「民泊」と呼ばれる領域が拡大の一途をたどっています。個人が自宅の空き部屋を貸し出す小規模のものから、新築の大人数に対応可能な宿泊施設まで、幅広い形態の宿泊サービスが「民泊」と呼ばれ、注目を集めています。

インバウンド観光客の増加や、地方創生による地域観光を背景に、従来の宿泊では得られなかったような体験価値を提供する宿泊施設も増えています。

今回の連載では4回にわたって、広く民泊を通じて、生き方を変えた人たちに注目し、ライフスタイルとしての民泊経営に迫ります。

目の前に海が広がる瀬戸内隠れ家リゾートCiela(シエラ)

瀬戸内海に浮かぶ離島「百島」。尾道港から客船で25分のこの島に、目の前に瀬戸内海の絶景が広がる一棟貸し切りの宿、瀬戸内隠れ家リゾートCiela(シエラ)があります。

著名人の間でも、「行ってみたいが、なかなか予約が取れない」と話題になり、年々注目度を高めています。この宿を立ち上げたのが、東京のサラリーマンから転身、広島へ移住し、自分自身の感性でこの場所を作り上げた高掛智朗さんです。

高掛さんはなぜここを作ったのか。今後の民泊市場はどうなっていくと思うかを、現場の最前線からうかがいました。

自然を感じられて、人が快適に過ごせる場所が理想の隠れ家リゾート

施設の目の前が海という絶好のロケーション

— 運営されている上で、こだわりのポイントはありますか。

高掛:滞在するお客様に、瀬戸内の自然を体験していただける環境を提供しています。私の場合は、魅力的な自然環境があって、その中に人間の居場所を作るという考え方で施設作りを行っていて、Ciela(シエラ)を拠点に、海辺で魚釣りをしたり、BBQしたり、コーヒーをサイフォンで淹れてゆっくり読書したりと、瀬戸内の自然環境の中で自由に楽しんで頂きたいと考えています。

— そのための工夫などはありますか。

高掛:何か体験しようと思ったときに道具が必要ですよね。Ciela(シエラ)ではBBQや魚釣りなど、自然と関わるための道具を施設に準備していて、滞在される方が思い思いに自然を体験できるようにしています。

私自身がアウトドアが大好きで、快適にアウトドアを楽しめる空間づくりがしたいと思ったことが背景にあります。

海を眺めながらコーヒーを淹れたりも。施設の備品も少しずつ新調されているそう。

— この場所を選んだ背景を教えて下さい。

高掛:私の場合は、魅力的な自然環境が大前提で、そこに人間の居場所を少し足すという考え方で場所を選んでいます。目の前に砂浜と海があるというのは、他の瀬戸内エリアの中にはない提供価値に成りえるなと。

Ciela(シエラ)だけに限らず、自然を感じ、訪れた方が快適に過ごせる場所をもっと増やしていきたいと考えていまして、現在、2棟目のオープンに向け、準備を進めています。

海遊びや山遊びが前提にあって、人が快適に自然を楽しめることを重視して空間を作っていきたいと考えています。

屋内にも爽やかな風が入る

子育てを東京でするのかという疑問。ライフスタイルをシフトさせたくて始めた暮らし

— Ciela(シエラ)を始めた理由はどのようなものなのですか。

高掛:瀬戸内隠れ家リゾートCiela(シエラ)は2016年1月から始めています。もともとは東京でITの仕事をしていて、結婚・子育てという時に、東京で生活するイメージが湧かないなと思ったんです。それで、日本各地を周って検討した結果、これからは瀬戸内が面白いと思い、家族と相談して決めました。

この地域で自分の理想の暮らしや、生活空間を作りたいという思いがあって、偶然、今のCiela(シエラ)の場所を見つけられたんです。当初は別荘としての利用を考えていたのですが、ちょうどAirbnbが少し話題になり始めた頃で、シェアするという発想になりましたね。

自分が楽しいと思えることを、多くの人と分かち合おうと思ったんです。

— もともと空き家だったものをリノベされていると聞きましたが、資金計画などは最初からあったのですか。

高掛:まず自己資金で始めました。宿泊施設として事業が成長する根拠もなかったので、現在の状況は結果的にこうなったという感じです。まわりの方々に、ここはやめておけと言われたりしたんですが(笑)、自分自身がこの場所に光るものを感じたので、土地を購入して家族や仲間とDIYで直して空間を作り、貸し出せる状況まで形にしました。

