ひろしまサンドボックスの取り組みのひとつに、HIROSHIMA OPEN ACCELERATOR(広島オープンアクセラレーター)がある。広島県と広島銀行、Crewwによる協同プロジェクトで、広島県内の企業が自社の課題とリソースを公開し、スタートアップ企業からソリューションを募る。集まった情報やアイデアを共創的にブラッシュアップし、新規事業の創出を目指すプログラムだ。本記事では、HIROSHIMA OPEN ACCELERATORに参画している5社の1社、青山商事株式会社に、課題とリソース、集まったソリューションや期待する成果について話を聞いた。

全国に約900店舗を構える業界No.1企業の課題とは

青山商事の主力事業は「洋服の青山」や「THE SUIT COMPANY」などのブランドを擁するビジネスウェア事業。全国に約900の実店舗を構え、スーツを中心とする各衣料品の販売事業を展開している。誰もが知る大企業ではあるが、会社の将来にとって新規事業が不可欠と考えている。

「今後、少子高齢化、生産年齢人口の減少などの人口構造問題やオフィスウェアのカジュアル化やカスタマイズ化といった消費行動の変化が予見されています。そこで、当社は更なる事業環境の変化に対応する為のプロジェクトを推進しています。持続的な成長は、変革と創造なくして成し遂げられないと考えており、第2、第3の次世代事業の創造が必要です。」と話すのは、総合企画部の吉野さんだ。

青山商事は、現在連結子会社23社及び非連結子会社5社により構成されている。直近では靴の修理や鍵の複製をはじめとした総合リペアサービスを提供する「MISTER MINIT」や、雑貨・インテリアを取り扱う「WTW(ダブルティー)」を完全子会社化し事業領域の拡大を図ってきた。

「これまでも、中期経営計画『CHALLENGEⅡ2020』で掲げた次世代事業の創造と育成に取り組んできましたが、本プログラムでは、スタートアップ企業様の持っている斬新なアイデアやテクノロジーと当社のリソースをマッチさせ、今までにない新たな事業やサービスを創造したいと考えています。」

青山商事では、HIROSHIMA OPEN ACCELERATORへの参画に先立つこと1年前、2018年から社内公募型の新規事業創出にも取り組んでいる。応募があった中の数案は、今も事業化へ向けた検討段階にある。にもかかわらずこのプログラムに参画したのは、社内からは出てこないような広い視野で青山商事のリソースをとらえた斬新なアイデアを期待してのことだ。吉野さんはまた、「このプログラムのいいところがもうひとつあって、実証実験により検証ができることです。事業アイデアを実際に試した上で、収益化できそうなものに本格的に資金を投じるというプロセスを踏むことができるのも魅力でした。」と話す。

青山商事は募集にあたり、「何度も店舗に足を運びたくなるサービスづくり」、「新規事業の創造」、「地域密着のサービスの創造」という3つのテーマを掲げた。主な目的には、同社のもっとも大きなリソースである全国47都道府県を網羅した約900店舗のネットワークを活用することだ。

「当社では、現在次世代型店舗である『デジタル・ラボ』の出店を進めており、順次拡大を予定しています。」

『デジタル・ラボ』を出店した店舗では、ECと店頭の在庫を連動させることで、店頭に同じ色柄のサイズ違いを並べる必要がなくなる。顧客は店内を歩きまわることなく、店頭に設置されたデジタルサイネージをタッチして好みのスタイルや色柄を見つけ、採寸・発注を済ませたら手ぶらで帰ることができる。素材感などは実物での確認も可能だ。これにより、スーツ1,500着の店頭在庫を置いていた売り場が、3分の1程度の面積ですむようになったのだ。

「『デジタル・ラボ』の導入が進めば進むほど、全国の店舗で余剰地が生まれます。この余剰地に何か新しいサービスを入れることで、地域に必要とされ、スーツ以外の目的でも足を運んでもらえる店舗に進化させたい。明確なニーズから、このテーマを打ち出しました。」

40件の応募から数社を厳選 ブラッシュアップを経て実証へ!?

公募した結果、青山商事には約40件の応募が集まった。提案の質は、どうだったのだろうか。
「実は当初、既にあるサービスの導入を提案いただく、言ってみれば営業的な提案が多かったのです。魅力的なサービスもありますが、単にサービスを導入するだけでは新規事業になりません。なので、こちらも受け身ではなく、社内のどのリソースと組み合わせるとシナジーを生むのかを考え提案させてもらっています。打ち合わせを重ねて、当社に合わせた独自の事業にできるかが重要だと思っています。」

現在、数社に絞り込んだ上で実証実験に進むかどうかの模索が続いている。検討しているのは、さまざまな角度から青山商事の既存事業に切り込み、新たな展開をもたらす可能性を秘めたアイデアだ。

既存顧客のロイヤリティーを高める仕組み。店舗の余剰地を活用したサービス。顧客の再来店を促進するITコンテンツ事業は、傘下の印刷・メディア企業株式会社アスコンとの協業を模索中だ。

「スタートアップ企業の方々は、『これから新しい芽を出すんだ』という熱意にあふれていて、刺激になります。仲間のような気持ちで新しい事業を一緒に作り上げていくプロセスは、純粋に楽しいです(吉野さん)。」

最終的な協業パートナーには、12月中旬にその旨が通知される。年明けと同時に実証実験の準備が始まり、1月~3月に実証実験を実施。早ければ春には、新サービスがお披露目となる運びだ。

HIROSHIMA OPEN ACCELERATOR全体としては、青山商事を含む参画企業5社の課題やリソースに対して、150社を超えるスタートアップから提案が集まった。提案企業は「ひろしまサンドボックス推進協議会」のメンバーとなり、さらに県内企業との継続的な交流へとつながっていく。広島の企業と全国のスタートアップとの間で起きているいくつもの小さな摩擦がどんな芽を出すのか。ひろしまサンドボックスとHIROSHIMA OPEN ACCELERATORの今後に注目したい。

取材・文:浅倉 彩