地方創生のロールモデルとして全国にその名を知られる神山町。IT企業のサテライトオフィス進出をきっかけに、都市部の若者が集まるようになり、移住者の住居やオフィス、店舗としての空き家活用が進んでいます。こうした流れの中で、神山に残る古民家や修復技術を未来へとつなぐため、民家改修プロジェクトを実施。神山のまちづくりに深く関わっている認定NPO法人グリーンバレーの伊藤友宏さん、林大晟さんにお話を伺いました。

この記事の目次

▲認定NPO法人グリーンバレーの伊藤友宏さん。神山町への移住定住のサポートや空き家のマッチング、片付けなど仕事は多岐にわたる。

空き家活用の広まりは
テレビ番組の影響!?

神山町役場から『移住交流支援センター』の運営を任され、移住、定住のサポートや空き家・空き地の紹介を行っている認定NPO法人グリーンバレー。伊藤さんが移住や空き家の担当となった2015年頃はまだ「空き家を借りて住む」ことに関して地元の反応は、「よくそんな古い家に住むな・・・」といったものだったといいます。
「神山町で空き家活用が進んできたのは、移住交流支援センターの活動が知られるようになったこともありますが、空き家のリフォームを扱ったテレビ番組なども増え、世の中の認知度が上がったことが大きいでしょうね」。
マスコミの影響もあって、古民家活用への関心が高まると、「自分もやってみよう」と、住まい選びの選択肢として“空き家”を考える人が増え、都市部からの移住者だけでなく、最近では県内の若い人からの問い合わせも増えているそう。
「窓口の名称が“移住交流センター”なので、町内の人が『移住じゃないけど、いいですか?』と心配そうに訪ねてくることもありますが、空き家を活用したい人なら地元の人でも構いません。空き家を持っている家主さんからの相談にも対応しています」。


▲認定NPO法人グリーンバレー林大晟さん。伊藤さんとともに神山町への移住定住のサポートや空き家のマッチング、空き家の片付けのサポートを行っている。「神山町では、分別にゴミ出しルールに従って分別しておくと、神山町環境センターのトラックが家まで収集に来てくれます。空き家の片付けに限らず、たくさんのゴミを出すときは特別収集の申請をしておくと誰でも利用できますよ。まだ使えそうな家具などは、町の人たちに使ってもらえるよう倉庫にストックする取り組みも始めました。最近では改修工事をしている大工さんが建具などを取り置きしてくれることもあって、空き家活用の雰囲気が広まっているのは嬉しいです」。

大切にしてくれる人に
住み継いでもらうという選択

2018年4月1日から神山移住交流支援センターでは、「お家長生きプロジェクト」を開始。いつか空き家になった場合、同センターを通じて入居者を探してもらえるよう、居住している間に登録を行い、意思表示をしておくドナー登録のような仕組みです。
「この2年くらい固定資産税の納税通知書に、お家長生きプロジェクトのチラシを入れて送っています。お家長生きプロジェクト自体への申し込みはまだ少ないのですが、今現在空き家を所有している人からの相談は増えました。『空き家を貸してもいいよ』というだけでなく、空き家になっている期間もすごく短くなったような気がします。空き家になっている期間が短いので、状態もよく、修復にかかる費用が少ないため、借りる人のハードルも低くなり、物件が動きやすくなりました。空き家はそのままにしておいても傷むだけで、良くなっていくことはありません。誰か住んでくれる人がいるうちに貸し出して、住んでもらいながら、その後どうするかを考える。とにかく住める状態を維持していないと、後は取り壊すしかなくなりますから。空き家となるのが実家の場合、誰かに貸すのは心情的に整理の付かない部分やネガティブに思いがちですが、“実家を大事にしたい”という思いに寄り添って、その思いを引き継いでくれる人に紹介できるよう、心がけているので、まずは相談してもらえたらと思います」。

▲西分の家。単身者や小さな子供がいる家族が暮らすことのできるシェア型の住宅。1階の共有サロンに集うまちの人との交流を通じて、神山での暮らしの広がりが期待できます。詳細、問い合わせはウェブサイトから(https://www.in-kamiyama.jp/living/nishibun-living/)。


写真/森口耕次(KOJI MORIGUCHI)

空き家改修は町の未来を照らす光
2軒の民家改修プロジェクト

神山町の地方創生の推進戦略の中で、町から委託をうけて神山つなぐ公社が本格的に空き家改修を行った2つの事例があります。その名も「民家改修プロジェクト」。鬼籠野(おろの)と神領(じんりょう)の2つの地域に、町への移住を希望する人が暮らすことのできる「すみはじめ住宅」を整備しました。
改修費は1軒あたり約1600~2000万円。2軒ともシロアリの被害や老朽化がひどく、改修には大きな費用が必要になりましたが、神山らしい景観を守り、若い世代に修復・修繕の技術を継承する機会にもなると、プロジェクトを敢行。尾道の「空き家プロジェクト」も手がけてきた岡山県在住の建築家、(株)ココロエ一級建築士事務所の片岡さんに設計・監理を依頼し、地元の若手大工さんらを中心としたプロジェクトチームを結成し、実行されました。
はじめに着手した「西分の家」はシェアハウスで、柱や建具は古材を活かし、昔ながらの雰囲気を残しつつ、オートロックなどの最新設備も導入。居住スペースとは別に共有のキッチンとサロンもあり、町内外問わず、ワークショップやイベントなどに利用できます。


