オンラインで学ぶ大学生が、なぜ三重県の物流現場に?

2026年2月末から3月にかけて、三重県鈴鹿市にて行われた本プログラム。
物流業界の課題を題材に、現場の業務フローを自らの手で可視化し、DX・業務改善の提案をまとめ上げるプログラムです。地域の物流企業と、場所を問わず学ぶオンライン大学生。一見ちぐはぐにも感じるようなこの組み合わせが、なぜ実現し、現場に何をもたらしたのか。約1ヶ月のプログラムを追いました。

▽これまでの多貴商運の記事はこちらからご覧ください。

なぜ今、この取り組みなのか?

物流業界を揺るがす「2024年問題」。
残業規制の強化によって人手不足やコスト増が深刻化するなか、サプライチェーンを支える中小の物流事業者にとって、デジタル化(DX)や業務改善はまったなしの課題です。

多貴商運も、まさにその壁に直面していました。「トラックを走らせるだけが、私たちの仕事ではない」。そうした変革への思いを抱きながらも、毎日の忙しい現場を回しつつ、自分たちの中だけで業務の抜本的な見直し(BPR)を進めることに難しさを感じていました。

そこへ重なったのが、フューチャーリンクネットワーク(略称:FLN)とZEN大学が企画した本プログラム。「リアルな社会課題の現場に入り込み、実践的な学びを得たい」という学生たちと、「自社の現場にあえて“外の目”を入れ、DXの糸口を掴みたい」という多貴商運。この一致から今回の取り組みが実現しました。

1ヶ月の軌跡──5つのステップ

プログラムは2026年2月24日(火)から3月17日(火)の約1ヶ月間、三重県鈴鹿市およびオンラインで実施されました。
全日程は以下のスケジュールの通りです。

2026年2月24日(火)オンラインにて開催された顔合わせ・導入の様子

参加したZEN大学の学生4人は、2チームに分かれてプログラムに取り組みました。日常的にオンラインで学ぶ彼らにとって、現地・鈴鹿市での活動は特別な意味を持ちます。

3月3日、学生がはじめて現場へ足を運ぶ

午前9時15分、学生4人が最寄り駅に集合しました。多貴商運の本社へ向かい、午前10時から現場視察がスタートします。社長・役員・現場ドライバーに直接ヒアリングし、業務の実態を目で確かめる時間です。

現場で学生たちが直面したのは、業務のアナログな実態でした。手書きの伝票、属人的な配車判断、デジタルと紙が混在するフロー。見慣れない物流の世界を前に、学生たちはひたすら観察し、質問し、記録し続けました。一方で長年顧客と向き合ってきた情報の資産がたくさん蓄積されていることにも気づいたといいます。

午後は現場で得た情報をもとに課題を抽出し、改善案の検討へ。

視察の最後、社員との対話の中で学生が出したアイデアへの反応が思いの外よく、それが学生にとっての大きな手応えになったともいいます。

視察後、学生たちはオンラインでの準備を重ねていきます。のちのち学生に聞いてみたところ「3月3日に来てから、夜2〜3時間とかしょっちゅう打ち合わせしていた」日々が続いたといいます。スライド作成・内容の深掘り・役割分担の調整…そしてプレゼンの準備は当日の朝まで続きました。

3月17日最終発表、これまでの成果を披露

最終発表会は、東出社長をはじめ役員・社員5名が集まる中で開催されました。
当日のスケジュールは以下の通りです。

チーム①|自動配車システムの導入提案

チーム①が提案したのは「自動配車システムの導入」です。現状、配車計画担当者は外部連絡に多くの時間を費やしており、自社トラックの配送計画を自動化することで、担当者が溢れた依頼の他社手配に集中できる体制を目指しました。

具体的な提案として、既存の配車依頼Excelに自社計画済みか他社配車かを区別するステータスを追加したデータベース構成案を提示。ドライバーごとの稼働時間を瞬時に可視化します。

個人の労働制約や定期便スケジュールのデジタル管理の必要性も指摘しました。実装・維持にかかる労力や、依頼変更への対応力という導入障壁も正直に示した上で、手動の承認で完了する状態を理想像として描きました。準備の過程で確認不足につまずくこともあり、「細かいことを詰めながらやっていかないと影響が出る」という学びも得られたといいます。

チーム②|OCR導入とデータ可視化提案

チーム②が提案したのは、手書き伝票のOCR(光学文字認識)によるデジタル化と、Looker Studioを活用したデータ可視化です。実際にOCRを試し、数字の認識精度は高い一方で漢字の誤認識が多いという課題も率直に示しました。改善策として「間違った文字をAIに教え込む地道な学習」が最も確実だという現時点での地に足の着いた答えも出しています。

Google Maps APIを活用した配送ルートの最適化案を提示。APIコストを抑える運用シミュレーションにより、実用的なコストパフォーマンスを実証しました。また、ドライバーのフォークリフト作業への習熟度や希望といった定性的な要素をマッチング条件に組み込むなど、現場の心理的負担を軽減する独自の視点も盛り込んでいます。

14:30、社内実用化の視点から「本気の議論」開始

最終プレゼンテーションのあとに設けられたのは多貴商運の役員と社員による、この提案を本当に自社で採用できるかをジャッジする議論の時間です。そこには単なる教育プログラムの枠を超えた、実用性まで落とし込んで考える真剣な空気がありました。

そして迎えた、本プログラム最大の山場、東出社長から学生たちへのフィードバックです。

「我々にとっても、非常に大きな刺激になりました」そう切り出した東出社長。フィードバックは、各チームの提案の“核心”を突くものでした。「自動配車」を提案したチームに対しては、アナログな現場課題への深い理解を高く評価。その上で、「電話での通話内容をデータ化するという視点は、我々にとって完全に盲点だった」と、外部の視点ならではの新たな気づきを称賛します。

一方、「OCR(光学文字認識)と可視化」を提案したチームには、「手書きの良さをあえて残したDXは、現場の共感を生む」と、現場で働く人々の心情にまで配慮したアプローチを絶賛。「まさに自社が目指すべき構想と重なる」という言葉は、単なる講評という枠を超えた、経営者としての、偽りのない評価でした。

発表を受けて、東出社長からは「実際に課題解決まで学生と進めていきたい」と、今後の展開を期待する前向きな言葉がかけられました。

生まれた学び

学生たちのリフレクションには、現場でしか得られない学びが刻まれていました。

「自分が提案したことが大人や会社に影響するのが新鮮だった。大人になっても向上心を持って高め合うには、人との繋がりが大切だと感じた。」

「普段思っているけどやってないことに手を動かしてみることが出来た。」

「この場にいれたこと自体が学び。他の世代との関わりの中で学べることがある。」

一方、多貴商運にとっても、このプログラムは単なる学生受け入れ以上の意味を持ちました。東出社長は「学生が架け橋になって、AIもITもリテラシーの差が激しいから、ワンクッションになって推進してくれたら全社のレベルが底上げされるだろう」と語ります。

次回の記事では、多貴商運の視点からこのプログラムの現場で発された言葉にフォーカスし、さらに詳しくお伝えしてまいります。