多貴商運×ZEN大学、連携プログラムの現場で生まれた言葉たちをたどる

地域企業が外の人間と本気でぶつかったら、何が起きるのか。

「失礼な質問もしたかもしれない。でも、普段なら遠慮して聞かないようなことも聞ける場を持ってくださった。それに真摯に答えてくれるからこそ頑張れた。」

これは、2026年3月に三重県鈴鹿市の多貴商運株式会社でプログラムに参加したZEN大学の学生Cさんの言葉です。普段はオンラインで学ぶ大学生4人が物流の現場に飛び込み、向き合った約1ヶ月。その場で交わされた言葉には、教科書にも講義にも出てこない手触りのある生きた課題が詰まっていました。この1ヶ月を、多貴商運からお伝えします。

▽本プロジェクトの詳細はこちらからご覧ください

私たちが、現場をさらけ出すことにした理由

私たち多貴商運は、三重県鈴鹿市で自動車部品輸送を担う物流会社です。
地域に密着し50年以上の歴史を持ちながら、ドローン事業やAI投資、今回のZEN大学との連携といった新しい挑戦を続ける企業でもあります。今回のプログラムでは、ZEN大学の学生4人を受け入れ、注文から配達完了までの業務フローを可視化・分析し、DX提案を行うという約1ヶ月のPBL(Project Based Learning)(*)に取り組みました。

(*)PBL(Project Based Learning)…プロジェクト型学習/課題解決型学といい社会の具体的な課題を題材に、生徒自らが問いを立て、調査・解決策の立案・実行を通じて学ぶ学習方法のこと。

私たちが選んだのは、現場をあえてさらけ出すという姿勢でした。手書きの伝票、属人的な配車判断、デジタルと紙が混在する業務フロー。普段は表に出ないアナログな現場のありのままを、学生たちに見せました。


3月3日の現場視察では、弊社の代表・役員・ドライバーが学生のヒアリングに対して正面から向き合い、業務の課題を包み隠さず共有しました。体験を提供するのではなく、一緒に課題を解決してほしいという姿勢で迎えました。
弊社代表の東出は以前、参画の理由をこう話しています。

「若い世代や異なる立場の方から、『この業務は無駄では?』『こうすれば効率的なのでは?』といった率直な指摘をもらいたいと考えたからです」

日常業務をこなしながら自分たちだけで変革を進めることの難しさを、わたしたちは知っています。だからこそ、業界の常識に染まっていない学生のまっさらな視点に期待し、この場が実現しました。

▽これまでの多貴商運の記事はこちらからご覧ください。

学生4人が本プログラムに参加した理由

ZEN大学は、基本的にはすべてオンラインで学ぶ大学です。授業も、仲間との交流も、基本的にはすべて画面の中で完結します。そんな彼らが、なぜわざわざ三重県鈴鹿市まで足を運んでくれたのか。4人の参加理由を聞くと、“日常の物流体験”が原点にありました。

◇Aさん──業界地図を買って、気づいた
オンラインストアで本を買ったAさん。「いつも注文した翌日に届くので、運送会社さんが大変そうだと思っていた」と振り返ります。届く速さの裏側にある現場への興味が、このプログラムへ参加を促しました。

◇Bさん──見守りカメラが届かなかった日
実家の猫が骨折して隔離することになり、オンラインストアでペット用の見守りカメラを注文したBさん。ところが、違う人の荷物が届いてしまいました。原因は住所の区画が変わって分かりにくくなっていたことだったといいます。「なぜそういうことが起きるのか」という素朴な疑問と物流をテーマにしたある映画を見たことが、物流の構造への興味につながりました。

◇Cさん──“まちまち”の理由を知りたかった
オンラインストアで椅子を注文したCさん。購入後に在庫無しの連絡が届き、海外からの発送で2〜3週間かかることに。「発送期間が2〜3日まちまちなのはなぜだろう」とずっと気になっていたといいます。「これを機に構造的なことを知りたい」という知的好奇心が参加の動機でした。

◇Dさん──配送が遅い、それを感じたことがないからこそ
オンラインストアで期間限定のお菓子を買ったことはあるものの、「通販を普段あまり使わないので、届かない・遅いを感じたことはない」と正直に語りました。だからこそ、物流の現場を見てみたいと今回の参加動機になりました。

私たちの生活と切っても切り離せない「物流」。
参加した学生たちのきっかけはそれぞれでしたが、共通していたのは日常の延長として存在する物流の裏側を覗き、社会を支える仕組みを肌で感じたいという気持ちでした。わたしたちにとっても、そんな目線を持つ学生たちと向き合えたことは、大きな刺激になりました。

最終発表を終えて──東出社長から学生へ

3月17日の最終発表を終えた後、役員や社員たちはそれぞれの立場から、学生たちの提案をどう受け止めたか意見を交わしました。最後には代表の東出より、学生全員に対して今回の取り組みを振り返る講評が述べられました。

 

「非常に勉強になり、我々にとっても大きな刺激になりました。本当にありがとうございました」

代表の東出は、まず深い感謝の言葉から講評をスタートさせました。チーム①の『自動配車』の提案に対しては、現在電話でのやり取りが中心となっているアナログな現状に寄り添い、改善に向けたアプローチをしてくれた点を高く評価しました。「通話内容のデータ化や自動記録については、これまであまり考えが及んでいませんでした。そういった仕組みも取り入れていければ、トータルとして非常に良くなると感じました」と語りました。

