前編では、株式会社サンクスホームが創業30周年の節目に行った大規模なリブランディングと、
代表取締役社長・䑓堂貴也(だいどう たかや)さんが掲げる「くらしかた未来基準」というビジョンについて伺いました。
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しかし、新しいビジョンを掲げるだけでは、会社は変わりません。
それを体現する”人”と”組織”があってはじめて、言葉は現実になります。
後編では、䑓堂社長がこの10年をかけて取り組んできた「個人の能力に依存しない仕組みづくり」について深掘りします。未経験からでも活躍できる組織とは、どのようにつくられていくのか。Nativ.media編集部がお話を伺いました。
「自分が売れたから、みんなも…」トップセールスだった社長が抱えた違和感
—— 䑓堂社長は、サンクスホームにご入社された当初、営業としてトップセールスを記録されていたと伺いました。
䑓堂: そうですね、おかげさまで家はたくさん売れました。
ただ、今振り返るとそのときの感覚がのちの自分にとって大きな反省につながっていくんです。
—— 反省、というのは。
䑓堂: 当時の私は、自分が特別優れた営業だとは思っていなかったんです。飛び抜けた存在だとも思っていなかった。当たり前のことをしていたら、たまたま結果がついてきた、という感覚でした。
だから「誰でも同じようにやれば売れるだろう」と思っていたんですね。ところが実際に新人や中途の社員が入ってきて、同じように教えても、なかなか成果が出ない。
—— 「自分のやり方」と同じやり方では、結果には繋がらなかったんですね。
䑓堂: そうなんです。「自分のやり方」というのは、実は属人的だったんですよ。私という個人の中に積み上がった経験や感覚があって、それが結果を出していた。でも、それは仕組みとして他の人に渡せるものではなかったんです。
—— それに気づかれたのは、どんなタイミングだったのでしょうか。
䑓堂: 営業として24棟売ったときに、ふと「来年もこれを続けるのか、去年もこうだった、再来年もか」と、自分の中でしんどさが出てきたんですよね。それと同時に、新しく入ってくる社員から「䑓堂さんだからできるんですよ」と言われることも増えてきて。そんな中で成果が出ない社員はだんだん面白くなくなって、よその芝が青く見えて、転職していってしまうんです。
でも、冷静に考えるとそれってもったいないなと思って。努力せずに環境を変えるだけじゃなくて、みんなが平均的に成果を出せる仕組みをつくるほうが、よっぽど意味があるんじゃないかと。
—— 持続的に属人的な営業システムでやっていくのは無理だ、と感じられた瞬間だったんですね。そこから仕組みづくりへと意識が向かっていったんですね。
䑓堂: はい。会社は、個人の能力に依存してはいけない、この考えに至ったのは、他でもなく自分自身への反省からだったんです。
仕組みによって人が動き、誰がやっても一定の成果が出る。その土台の上に、初めて一人ひとりの個性が活きる。これがこれからの組織で一番重要だろうと思って、十数年前から取り組みを始めました。
「家を売るな」営業と設計が同席する、サンクスホーム流の商談
—— 「個人の能力に依存しない仕組み」を具体的にどう形にしていったのか、教えてください。
䑓堂:まず、営業メンバーには「家を売るな」と言っています。
—— 住宅会社の社長が「家を売るな」ですか。
䑓堂: 一見矛盾して聞こえますよね。でも、家を売ろうとしたら終わりだと思っているんです。あくまでもお客様の幸せのために、徹底的にヒアリングすることが先。「うちは安いですよ、性能いいですよ、デザインかっこいいでしょ、だから決めてください」そういう売り方は絶対にするなと伝えています。
良い家づくりができれば、最終的には必ず選んでいただける。その感覚は、自分が営業をやってきた中でも確かなものとしてありますから。
—— 具体的には、どんな仕組みで商談されているのでしょうか。
䑓堂: 当社では、営業するときに設計も同席するんです。営業の視点でのヒアリングと、設計が図面を描く上で聞いておかなければならないこと。両方を同時に拾えるようにしています。
—— 最初から設計が入ることで、お客様からの見え方も変わりそうですね。
䑓堂: お客様って、家を買うときに当然「こうしたい」という夢をお持ちです。それはもちろん大切にします。ただ、過去に似た選択をして後悔されたお客様の声も、私たちは知っている。だから、ただ「いいですね、そうしましょう」と鵜吞みにして受けるのではなく、「その案もいいと思うんですが、ここの動線だと扉が開きにくいかもしれませんよ」と、暮らしを見据えてプラスアルファをお伝えできるかが大事なんです。
