“地方の老舗住宅会社のリブランディング”

そう聞くとロゴやキャッチコピーの刷新を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、三重県を拠点に30年の歴史を歩んできた株式会社サンクスホームが向き合ったのは、もっと根源的な問いでした。

それは……「私たちは、何のために家をつくっているのか」。

創業30周年となる2026年4月7日、同社は約200名が集まるローンチイベントを開催し、新たなミッション「くらしかた未来基準」を掲げて次の10年に踏み出しました。同日には代表取締役社長・䑓堂貴也(だいどう たかや)さんの著書『ありがとうをカタチにする家づくり』も発売。リブランディング、書籍、対談、3つの大きな節目が同じ日に重なった裏側には、1年にわたる組織の問い直しがありました。

その問い直しの1年間、そして4月7日という節目を終えた今、䑓堂社長が見据える景色とは。
Nativ.media編集部が深掘りします。

株式会社サンクスホームとは
三重県津市に本社を置き、三重・愛知エリアで注文住宅やリフォームを展開する地域密着型の工務店です。
設立30周年の節目にリブランディングを実施。新ミッション『くらしかた未来基準』のもと、
確かな技術で「誰もが誇れるくらしの未来」を切り拓いています。

「お客様が求めるサンクスホーム」と、「私たちが思うサンクスホーム」のズレ

—— 今回のリブランディングのきっかけを教えてください。プレスリリースによると、市場調査を実施されたそうですね。

䑓堂: 実は、こうした調査って、これまで会社としてあまりやってきていなかったんです。でも、ここ数年で住宅業界を取り巻く時代の流れが大きく変わってきていて。私たちはサンクスホームの中にいるので「サンクスホームってこういう会社だ」という感覚はあるんですが、地域の方々やお客様がどう見てくれているのかは気になっていました。

—— 実際に調査をされて、見えてきたものはありましたか。

䑓堂: 私たちが思っているサンクスホームと、お客様が求めているサンクスホームに、はっきりとズレが生じていたんです。住宅会社なので当然家を売るわけですが、「私たちはまだ”モノ”を売っているな」という感覚がありました。でも実際のお客様は、家という”モノ”を買いに来ているのではなく、そこに住む人生や暮らし方を求めていた。

————お客様は「暮らし」や「人生」を求めているのに、サンクスホームは依然として「家を売る会社」として認識されている。そのギャップこそが、リブランディングの出発点だったというわけですね。

䑓堂: そうなんです。この認識がズレた状態のまま、私たちがいくら良い商品を作っても、お客様との距離は離れていくだけです。自分にとっても会社にとっても危険ですし、何よりお客様にも社員にも失礼だなと感じました。

表面的な改善ではなく、会社の存在意義そのものを問い直すべきタイミングなんじゃないか——そう考えたときに、たまたま創業30周年という節目が重なっていました。挑戦ではありましたが、覚悟を持って踏み出そうと決めたのが、今回のリブランディングの出発点です。

13人で1年。部署も世代も越えたチームが、言葉を「削って削って」たどり着いた場所

—— リブランディングは、どのくらいの期間をかけて進められたのでしょうか。

䑓堂:約1年前から動き始めました。一般的にリブランディングというと半年ほどで進める会社が多いと聞きますが、私たちはあえて時間をかけたんです。どちらかというと、社外に向けたリブランディング以上に、社内のリブランディングをしたかった。それは短時間でできるものではないと思ったので。

——社内のリブランディング、というのはどういうものですか?

䑓堂: これまで当社では、大きな方針や理念のような話は役員で決めて現場に下ろす、というのが一般的でした。でも私自身、そのやり方にずっと違和感があったんです。どうしても「やらされている」「勝手にやっている」という空気になってしまう。

 今回は、新人からベテランまで13人のスタッフでプロジェクトチームを組みました。営業も設計も経理も、広報メンバーも、役員も全員入っていて。部署も世代もバラバラです。

——部署横断で13人、というのはかなりの規模ですね……!どのように議論を進められたのでしょうか。

䑓堂:毎月オンラインで打ち合わせをしたり、泊まりがけで長野に研修に行ったり。他社を勉強しに行ったり、部署ごとのアンケートを取って温度感を確認したりもしました。

進めていく中で特に印象的だったのは、「今のサンクスホームって車で例えるとどこのブランド? 」というような身近な例えを通して自社を捉え直すディスカッションをしたことです。同じ会社にいても、人によってサンクスホームの捉え方が違う。それを全員で出し合うところから始めました。

