指出一正(ソトコト編集長)
月刊『ソトコト』編集長。
島根県「しまコトアカデミー」メイン講師をはじめ、
地域のプロジェクトに多く携わる。趣味はフライフィッシング。

柴田英昭/淀川テクニック(アーティスト)
2003年より大阪・淀川の河川敷を拠点として活動。
ゴミや漂流物などを使い、様々な造形物を制作している。

 

 

 

佐伯の川の色が忘れられない。藤河内渓谷の桑原川は水底の岩盤の色を乱反射してコバルトブルーを帯びる。番匠川は、おさかな館で見られるような魚や蛙、そして我々人間まで含めた様々な生命体を受け入れる器量の大きい川でもあり、一矢返の浅瀬の透明感は、曇天の空を映してもなお強い輝きを放ち、自然の純粋さを伝えるかようにその光は鋭く心に刺さった。

今回はソーシャル&エコマガジン「ソトコト」の編集長、指出一正さんと造形作家、アーティスト「淀川テクニック」こと柴田英昭さんとともに「川」をテーマに佐伯市を訪れた。

 

 

指出さんは雑誌編集長と同時に地方を楽しむプロフェッショナルとして日本中で様々なプロジェクトを牽引している。それらの仕事の中心にあるのは、やはり何と言っても釣り人としての魂だ。趣味、というよりは世界観としての釣り人で、自然との関わりやその循環の中で生きていく極意のようなものが釣り人としての指出さんにはあって、その極意はきっと川から学んだはずだ。その川に時代とともに変わるところ、変わらないところ、があって、そういう繊細なものを読み取る力が指出さんに日本の未来を感知し、指揮をとるように導いたのだと思う。

道路や鉄道が発達するまでの大規模移動手段は常に海や川のような水を使ったものだった。古代文明は全て巨大な川に沿って築かれてきたのも思い起こすと、「川」の重要さは疑う余地がないだろう。行政区分ではなく「川」による風習の区分は可能だろう。

 

川マニアの指出さんが指名したのが「淀川テクニック」柴田英昭さんだ。ひとつの川に落ちているゴミを素材として、それぞれを作品の断片とみなし、立体作品として接合、統合していく。柴田さんは作風から連想されがちなゴミの放棄や環境問題といったような道徳性にこだわる様子もなく、コラージュ、アッサンブラージュといった無意識や偶然性を押し出してくるシュルレアリスムとも違うように感じる。柴田さんの造形は、もっと生活に寄り添うまろやかさを持つ。たぶん、柴田さんのアーティストとしての在り方は、釣り人に近いのではないだろうか。

 


2日間、後述のように佐伯を巡り、佐伯を食べた。柴田さんは作品をひとつ番匠川のゴミで作ってくれた。指出さんは小さな、ガリガリ君と同じサイズの水槽で、視点の解像度を上げることで、見慣れた自分の身の回りのことに、全く違う彩を見つけることが出来るかを示してくれた。
佐伯の、落ちていたゴミで新しい芸術作品が生まれ、新しいものの見方を考える。社会の在り方を整える。つまり僕らは2日間ずっと世界の中心で未来の話をしていたのだと思う。

 

 

slow cafe 茶蔵

さいき・あまべ食べる通信発行人の平川摂さんと待ち合わせ。茶蔵の染矢弘子さんも一緒に作っているとのこと。顔の見える食材を丁寧に使うな素敵なお店。玄米の味が忘れられない。
同敷地内の宝来家旅館も情緒あふれる必見の旅館です。

大分県佐伯市船頭町14-28 宝来家旅館
HP:https://www.houraiya-chakra.jp/

 

本田重工業(株)