—— 伝え方によってはお客様から「希望が通らない」と受け取られてしまいそうですが……
䑓堂: そこが営業のスキルなんですよね。言い方次第で「サンクスホームは全然話を聞いてくれない」となるのか、「私の意見を聞いた上でアドバイスしてくれた」となるのか、評価が真逆に分かれる。
私たちはお客様に対して立場が上でも下でもなく、あくまでも対等な立場で家づくりを一緒に考える仲間だと思っています。だからこそ、住んだ後に「あのとき、ああすればよかった」と後悔されるのが、一番怖い。
—— お客様の夢を受け止めつつ、プロとして正直に伝える。そのバランスを取るための仕組みが、営業と設計の同席なんですね。
䑓堂: そうですね。それから、営業研修も年に2〜3回は必ず実施しています。外部の講師をお招きしたり、リーダー研修を行ったり、対象メンバーも絞りながら。
言い方はあれですが、ある意味”洗脳”に近いくらいの徹底度で行います。やっぱり、私ができるからといって、新人がそのままできるわけではない。新人にも、リブランディングの意味やミッション・ビジョンを自分の言葉で語れるようになってほしいんです。語れるようになって初めて、自然と動けるようになりますから。
仕組みだけでは届かない領域へ。社員一人ひとりとの対話
——仕組みで全体の底上げを図る一方で、社長ご自身が社員一人ひとりと直接コミュニケーションを取られているとも伺いました。仕組みと個別の対話、両輪で進めていらっしゃるんですね。
䑓堂: はい、この1年ほど、社員との「ザツダン」の場を月に一度、設けているんです。
—— 雑談、ですか。
䑓堂: はい、「ザツダン」です。始めたきっかけは、実は妻からの一言だったんです。「あなたは近い感じで社員と接しているつもりかもしれないけど、社員からしたらやっぱり社長だよ」と言われて。
たしかにその通りだなと思って。私から見える景色と、社員から見える景色は違う。勝手に「社員のことを分かっている」と思い込んでいた自分がいたことに気づかされたんです。
—— そこから「ザツダン」という仕組みが生まれたんですね。どんな場にされているのでしょうか。
䑓堂: 本当になんでも話していい場です。仕事の話に限らず、プライベートでも、恋愛でも、趣味でも(笑)人によって話す内容はまったく違います。
ポイントは、私からお願いするのではなく、社員からの申し込み制にしていること。LINEグループをつくって、そこに入れて、月末には、その月にザツダンをした社員とご飯に行くんです。
—— 挙手制にされている理由は何ですか。
䑓堂: やっぱり、一歩踏み出すかどうかは本人次第だからです。1回やった社員は、2回3回と来てくれるんですよ。でも、1回も来れていない社員はなかなか1に行けない。そこの壁を越えてくるかどうか、というのは本人の意志に委ねたいなと思っていて。 やってみた社員が他の社員に「よかったよ」と伝えてくれて、少しずつ広がっていった部分もあります。
—— 社員からすると「自分の上司を介さず社長と話していいのだろうか」という戸惑いもありそうですね。
䑓堂: そこは私も意識しました。社員それぞれに、属する上司がいるわけです。上司を飛ばして社長と話すことで、関係が悪くなってしまうのは社員からしたら避けたいですよね。でも、このザツダンの場があることで、「フランクに何でも言い合える」という共通認識ができる。気になった上司が「昨日、社長と何を話したの?」と聞きに行ける状態であれば、告げ口のような構図にもならない。
——なるほど。実際にザツダンをされてみて、見えてきたことはありますか。
䑓堂: 想像以上に、家族にも言えていないようなことが出てくるんですよ。仕事のことで止まっていることや、プライベートで抱えていること。それを聞けると、私自身が応援しやすくなるんです。
それから、ザツダンをした社員の上司とも話すと、両者の認識をうまくチューニングできることもあって。お互いが同じ目標を見ていても、途中で少しずつずれている部分があったりするので、そこを合わせ直せる場にもなっています。
—— ただ、これだけの時間を取るのは、社長にとって決して軽い負担ではないと思います。
䑓堂: 正直、理想を言えば、私がここまで社員一人ひとりに踏み込まなくても回る状態が一番いいんです。各マネージャーに任せるべきだ、という考え方もあると思います。
ただ、私たちはまだ完璧な組織ではないし、各上司も完璧な上司ではない。そこを拾えるのが今の段階では私しかいないなと思っていて。1年続けてきて、これをやる意味は確実に感じています。