—— なるほど……!ひとつの会社の中でも、見え方は人それぞれですもんね。

䑓堂: そうなんです。13人もいると、みんなそれぞれ色を出してくる。「私はこれがいい」「俺はこう思う」という意見が出るので、まとめるのは正直かなり大変でした。ただ、それがプロセスとして絶対に必要だったと思っています。

—— 「くらしかた未来基準」というミッションは、どのように決まっていったのですか。

䑓堂: これは、社外のコンサルチームとも何度も議論を重ねながら、言葉を削って削って、削りまくってたどり着いたものです。本当は伝えたいことがたくさんあるんですよ。でも、それを全部詰め込んだらメッセージはぼやけてしまう。
実は、以前の会社の理念は少し長かったんです。毎朝唱和していたんですが、長すぎてなかなか覚えられない。言わされているだけになっていて、これじゃあ意味がないなと感じていました。

—— シンプルにしたことで、変わったことはありますか。

䑓堂: 自分たちが単に家を売っているわけではない、ということを追求しやすくなりました。「くらしかた未来基準」という言葉には、暮らしの当たり前を私たちサンクスホームがつくっていく、という宣言の意味もあります。

社員一人ひとりが「どういう思いでこの会社で働き、地域に貢献するのか」を考えたときに、浸透しやすい言葉になったんじゃないかと思っています。

映画館を貸し切った「4月7日」。ローンチイベントと、書籍に込めた”ありがとう”

—— 4月7日のローンチイベントは、津市内の映画館を貸し切って開催されたと伺いました。なぜ映画館を会場に選ばれたのでしょうか。

䑓堂: これが例えば地元の公民館や会館だったら、インパクトが弱かったと思うんです。映画館なら画面の大きさも音の迫力も段違いですし、地域の会社がここを貸し切って何かをやる、という時点で特別感がある。実際、参加してくださった約200名の方々からも「何が始まるんだろう……」とワクワクしてくださっているのが伝わってきました。

—— 当日はどんな演出だったのでしょう。

䑓堂: 受付で新しいロゴ入りの袋をお渡しして、入り口の前で、参加者全員と私とで写真を撮るんです。ある方には「某テーマパークのキャラクターみたいになってるよ」って笑われました(笑)。

スクリーンでは、これまでのサンクスホームの歴史をまとめたムービー、そして新しいミッション・ビジョン・バリューを紹介する映像を流しました。最後はエンドロール。結婚式のエンドロールの上位互換のような仕上がりで、正直、自分でも少し涙が出そうになるくらいの完成度でした。

—— 社外の方々からの反応はいかがでしたか。

䑓堂: 後日、業者さんたちと食事に行く機会があったのですが、「めっちゃよかった」「こんなイベントは見たことがない」「自分たちもやってみたい」という声を直接いただけて、嬉しかったですね。普段、私たちが地域の方から直接こうした声をもらえる機会ってあまりないので。

—— 同日には、䑓堂社長のご著書『ありがとうをカタチにする家づくり』も発売されました。タイトルにも込められた「ありがとう」という言葉は、今回のリブランディングと響き合うものがありますね。

䑓堂: 執筆の過程で、あらためて自分たちの本質を見つめ直すことができたんです。私たちは家を売っているのではなく、”ありがとう”が生まれる暮らしを設計している。家が完成したときが終わりではなく、完成してからが始まりだと思っています。

そこから家族の中で、どれだけ”ありがとう”の数が増えていくか。それこそが、その家の価値だと考えているんです。

—— “ありがとう”はお客様に向けられたものだけではない、と。

䑓堂: そうなんです。一軒の家は、営業一人では完成しません。広報の林が集客で「ありがとう」をつくり、営業がそれを受け取って設計に「ありがとう」を渡す。そうした”ありがとう”の連続の上に、一軒の家が建っています。

普段仕事をしていると忘れがちな、この当たり前のことを、あらためて本という形で言語化したことで、会社としての軸がより強くなったと感じています。

—— 当日はもうひとつ、元近畿大学教授で、現在はウムヴェルト建築総合研究所株式会社を主宰されている岩前 篤先生とのスペシャルトークセッションも実施されましたよね。対談のなかではどんなお話があったのでしょうか?

