地方での暮らしに欠かせない車。福島県内でも、普通自動車の運転免許が取れる年齢になると多くの人が教習所に通います。長年、相双地域における運転免許の取得ニーズに応えてきたのが、浪江町にある「ふたば自動車学校」です。東日本大震災後、10年に及ぶ休業期間を経て2021年11月に事業を再開。再びこの地になくてはならない存在となった同校は今、指導員、カスタマースタッフなど幅広い職種で人材を募集しています。現地を訪問し、長沼克往(ながぬま かつゆき)代表と職員のお二人に話を聞きました。
交通安全を守り、活躍の場拡大をサポート
JR常磐線浪江駅から南へ2キロあまり。ふたば自動車学校の教習施設は、市街地から少し離れた高台にあります。まず目に入る教習コースはきれいで広々、とても走りやすそうです。「まるで公園の中を走っているように」と設計されたというこのコース、芝生も植栽も手入れが行き届き、春には花で彩られるのだとか。

同校を運営する有限会社双葉自動車学校の長沼代表によれば、2021年に営業再開するにあたり、コースも教習車も全面リニューアルし、建物も新築したそうです。その建物内には、教室・講習室のほか四輪・二輪のシミュレーター室、救命訓練専用の部屋なども備えられています。


シミュレーター室での教習の様子。危険な状況を安全に体験できる
教習コースの隣にあるのが、再開とともに新設された産業機械講習所です。取材に訪れたときは、ヘルメットをかぶった受講生2名が、小型移動式クレーンとフォークリフトの操作実技を習っているところでした。こちらもすべて最新の設備で、快適な講習環境が整っています。

このように、ハード面では新しさが際立つふたば自動車学校ですが、その歴史はけっして短くありません。創業は1963年。現代表の克往さんは2代目です。2010年、警察署の再編を機に校名を浪江自動車学校から「ふたば」を冠した名前に変更し、文字通り双葉郡を中心とする広域の運転免許取得ニーズに応えてきました。
「昔、この辺りの常磐線各駅には、高校がだいたい1校ずつあったんです。うちにはその生徒さんたちが、南は富岡町、北は南相馬市からも来ていました。12月~3月や夏休み時期などはたいへん忙しかったですね」
東日本大震災と福島第一原発事故の影響で、元からあった高校の多くは休校になってしまったものの、双葉郡内唯一の教習所であるふたば自動車学校には、今も浜通り一円から多くの生徒さんが通っているといいます。もちろん受講者は高校生だけではありません。同校では、仕事に役立つ一種免許すべて(大型、中型、準中型、普通、大型特殊、けん引)に加え、ツーリングなどの趣味にもいかせる二輪免許(普通・大型)も取得可能。さらに高齢者講習、取消処分者講習はもちろん、産業機械講習も受けられるため、県外からを含め幅広い層の受講生が増えているそうです。

長沼克往代表
「大型自動二輪の教習を始めたのは、福島県内でうちが第一号だったんですよ。今でも需要は多いですね。4年前に産業機械講習所を開いたのも、地域のニーズに応えるためです。私たちは、ここに暮らす人々の交通安全を守るとともに、復興に尽力する方々が安全に作業できるよう、また現場で必要とされる免許を取得して活躍の幅を広げられるよう、全力でサポートしています」
企業は人なり、社員は家族
そんな多様な受講生を教える教官(指導員)の一人にもお話を聞いてみました。紅一点の指導員、石田富子さんは指導員歴約10年。以前はいわき市内の教習所で教えていましたが、2022年3月にこちらへ来たとのこと。なぜ転職を考えたのでしょうか。
「私はここの卒業生なんです。もう20年以上も前ですが、当時はとてもお世話になりました。2021年、この学校が10年ぶりに再開したとき、私が昔、教わった先生方が引き続きがんばっておられると聞いて、微力ながら恩返しがしたいと思い、応募しました」

石田富子先生
卒業生にそんな愛校心をはぐくむふたば自動車学校。一般に教習所の教官には「怖い」という印象をもつ人も少なくないようですが、長沼代表は「そういうイメージを払拭したい」と語ります。
「だって、うまく運転する技術がないから習いに来るんでしょう。できないのは当たり前。すべての指導員に、自分の身に置き換えて、と伝えています。だから、うちには、教官に怒鳴られた、高圧的な態度を取られたなどというクレームは一度も来たことはありません。ほかの自動車学校で辛い思いをした人がうちに来て、ぜんぜん怒られないので拍子抜けした、とおっしゃることもあるくらいです(笑)」
そんな長沼代表のやさしさは、経営の隅々にまで感じられます。もっとも象徴的なのは、休業中の10年間、職員を雇用し続けたこと。2011年3月の原発事故で浪江町は全町避難となり、ふたば自動車学校に限らず、避難区域内の事業所はみな休業や廃業、あるいは縮小・移転を余儀なくされました。やむなく従業員の解雇に踏み切った企業も少なくないなか、長沼代表は「それだけはできなかった」と振り返ります。
「当時、職員は25名以上いました。私は彼ら全員を家族だと思っていたし、職員一人ひとりにも家族がいます。彼らを路頭に迷わせるわけにはいかない。『企業は人なり』という先代の言葉を思い起こし、一人も解雇せず給料も払い続けました。もちろん経営者としてありとあらゆる努力をしましたが、自動車学校自体は仕事がないから売上ゼロ。大変でしたよ。特に最初の3年ほどは、いつ浪江に帰れるのか見当もつきませんでしたから」

