称TARAGIX(たらぎっくす)と呼んでいます(笑)。青井さんから、柚子胡椒ひとつとっても、物産館に何種類も置いてあって、どれも味が違うのはすごく面白い、といったご意見をもらったりするうちに、四季折々のたらぎの食には魅力があるんだと思うようになって。みなさん、いくらなら買いますか?」(西さん)

・時には、ボックスにツアーのチケットが入っていて、呼ばれた人しか入れないような場所に行けたりすると嬉しい。
・3000円なら
・3000円だと行き詰まると思う。送料高いから。
・松竹梅をつくるといいかも。何パターンがつくる?中身を選べて金額も変わるようにする。
・同じ金額でも自分が好きなもの中心なのかサプライズ系なのか選べると楽しい。
・試作品とか送られて来るといいですよね。例えば、球磨焼酎の新しい銘柄で、まだ値段もラベルも名前もついてないような。001から050までのシリアル番号と製造年月日だけが書いてある。名付け親になれたり。
・たらぎだけでなく、たらぎのまわりの市町村にも広げた方が、商品のバリエーションが出せると思う。
・たらぎのマイスターが選んだという視点や、おばあちゃんの手紙が入っていたりストーリーも伝えてもらったらうれしい。
・この3日で食べさせてもらった中で美味しかったもの、取り寄せたい。鹿肉のジャーキー、鹿肉と猪肉の合挽きハンバーグがとても美味しかった。
・かけ合わせ。TARAGIXのXは、「かける」の意味もこもっている。多良木の人が選んで美味しく食べているもの、というコンセプトで、周りの地域のものとかけ合わせてあるのは面白い。

「みなさん気づきました?これこそまさに『ちゃんぽん』ですね!」と唐川さんがSession3で出て来たキーワードと紐づけると一同、大盛り上がり。

「これから、TARAGIXを、たらぎのエッセンスが詰まったお届け物にしていくプロセスをふむ中で、多良木町から世の中に何を送っていきたいか、どんな価値ある体験が提供できるかに目がいくようになると思います。そうして、都会の人とつながりができた先に、来てもらってこんな体験ができるというコンテンツもできていくのではないでしょうか。」

ちゃんぽんマルシェとTARAGIX。4回のSessionで湧き出たさまざまな思いや言葉、アイデアは、2つの軸に収束した。

2017年のTBDCででできたつながりから、9月にたらぎビジネスデザイン協議会を立ち上げ、勉強会を定期的に開催している西希(にしのぞみ)さんは、多良木町に住む三児の母で石倉マルシェchocottoの主催者だ。昨年、今年と参加してきたTBDCを次のように振り返る。

去年のTBDCで、私たちは何かをしたい気持ちと、一緒にできる仲間を見つけました。同じ町に住んでいて、顔は知っていて挨拶はするけれど、話ができていなかった人たちの中に、その仲間はいました。chocottoを8年やってきて、自分たちでいて楽しい場をつくれることや、少しずつ広がってつながっていけるなという実感や手応えがあった上でのことだったので、すごく発展的なタイミングだったと思います。」

2017年のTBDCでできた新たなつながりは、現在進行形で広がりながら深まっている。

「正直、まちの会議とかに入れてもらっても、まちで動いている大きなことと、私たちが欲しいことってちょっと違う。どれも、私たちから遠く感じます。そこで諦めて考えるのをやめずに、『じゃあ、私たちが欲しいことってなんだろう?』と話していると、自然に話す仲間が増えていくことも実感しています。そのための場が、たらぎビジネスデザイン勉強会です。勉強会には青井さんを筆頭に外の方も来てくださいますが、そこでの対話を効果的にするためにもまずはまちに住む私たちが仲良くなっていかないと、という思いがあるので、今は勉強会とchocotto以外で、もっと気軽に集えてもちろん子供も連れてこられる遊び場をつくりたいと思っています。」

今は、雨が降ると人吉まで出て、行き先は大型ショッピングモールという人がほとんどだという西さん。思い描く遊び場のイメージは、マルシェではないものの、ちゃんぽんマルシェのエッセンスを多分に含むものだ。

「みんなで空き家をリノベーションして、今週の日曜日はこういうワークショップがありますよ、とか。お野菜をつくりはじめた若い農家さんがいたりするから、大量に一度にとれる野菜を美味しく食べる方法をならったり、インスタ映えするランチをみんなでつくろう、とか。そうやって話し出すと、これだったらあの人、あれだったらあの人、って次々と町の人たちの顔と名前が浮かぶんです。それがすごく嬉しいねって話しています。」

昨年のTBDCでできた数人のつながりはすでに、まちに散らばった点を線に結ぶ糸となりつつある。この土台の上に、今年の成果が着実に積み上がっていく。西さんの言葉から伝わる仲間との行動からは、明るい兆しが読み取れた。1年目は、外から来た”賢人”が多良木町にある資源を生かしたビジネスピッチを行って可能性を示した。2年目はそれを見たまちの人が主体者となり、ビジネスを始めるようガイドしていく。TBDCのグランドデザインは、絵に描いた餅に終わらずに現実化していっている。

西さんの中学3年生の娘さんは、2日目の夜、深夜12時過ぎまで場を共にしていた。西さんが「どうだった?」と尋ねると、「大人の人たちがすごかった。みんなが思いを熱く話していて、『たらぎ』っていう言葉が何度も出てきた」と、日常にはないまちの大人たちの一面を垣間見た感動を話したという。3日間、ワークショップはもちろんのこと、その合間にふんだんにもうけられていた自由時間や夕食後の酒宴で思い思いに言葉を交わしたり、目と目を合わせてじっくり語り合ったことで、場には何かを生み出そうとする凝集したエネルギーが生まれていた。その熱が、多良木で生まれ育つ子どもたちにも伝わったことが感じられるエピソードだ。