䑓堂: 対談の中で岩前先生から教えていただいたのは、これからの家づくりは「快適さ」だけではなく、「ウェルビーイング」や「フローリッシング」という視点が必要になる、という考え方でした。

—— 「ウェルビーイング」「フローリッシング」というのはどういった意味なのでしょうか?

䑓堂: はい、ちょっと難しい言葉ですよね。「ウェルビーイング」は、人が無理なく満たされている状態のこと。一方、「フローリッシング」は、そこからさらに人生がより良くなっていく状態を指すそうです。

—— なるほど。快適イコール健康ではない、というお話もされていたとか。

䑓堂: そうなんです。例えばエアコンをつければ、室温は整いますよね。でも実際には、足元と頭上では温度差があったり、空気が乾燥していたり……知らないうちに体にストレスが蓄積されている。これを放置すると、家の中での冷え症やヒートショックのような健康リスクにつながっていきます。

逆に、断熱・気密・換気といった性能をきちんと整えると、睡眠の質が上がったり、家の中のストレスが減ったりする。人生の質そのものを底上げしてくれるんです。

—— なるほど……「くらしかた未来基準」という言葉とぴたりと重なる考え方ですね。

䑓堂: まさにそうなんです!岩前先生との対談を通じて、私たちが目指していくべきは、「ウェルビーイング」が土台にあるのは当然として、その先の「フローリッシング」まで踏み込んだ住まいだと確信しました。

「選ばれる」から「なくてはならない」会社へ

—— リブランディング、4月7日のローンチを経て、今、どんな景色が見えていますか。

䑓堂: これまでの住宅業界は、デザイン・性能・価格といった比較しやすい軸で勝負してきました。でも、それだけではもう戦えない時代になってきています。

私たちが目指しているのは、「選ばれる会社」ではなく、「なくてはならない会社」です。お客様の人生にとって必要な存在であり続けるためには、デザインや価格の先にある価値——つまり”どう暮らすか”まで一緒に考えられる会社でなければならない。今回のリブランディングは、その覚悟を内外に示すためのものでもありました。

—— 社員の方々にとっても、大きな節目になりそうですね。

䑓堂: そうですね。新しいミッション・ビジョン・バリューが、今後は新人にもベテランにも共通の言葉になっていきます。自分たちが何のために働いているのかを語れる組織になれば、自然とお客様への向き合い方も変わってくるはずです。

外側だけでなく、内側……人や組織も同時に変えていく。それが今回のリブランディングの本質だと思っています。

—— 後編では、その”内側”の話——個人の能力に依存しない組織づくりについて、詳しく伺わせてください。

䑓堂: はい、よろしくお願いします。

[ BOOK INFORMATION ]

『ありがとうをカタチにする家づくり - 家族の人生に寄り添い続ける工務店』

サンクスホーム代表・䑓堂貴也が、美容師として「人の心に触れる仕事」をしていた頃の経験から、家づくりの現場で育まれた“感謝の循環”の文化、そして多くの家族と向き合う中で見えてきた「後悔しない家のつくり方」を綴った一冊です。ぜひお手に取ってご覧ください。

書籍:ありがとうをカタチにする家づくり - 家族の人生に寄り添い続ける工務店

編集後記

取材を通じて印象に残ったのは、䑓堂社長の言葉の端々に滲む“熱量”でした。次の10年、新しい商品、社員の成長。どの話題に触れるときも、前のめりに、楽しそうに語ってくださる。その熱の高さに、こちらまで引き込まれるような時間でした。

ただ、不思議だったのは、それだけ情熱的に語られるのに、話の中心にいるのは決して社長ご自身ではなかったことです。「13人のメンバーで」「社員のみんなが」「広報が」——主語はいつも”誰か”であり、リブランディングも、イベントの成功も、すべてチームでやり遂げたこととして語られていました。

特に印象的だったのは、未経験の新人が少しずつ変わっていく様子について話されたときの表情です。才能ではなく、環境と仕組みで人は変われる、それを間近で見られることが、この仕事のやりがいだと語る姿には、社員一人ひとりへの確かな信頼が滲んでいました。

また取材後、お忙しい中にも関わらず、わざわざ丁寧なお礼のメッセージをいただきました。お客様に対しても、社員に対しても、そしておそらく取材させていただいた私たちに対しても、同じように真摯に向き合ってくださる方なのだろうと感じます。

後編では、䑓堂社長が語る”個人の能力に依存しない組織づくり”の実践に迫ります。

文責:Nativ.media編集部

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