一方、チーム②の『OCR・データ可視化』の提案については、「手書きの良さを残しながらDXを進めるという視点は大事だと感じるし素晴らしい」と絶賛。「既存の良い部分を残しつつ見える化することは、社内のPRにもつながります。どの方面にどんな車が走っているかが可視化されれば、運転手を含めてみんなが興味を持てるはずです」とコメントしました。さらに、DX推進において課題となる現場との温度差にも率直に触れました。

「『自分たち運転手には関係ない』と感じてしまう部分がある中で、しっかりと情報を共有し、全員が同じ方向を向いていくことが何より大切です。今回の提案は、そうした意味でも非常に的を射たアイデアでした」

両チームの発表を振り返り、代表の東出は「多貴商運がまさに『配車業務の改善に走り出した』という現状を踏まえ、そこにどうDXを組み込むべきかを真剣に考えてくれた」と語ります。特にチーム①の自動配車提案は、「まさにわたしたちが目指すべきところであり、やりたいと思っていた構想と重なる」とはなし、最後には今後も続く活動への期待も見せました。

「社内にはAIやITに対するリテラシーの差がまだまだあります。そこに学生の皆さんが架け橋として入り、ワンクッション置いて推進してくれたら、全社のレベル底上げに繋がるはずです」

▽各チームの詳しい発表内容については以下記事よりご覧ください。

4人の学生が、現場で受け取ったもの

発表を終えた学生たちは、それぞれが異なる受け取り方をしていました。同じ経験をしても、何が刺さるかは人によって違う。それもまた、この1ヶ月が濃かった証拠です。

◇Aさん──現場の重みを初めて感じた

「これまで準備してきて発表するまで大変だった。現場を初めて見て、働くことの重みを感じた。」

オンラインストアで本を買い、配送のあまりの迅速さに驚き「運送会社は大変そう….」と想像していたAさんが、実際の現場で目にしたのはその想像をはるかに超えるリアルでした。トラックが動き、人が動き、物が動く現場の重みを受け止めながら、同じチームとして1か月を共にしたDさんと夜2〜3時間の打ち合わせを重ねてきた。本番後にこぼした「発表のプレゼンの質をもっと上げたかった」という悔しさは、それだけ本気でぶつかった証拠です。わたしたちもその熱量を、しっかり受け取りました。

◇Bさん──「聞いてもらえた」ことが原動力になった

「すごく失礼な質問もしたかもしれない。普段なら遠慮して聞かないようなことも聞ける場を持ってくださった。それに真摯に答えてくれるからこそ頑張れた。」

「違う人の荷物が届いた」という体験から物流への疑問を持ったBさんにとって、多貴商運の社員たちが「なぜそうなるのか」を包み隠さず教えてくれた体験は、何より大きな贈り物でした。3月3日のヒアリングの最後、多貴商運の社員の方と話す中で必死に出したアイデアへの反応が思いの外よく、その手応えが大きな自信になったといいます。「普段思っているけどやってないことに手を動かしてみた」という言葉には、この場があったことに背中を押されたということが良くわかります。

◇Cさん──「予想外」の連続から学んだ

「その場でもらった情報をつないで線にして、面にして、立体にしていくことが難しかった。計画通りや予想通りにいかない。そういうもんだとは思っていたけど、思った以上だった。」

「発送期間がまちまちなのはなぜか」という構造的な疑問を持って参加したCさんが、実際に現場に入って感じたのは情報を構造化することの難しさでした。仲間の質問をまとめながら全体像を掴もうと必死になった日々。その中でDXの提案のために自分もAIを実際に使ってみることにトライしAIの使い方は自分が知っているもの以外にも様々存在するんだ、という発見も得ました。もし事前知識があるプログラムだったら学びはどう変わるのか、という問いも生まれたようです。

◇Dさん──「働くこと」の複雑さに向き合えた

「会社で働くのはすごく大変。役割分担をされていても考えることややることが多い。プレゼンでは、自分たちが伝えたいことをいかに伝えられるかをもっと意識できるとよかった。」

オンラインショッピングをほぼしないまっさらな視点で現場に入ったDさんにとって、最も印象的だったのは会社で働くことの複雑さでした。役割分担があっても考えることややることがこんなに多いのかという気づき。プログラム期間中、ひとつのことに集中して取り組む経験もDさんには新鮮でした。準備段階では確認不足でつまずくこともあり細かいことを丁寧にやっていかないと影響が出る、という学びも得ました。準備中にAさんがアイディアを出してくれた場面もありましたが、「プレゼンでは自分たちが伝えたいことをいかに伝えるか、もっと意識できるとよかった」という言葉には、次への具体的な課題意識が滲んでいます。

この1ヶ月が、すでに次を生んでいる

遠方より三重県鈴鹿市に2回足を運んでくれた学生たち。
学校の授業でも、アルバイトでも、観光でもない形の地域との関わりが生まれたという確信があります。そしてその関係は今、さらに具体的な形へと動き始めています。学生と私たち、双方の意思が重なり、課題解決までを目指す継続プロジェクトが立ち上がりました。現在、スケジュール調整が進んでいます。

1ヶ月のプログラムが、本格的な現場実用化に向けたプロジェクトへ。
外からの目がいかに重要かを実感した私たちと、続きをやりたいと志願する積極性の高い学生たち。
気になる続きも、発信していければと思います。