それでも長沼代表と職員たちは、それぞれの避難先から定期的に集まって近況報告を行い、「必ず再開するぞ」と誓い合いました。代表自身、浪江町に入るのにまだ許可証が必要だったときから月に数回、想いの詰まった職場の様子を見に通い、悔しさをバネにモチベーションを維持してきたそうです。2017年3月末、6年ぶりに浪江町の一部で避難指示が解除されると、代表は、避難先から通うことになる職員が平日だけでも町内に寝泊まりできるよう、専用アパートまで建設して再開準備を進めます。そして、2021年11月、ついにふたば自動車学校の門が再び開いたのでした。
「10年の間には定年や転職、諸般の事情で辞めた職員も多数いました。でも、再開時の職員9名は全員、元いたメンバーです。そこには自動車学校に必要な校長も含まれます。彼は当時もう70代後半でしたが、自分ががんばらなきゃいけないと、10年のブランクで無効になってしまった必要資格をすべて取り直し、再開を可能にしてくれました。ありがたかったですね」
再開を見届けて1年後に交代した校長先生を除き、残る8名は現在も勤務しているとのこと。再開後の採用者も含め、現在は教習指導員8名、産業機械講習講師4名、事務員4名に校長先生を合わせて17名の陣容です。さらに、拡大するニーズに合わせて人員増強を計画中。すべての職種で人材を募集しています。
ここで働く親を子どもが誇りに思える職場に
そんな職場の雰囲気は、和気あいあいという表現がふさわしいようです。先代代表のころから、食事会も旅行会も基本は全員参加だそう。そこに強制感がないとすれば、それはやはり代表の気持ちが伝わっているからなのでしょう。
「楽しむときはみんなで楽しむ。苦しいときはみんなで汗を流す。たとえば、誰かが車を洗っていたら手のあいている人は手伝う。ここではそういうことをみんな自然にやっています」
職場の最年少という、大澤茉央(おおさわ まお)さんにもお話を聞きました。大澤さんは2023年、田村市から移住して入職。カスタマースタッフとして受付や事務、配車などに従事しています。

大澤茉央さん
「私は以前、自分からお客様に話しかけるのが苦手だったのですが、皆さんの指導のおかげで、最近は慣れてきたかなと思います。卒業生の方がここに通ってよかったと言ってくださるとき、いちばんやりがいを感じますね。私は町外から引っ越してきて、土地勘もなく知り合いもおらず、初めは少し不安でしたけど、周りは優しい方ばかり。自分は一人じゃないという感覚が生まれ、不安はなくなりました」
社歴や出身地にかかわらず、分け隔てなく全員で助け合う環境であることが伝わってきます。
最後に、ふたば自動車学校はどんな人材を求めているのか、長沼代表に伺いました。
「元気とやる気がある方ならどなたでも。適材適所で配置しますので、年齢・性別に関わらず幅広く採用したいと考えています。教習指導員は未経験からでも大丈夫です。必要資格を取ってデビューするまで私たちが全面的にサポートします」
国家資格である教習指導員。6科目の講習(事前教養)、資格審査、実習(事後教養)と、独り立ちまでに一定の時間はかかりますが、世のなかに自動車が存在する限り必要とされる、いわば一生モノの資格です。
「手っ取り早く稼ぎたいというより、安定して長く働き続けたい、という方に向いているでしょう。そのためにはもちろん、企業としても安定した経営を目指します。私たちは、『うちのお父さん・お母さんはふたば自動車学校の先生なんだ』と、子どもが胸を張って言えるような学校でありたい。そして、その誇りに見合った仕事をしてもらいたいと思っています」

苦しかった10年を励まし合って乗り越え、再び地域に貢献する存在となったふたば自動車学校。長沼代表のもと、代表が大切にする「家族」とともに、同校はこれからも発展を続けます。
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■ふたば自動車学校(有限会社双葉自動車学校)
所在地:〒979-1525 福島県双葉郡浪江町大字高瀬字小高瀬迫198-3
営業時間:火~土曜9:00~19:40/日・祝日9:00~17:40
定休日:毎週月曜、第2・第4日曜
TEL:0240-34-2535
URL:https://futaba-ds.com/
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取材・文:中川雅美(良文工房) 撮影:及川裕喜
