秋の夜、鳴門市の商店街にある市のインキュベーション施設「UZULAB」の2階コワーキングスペースには、静かな緊張と期待をまとった“約10人”の参加者が集まっていました。学生、会社員、子育て中の女性、移住者——肩書きも背景も違う人たちが「鳴門で新しいことを始めたい」という同じ思いで席を囲んでいます。

開催されたのは、「なるとビジネスプランコンテスト2025」に向けた“ビジネスプラン作成講座・創業者座談会”。講師を務めるのは、創業コーディネーターの里見和彦さん。そして昨年の準グランプリ受賞者で、現在ドッグケアサロンを経営する本城萌華さんです。

少人数ならではの距離感の近さ。講師の息づかいや参加者の小さな反応がそのまま届く空間で、2時間にわたる濃密な学びの時間が始まりました。

第1章 鳴門を舞台に生まれる“新しい挑戦”

鳴門市では、地域資源や地域課題を活かしたビジネスを育てる取り組みが年々進んでいます。移住者、地元起業家、市内外スタートアップ——どんな立場の人でも“鳴門を思うプラン”であれば、歓迎する姿勢が特徴です。

地域の力を活かすことで、まちに新しい循環が生まれる。
事業所を構えたり、地域の課題を解決したり、小さなアクションが地域活性化の大きな力につながっていく。

そんな未来を見据えて、今年も「なるとビジネスプランコンテスト2025」が始動しました。

コンテストのスケジュールは秋から翌春にかけて続き、実践的なブラッシュアップ機会が豊富なのも魅力です。

「まずはやってみたい気持ちがあれば十分ですよ」——商工政策課の担当者がそう語るように、門戸は広く開かれています。


第2章 創業コーディネーター・里見氏がほどく“参加者の肩の力”

午後6時。柔らかなざわめきが落ち着くと、里見和彦さんが前に立ち、穏やかな声で話し始めました。

最初に飛び出したのは、参加者たちの緊張をふっと溶かすひとこと。

「創業は、型にはまらなくていいんです。まず“自分が何をやりたいか”を決めること。働き方は自由でいいんですよ。」

約10人という少人数だからこそ、声の抑揚や間の取り方までがダイレクトに響きます。
参加者たちはそれぞれノートを開き、静かにペンを走らせながら耳を傾けていました。

里見さんの講義は、抽象論ではなく“今日から使える話”ばかり。
事業計画の作り方、創業のステップ、失敗と改善のプロセス……。
参加者は時おり「なるほど…」と小さくつぶやき、真剣な表情で頷いていました。

講師との距離が近いため、気になった疑問はすぐ口にできる環境です。
その温度感が、参加者一人ひとりの「やってみようかな」という思いを、そっと後押ししているようでした。

第3章 突然の“無茶ぶり”にも笑顔で応える創業者・本城萌華さん

続いて登壇したのは、昨年の準グランプリ受賞者・本城萌華さん。
現在、鳴門市内でドッグケアサロンを経営しています。

柔らかい声で創業に至るまでの経緯や、今後の展開等をお話してくださった直後、里見さんからの突然のひと言。

「昨年のプレゼン、ここでやってみましょうか。」

会場にざわ…っと小さな波が立ち、記者も「いきなり?!」と驚きました。
しかし本城さんは笑って一言。

「ええ、構いませんよ。」

そこからは、昨年の最終審査で使った資料をそのまま投影し、堂々とプレゼンを披露。
声のトーン、スライドの間、課題設定の深さ——どれも“受賞者の実力”が伝わるもので、参加者たちは食い入るように見つめていました。

質疑応答では手が次々に挙がり、

「資料作成はどのソフトを使っていますか?」
「AIツールは活用していますか?」

「店舗の立地を大麻町※に決めた理由は?」

「SNS広告は使用していますか?」

と、すぐに現場で役立つ質問が飛び交います。

※鳴門市大麻町・・・市中心部から車で10分ほどの位置にある町

そして「創業で苦労したことは?」という質問に、本城さんは少し考え、静かに答えました。

「ないですね。」

会場が一瞬ざわめき、スタッフも目を丸くします。
でも、その表情はどこか清々しく、「やりたい」という想いがあれば困難も“壁”ではなく“通過点”になるのだと感じさせるものでした。

また、その想いを実らせるための徹底した準備やリサーチが重要だということが、お話の中から伝わってきました。

昨年度の「なるとビジネスプランコンテスト」最終選考会でプレゼンテーションをする本城氏

第4章 小さな輪だから伝わる、挑戦者たちの熱量

講座の最後には、「なるとビジネスプランコンテスト2025」の応募概要と今後の流れが紹介されました。
里見さんの説明を聞きながら、参加者たちはゆっくりと頷いたり、メモを書き込んだり——10名ほどの小さな輪だからこそ、互いの反応がそのまま伝わってくる温かな時間が流れていました。

グランプリ30万円、準グランプリ15万円などの副賞に加え、一次審査、ブラッシュアップ相談会、公開プレゼンなど、挑戦を後押しするステップがしっかり準備されています。
けれどこの日、印象的だったのは金額や制度より、“自分の想いを形にしていいんだ”と気づいた瞬間の、参加者それぞれの表情でした

講座が終わった後も、数名がそのまま席に残り、講師に質問を続けたり、参加者同士で「どんなアイデアを考えているんですか?」と自然に会話が生まれたり。
静かに熱が残るような、そんな余韻が会場に漂っていました。

小さな集まりは、時に大きな学びを生みます。
この日参加したみなさんは、きっとそれぞれの場所で、小さな一歩を踏み出す準備が整ったのではないでしょうか。

まとめ

今回の講座を取材して感じたのは、“少人数だからこそ生まれる学び”の深さでした。

里見さんの「型にはまらなくていい」という言葉、本城さんの「苦労はない」という笑顔——

それらは大きな会場で聞くより、むしろこの距離感だからこそ、心にすっと落ちていったように思います。
創業という道に立つと不安はつきものですが、この日の参加者の表情は「やってみてもいいんだ」と前向きに変わっていく様子がありました。

鳴門市の街並

鳴門というまちは、都市部ほどのスピードや喧騒はありません。
しかしその分、人の想いや挑戦をゆっくり受け止める“余白”があります。
少人数の講座がこれほど温度のある場になるのも、きっと鳴門という土地が持つ力なのかもしれません。

これから応募を検討している方に伝えたいのは、「完璧でなくていい」ということ。
まずは心の中の小さなアイデアを言葉にしてみる。
その一歩が、あなた自身の未来だけではなく、このまちの未来を動かしていくかもしれません。

鳴門で挑戦する人が、またひとり増えていくことを願って。
そして、その“ひとり”が次のあなたでありますように。

◆なるとビジネスプランコンテスト2025 応募詳細はこちら

https://www.city.naruto.tokushima.jp/jigyosha/chushoshien/businesscontest/2025boshu.html