▲神山つなぐ公社の赤尾苑香さん。徳島県神山町出身。一級建築士。神山町の情報サイト「イン神山」では民家改修プロジェクトについての詳しい記事が掲載されているので、ぜひチェックしてみて。

もうひとつは 「寄井の家と店」。商店街の立地を活かして、誰もが立ち寄りやすく、人の流れが生み出せる場となることが望ましいだろうと、店舗併用型の「すみはじめ住宅」を整備しました。リノベーションにかかわった神山つなぐ公社の赤尾苑香さんは、「リノベーションの経験が豊富な建築家・片岡さんは古いものも残しつつ、新しい価値も加えつつ、といったことが得意な方。地元の大工さんも当時30代半ばで、設計者と年齢も近く、若いですが、古民家の技術を持っている人で、柔軟に対応してくれました。大変なこともありましたが、改修を終え、今まで真っ暗だったところに明かりが入るって、それだけで地域にとって心強い。改修の価値があったと実感しています」。


▲2Fの住居部分で暮らす飯沼謙太さんと松本祐佳里さん。コーヒーのいい香りと共に目が覚め、店舗部分に備え付けられたロシア式の暖房設備「ペチカ」のおかげで、冬も暖かい。「イベントをきっかけに神山に通うようになり、住んでみようか・・・と思った時にタイミング良くこの場所を教えてもらいました。今では神山の暮らしが気に入っています」と話す飯沼さん。

改修した2軒は、これから100年続く町の資産となるよう、基礎や構造躯体の補強、断熱、雨仕舞いなど、しっかりと手入れされたそう。工事期間中は障子貼りや壁塗りのワークショップ、完成後はイベントなども開催し、地域の人達も関わり、民家改修プロジェクトを通じて繋がった人と人、受け継がれる思いや技術が、未来の神山町の姿を見せてくれているように思います。

▲「寄井の家と店」の店舗部分には『豆ちよ焙煎所』が入っている。オーナーの千代田孝子さんは『カフェオニヴァ』など神山町のお店にコーヒーを卸している縁で、町が主催する住民会議などにも出席。そうした話し合いの場で自分の仕事と町のあり方とがリンクする部分があると感じ、「この町の人のためにしっかりコーヒーを焼きたい」との思いから出店を希望。パウンドケーキも好評で、コーヒー豆のピアスなどちょっと変わった商品もあり。

豆ちよ焙煎所
徳島県名西郡神山町神領字北85-3
電話 080-8863-9090
営業時間 12:00~17:00
定休日 土曜、日曜、祝日
https://www.facebook.com/mamechiyo.coffee

 

こんな風に暮らしています!
神山に移住し、空き家を活用してユニークな暮らしをしているお二人にお話を伺いました。

杉香庵 石田祐史さん

長年、中国で暮らすうちに中国茶に魅了され、中国茶の輸入販売専門店をオープン。「自分でもお茶の栽培をしてみたい」と県内で茶畑付き物件を探していたところ、NPO法人グリーンバレーの伊藤さんの紹介で馬の神様として知られる二ノ宮八幡神社近くの一軒家を借りることに。徳島でお茶といえば阿波晩茶だが、石田さんの興味は白茶。福建省や雲南省で作られている白茶を、試し作ってみようと、実験感覚で取り組み中。入り口を流木アートで飾るなどDIYも楽しみながら、ゆくゆくはサロンも造りたいとリフォームを続けている。

杉香庵データ
名西郡神山町阿野字地ノ平143-1
電話 050-2024-4274
営業時間11:00~20:00
定休日 不定休(来店の場合は事前に携帯 090-6487-3478に連絡を)

 

魚屋文具店 小田奈生子さん

友人から「空き部屋があるから入らない?」と声をかけられ、3人で住んでいたが、その後、友人達が神山を離れることになり、地域おこし協力隊の任期が終わるタイミングで魚屋だった1Fの店舗部分を利用して文具店を始めた。「私、文房具が好きなんですよ。ちょっとしたものはコンビニで買えるけど、カードとかプレゼントになるようなものは売ってないので、文房具屋さんがいいかな~って」。神山特産のすだちのマスキングテープなどオリジナル商品もあり、地元の人にも好評だそう。取材時は隣の空きスペースも改装中。何になっているか、ぜひ訪ねてみて。

徳島県名西郡神山町神領西上角354-3
営業日などはFBページをチェック!
https://www.facebook.com/sakanayabunguten/