―ツリホウの勝算みたいなものはあったのでしょうか?
西日本は東日本より人口に対する釣り人の割合が多く、老舗の釣り具メーカーの数が多いなど、東京ではなく福岡でやる強みがあるなと。
何より当時、僕自身が釣りにはまっていたのですが、釣りってかなり複雑で素人が一人で始めるには結構ハードルの高い趣味なんです。その上、見やすく情報がまとまっているサイトがなかった。自分と同じように困っている人の需要があるだろうなと思ったんです。
―自分がペルソナのモノづくりというのはなかなか無い気がします
未だに自分が欲しいものを作っていますが、確かにそれはかなり強みですね。
自分が欲しいものが何なのか、必要なのはどんな機能や情報なのか常に考えています。もちろん他の釣り人にヒアリングすることもありますけどね。
ツリホウを読むモチベーションさえあれば、初心者でも一人で釣りができるようにしたいというのが裏コンセプトとしてあります。ウミーベのコーポレートビジョンは「釣りを、やさしく。」というものですが、これにそってオンライン、オフライン問わずコンテンツや、サービスなどを展開しようと構想中です。
―メディア・ツリホウらしい強みはありますか?
ツリホウの読者は大半が日々ビジネスサイトを見るような、ITリテラシーの高い層ではないと思うんですよね。そのため可処分時間の取り合いの競合が少なく、一度ブランドが定着すれば継続的に見てもらえる。そこが特徴的だと思います。
メタの視点に立って選んだ福岡の地
―福岡でのスタートアップを決めた理由は何ですか?
住環境の良さが理由で移住した福岡でしたが、地方都市の中ではIT業界が盛り上がっていたことも移住の1つの決め手ではあったと思います。後はスタートアップが東京に集中してる現状があまり好きではなかったので。
―現状への挑戦ということですか?
スタートアップって東京の、特に渋谷新宿六本木あたりに集中してるんですよね。でもその立地でしか成功できないんだとしたら、裾野が広がらないなって思ったんです。そういった物理的な制約を解消することがインターネットの凄さだと思うし、だったら福岡の田舎の海辺で上手くいったら面白いなと。
―確かにITは場所を選ばないはずですね
もちろんデメリットがまったくないわけではないですが、運営していく中でいろいろなメリットを感じています。特に他の企業との差別化という意味では東京より、福岡のほうが圧倒的にやりやすいですね。東京の成功した会社みたいにコストをかけて社内にバーカウンターやビリヤード台を作ったりしなくても、窓の外が海ということだけで企業文化を明快に発信できる。しかも海はタダ(笑)。
―海辺のこの景色とオフィスの組み合わせは他にない気がします
スタートアップの創業期はとにかくお金がない。いかにお金のかからないリソースをうまく活用するかというのも大事なポイントだと思います。この立地のおかげで圧倒的に取材が来やすいので、ありがたいことにコストをかけずに露出が増やせる。特にテレビ関係の人は良い画が撮れるって喜びますね。名前もウミーベで、キャッチーだと(笑)。そのあたりの感覚は、前職で広報をやったり、フリーランス時代に自分がメディア側の仕事をしていた経験が生きていますね。
ウミーベの入居するシェアオフィスSALTからの景色
何でもやっておくこと、
マジョリティー的感覚を身に着け、生かすこと
―これから起業する人へのアドバイスを頂けますか?
とにかく色々やっておいたほうがいいと思います。
僕自身フリーランスの時代も含め、製作、デザイン、広報PR、ライティング、メディアの仕事と一通り経験しています。今ウミーベをやっていて、そこでやってみたことが全て生かされている感じがするんです。スティーブジョブスの点と線の話じゃないですけどね。後は、Webで何かを公開して、フィードバックを得る経験をしておくことは大事だと思います。
―Webでのフィードバックの経験とは、どういうことですか?
自分のアウトプットに対して、反応を集めるという経験すると言うか。媒体は何でもいいんです。ツイッターでも個人のブログでも。そこでインターネット上ではどんなコンテンツがウケるのかとか、同じ内容でも見せ方を変えたらバズったとか。そういう成功体験をしておくことがITの業界でやっていくために経験として生きてくると思います。
次はどうして上手くいったのか分析してPDCAを回す練習をしてみる。世の中の大半の人はこういった形のアウトプットの経験がないので、意識的にやってみると色々と掴めることがあると思います。
―そこでもマイノリティーであることが重要なんですね!
そうですね。当たり前のことを書いても誰も反応しませんから。
その一方で、ある程度遊んでおいたほうがいいと思います。起業したい人って真面目すぎる場合も多いんです。
多くの人はそんなに仕事ばかりしてないし、意識も高くありません。衣食住以外にお金を使うのって結局遊びや娯楽。そういうことに対する理解がないまま起業するとニーズを見誤る可能性が高い。自身も一消費者であるという感覚を忘れないことが重要だと思います。特にうちは釣りというレジャー領域なので、そういう感覚はすごく大切にしています。
幼少期における経験から、音大時代のバンドデビューを経て東京での1度目の起業。その後も数々の経験を経てウミーベを設立したカズワタベ氏。特異な経歴から生まれたマイノリティー側に魅力を感じるマインドと、マジョリティー側への共感が起業のポイントであると教えてくれました。学生時代にやってきてよかったこと、特にプロ意識を持って数字でのフィードバックを得るという経験はこれから起業を考えている人にとっては参考になるのではないでしょうか。新サービスの開発など、今後もさらにスケールしそうなウミーベの事業から目が離せません。
取材・文・撮影:編集部
●ウミーベ株式会社(umeebe Inc) 会社概要
- 所 在 地 : 福岡市西区今宿駅前 1-15-18 マリブ今宿シーサイドテラス5階
- 創 業 : 2014年8月1日
- 代表取締役 : カズワタベ
- 事業内容 : 釣りの情報サイト「ツリホウ」、釣り人向けスマホアプリ「ツリバカメラ」の運営開発
- ウミーベ株式会社 コーポレートサイト