屋内も滞在しやすいこだわりが随所に。

— 反響はどのようなものがありますか。

高掛:この場所を作る時、遊休不動産をリノベーションして新しい提供価値を生み出そうと考えていて、そして今、日本中、世界中から目的地として選ばれ、多くのお客様にお越し頂いている事が嬉しいですね。

2019年は年間で650人くらいに利用頂き、7月、8月はほぼ満室。それ以外の季節は土日を中心に埋まっていますね。ちなみに百島の島民は400人弱なので、その人数よりも多くお越しいただいています。

自分も地域もうれしい関係づくり

誰もが笑顔になってしまうという食事は海の目の前で。

— 地域とも関わりながら運営されているのですか。

高掛:島民の方にご協力いただきながら運営しています。私が集客と予約を担当し、島民の方に、チェックイン/アウト、清掃等を担当して頂いています。

島民のみなさんからも好意的に協力を得ています。外からやってきて運営するので、最初は島で活動している人たちに説明しに行って、一緒に飲み会しながら時間を共にし、どこの誰が何を始めるのかということを伝えていきました。

若い人たちとの交流が、親世代にも伝わって、島全体に伝わったという感じですね。リノベーションも島の大工さんに手伝っていただき、地域の方々と一緒に仕事をして、今の状態があります。

— 島民の方にとっては外貨獲得の機会にもなっていますね。

高掛:私は根本的に、ソーシャルビジネスとして組み立てたいと思っているんです。 自然環境を保全しながら経済が循環し、世代が変わっても継続できるビジネスモデルでないといけないだろうと。島民の方への施設管理委託の他にも、地元のおじいちゃんが始めた料理屋さんが出張料理で来てくれるというプランもあります。島の中の人が、ずっと住み続けられる仕組みづくりを行い、地域を豊かにするソーシャルビジネスとして形作りたいと考えています。

求められるのは「みんなが来たくなるような場所づくり」

— 民泊をはじめて、暮らしや考え方等の変化はありますか。

高掛:東京でサラリーマンをした後、瀬戸内にしようと決めて広島に移住し、そこからも広島で4年間サラリーマンをしたんです。地元企業で働きながら、2年くらいかけて民泊事業の準備をしたんですね。

その過程で様々な事例を学び、民泊市場は大きくなりそうだということを感じ、自分自身のセンスとビジネスのやり方で身を立てられるのではないかと考え、この事業に挑戦しようと思ったんです。

試行錯誤して作りながらも、自分の感性から生まれる可能性を追求して、そして成果が出て、自信につながるということを体感しています。今後も、オンラインサロンやVlogなど、自分の遊び・体験やワクワクすることを仕事に繋げていこうと思っています。自分のワクワクが、ビジネスモデルにできるんだという考え方になったんです。サラリーマンはもう絶対できないですね(笑)

自分の人生の為に自分の時間を使うことの大切さを、これまでの経験を通して実感しました。

家族連れでの滞在も多い

— 民泊事業はどのよう方に向いていると思いますか。

高掛:民泊は様々な形態がありますが、これから大切な事は泊まる場所だけで考えないことだと思います。場所と体験の連動を考えて、そこに価値を付けていくことが必要だと思うんです。

自分やその空間の提供価値を考え抜いて、アウトプットができる方にとって、面白い領域ですね。 民泊に興味があれば、まずやってみる事です。 その上で、お客様の要望に合わせて変化させ続けることが成功へのプロセスだと思います。 そういった意味では行動力と実行力がある人に向いていると思います。

— 今後民泊市場はどうなっていくと思いますか。

高掛:今後は、施設があるスポット・エリアで出来る魅力的な体験を、提供価値にできる民泊施設が、お客様に選ばれていくような気がしています。

日本全国、地域の方達が魅力的だと思う体験を、多くの方が体験できる空間が作れると良いですね。その延長に滞在施設としての民泊があると思います。

多くの方達が民泊に可能性を感じてチャレンジするようになれば、世界のデスティネーションとして、日本の魅力が高まり、民泊市場が更に発展していくと考えています。

ぜひ、その民泊の可能性を、瀬戸内隠れ家リゾートCielaに滞在して体験してみてください(笑)。