佐伯の移住者、大野達也さんの紹介で造船所を見学させてもらった。造船所の風景を見て、ああ、クレーンゲームの原点はここにあったのか、と妙に合点がいった。巨大なクレーンで持ち上げる重厚なパーツや器具。指出さんも柴田さんもその壮大な景色、溶接の閃光、そういった現場の迫力にすっかり見とれていた。佐伯ではいくつかの造船所で、進水式が見学可能ということ。とんでもなく面白いのでこれは絶対におすすめである。戦後に興隆したという佐伯の造船業。周辺のどの建物よりも高いクレーンが屹立する様は、いまや佐伯の原風景と言えるのではないだろうか。

大分県佐伯市鶴望5026-1
HP:https://www.hondayard.co.jp/

 

第三金波

ライブ配信前に佐伯寿司を代表する名店でお寿司を少し頂きました。さいき・あまべ食べる通信の平川摂さんが真鯛のあまりのおいしさに涙した所。大将の田中博さんは一流の地魚の目利きであるとともに、大の日本酒好きでもあって日本酒の種類も豊富です。短時間でしたが大分に住む喜びをお寿司を通して噛み締めた瞬間でありました。ぜひ佐伯に行かれた際はお立ち寄りください。ここでしか味わえない風土を舌にのせることは最高の贅沢です。

大分県佐伯市内町3-28

 

あまべ文化研究所 遊志庵

築150年、迫力の古民家。今回のライブ配信の会場と、大分で会える人として、代表の岩佐礼子さんに登場してもらいました。岩佐さん、才人です。国際経験豊かで、そのうえで地元を見通す滋味深い眼差しの持ち主。佐伯の未来を感じずにはいられない。
遊志庵はいろんな使い方ができるそうです。HPをご覧ください。

大分県佐伯市戸穴 1304-1
HP:https://youshi-an.jimdo.com/

 

柳井商店

ライブ配信後、みんなでふぐをいただきました。最高にうまいし、社長の柳井さんのふぐ業界でのイノベーターっぷりに圧倒。楽しくおいしくいただきました。
北大路魯山人が最も好きだった食べ物、それはふぐなんです。

大分県佐伯市野岡町1丁目8−27
HP:https://www.fugunoyanai.net/

 

藤河内渓谷

ツアー2日目はここ。祖母傾国定公園内に位置する。川底の岩盤の形状が目を見張る美しさ。また水の美しさは思わず飛び込みたくなるほど。キャニオニングという川下りアクティビティが楽しめます。キャンプ場もあり。夏はもちろん最高ですが、装備を揃えて冬もいいのでは? 凍結した渓流と白銀の霜の世界に耽溺したい。本当に気持ちのいいところです。

 

肉の宮本

お昼は宮本さんで牡丹鍋コースをいただきました。しし鍋ですが柔らかく繊細なお味。宮本ミヤ子さんがご説明下さいました。いい時期のいい肉しかございません、とおっしゃる通りのお肉。処女肉しか使わないとのお話も。
何もかも美味しかったのですが、僕はお肉の他には特に煮豆に感動してしまって、指出さんの分をもらって食べてしまったぐらいです。

大分県佐伯市宇目大字千束2127-2

 

番匠おさかな館

立川淳也館長にご案内いただきました。お魚愛溢れる特別な方、という印象。指出さんも大喜びです。決して大きくはない水族館ですが、「愛情が注がれているのがわかる、すごくいい水族館」だと指出さんの言。

大分県佐伯市弥生大字上小倉898-1
HP:http://michinoeki-yayoi.com/osakanakan/index/

 

一矢返

番匠川にある浅瀬ポイント。おさかな館、立川館長が連れて行ってくださいました。たくさんのお魚やカワゲラと触れ合えます。近くに民家もたくさんあり、舗装された道路も川に沿って敷かれているのに、驚くべき透明度。こんな川が普通にあるのが佐伯の底力なのだと思わずにはいられない。作品に魚の造形も多い柴田さん、おおはしゃぎ。また番匠川で制作したくなったのではないでしょうか。でも、このへんだとゴミを見つけるのが大変、て言われるのも望ましいとも思うのです。

大分県佐伯市本匠大字波寄一矢返

岩尾晋作
(カモシカ書店店主、「大分で会いましょう。」コーディネーター)