社員が“一歩前”に出る瞬間に、社長が見出す経営のやりがい
—— 仕組み化を進める中で、実際に未経験から入社された社員が、目に見えて変わっていく瞬間はありましたか。
䑓堂: めちゃくちゃありますね!新人のほとんどは、社会人として人と話したこともなかったような子たちです。そんな若い社員が、人生で一番高い買い物である「家」をお客様に提案するんですから、しんどくないわけがない。
お客様から見れば、入社1年目の社員も”プロ”ですからね。そこに萎縮してしまって、遠慮してしまう子も多いんです。
—— 未経験の新人にとって、家づくりの現場は、相当なプレッシャーですよね……。
䑓堂: そうなんです。でも、例えばお客様にコーヒーを出すとか、挨拶をするとか、小さなことでも「ありがとう」と一言もらえると、人って一気にテンションが上がりますよね。「もう一度、あの感覚を味わいたい」と思って、自分から前に出られるようになるんです。
最初は引っ込み思案で、うまくコミュニケーションが取れなかった子が、失敗もしながら少しずつ前に出て、ふと見せた表情がニコッと柔らかくなっている。「あ、この子、変われるな」と思う瞬間が、経営をしていて一番のやりがいです。
—— 新人や若手が活躍できる組織であるために、意識されていることはありますか。
䑓堂: 若手だからといって、3年は我慢してほしいなんて時代じゃないと思っているんです。少しでも合わないと感じたら、すぐに転職するのが当たり前の時代ですから。だから、新人がなるべく早い段階で「ありがとう」を受け取れる環境をつくることを、強く意識しています。
—— 才能ではなく、環境と仕組みで人は変われる、とお考えなんですね。
䑓堂: そう信じています。もちろん、本人の努力が前提にはなりますが、環境と仕組みが整っていれば、才能の差に関係なく成長できる。それを間近で見られるのが、この仕事の醍醐味だと思っているんです。
家づくりというのは、お客様にとって人生に何度もない大きな買い物。だからこそ、契約や完成のお引き渡しの瞬間に、ありがとうと言って涙を流していただけることがある、唯一に近い商品だと思っています。
—— 注文住宅はゼロから作り上げていく分、物語がありますもんね。
䑓堂: そうなんです。その感動を、一日でも早く社員に味わってほしい。そのために仕組みを整えて、受注が取れるスピードを上げて、お客様からの感謝の声を聞ける機会を増やしていく。
社員が「ありがとう」を受け取る瞬間を増やすこと、それが結果的に、サンクスホームという会社の価値を形づくっていくんだと思っています。
—— 個人の能力に依存しない組織をつくることは、社員一人ひとりが”ありがとう”に出会える環境をつくることでもある、と。
䑓堂: そうですね。私自身が営業の現場で味わってきたあの喜びを、できるだけ多くの社員に、できるだけ早く届けたい。その思いが、今の組織づくりの根っこにあるんだと思います。
—— 本日は貴重なお話をありがとうございました。
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『ありがとうをカタチにする家づくり - 家族の人生に寄り添い続ける工務店』
サンクスホーム代表・䑓堂貴也が、美容師として「人の心に触れる仕事」をしていた頃の経験から、家づくりの現場で育まれた“感謝の循環”の文化、そして多くの家族と向き合う中で見えてきた「後悔しない家のつくり方」を綴った一冊です。ぜひお手に取ってご覧ください。

編集後記
取材を通じて、改めて印象に残ったのは、䑓堂社長の地に足のついた実行力でした。
社員一人ひとりと、月に一度、ザツダンの時間を持つ。文字にしてしまえば、とてもシンプルな取り組みに見えるかもしれません。でも、これだけ多忙な経営者の方が、1年以上にわたって続けてこられている。その事実の重さは、想像以上のものでした。本来は各マネージャーに任せてもいいはずの領域を、今の段階では自分が拾うべきだ、自ら手を動かし続けていらっしゃる。この地道な継続力こそが、サンクスホームの地盤をつくっているのだろうと感じました。
もうひとつ、強く心に残ったのが、新人や若手社員への眼差しです。
未経験で入社した社員さんが、小さなありがとうを受け取るうちに、少しずつ表情が変わっていく。その瞬間を、経営をしていて一番のやりがいなんですと語られる姿に、社員の成長を本気で喜ばれている気持ちが滲んでいました。社歴や年齢に関係なく、やる気のある人にチャンスが巡ってくる。そんな環境って、もしかしたら都市部の大企業よりも、風通しのいい地域企業のほうが、実現しやすいのかもしれません。
サンクスホームが掲げる「個人の能力に依存しない組織をつくる」というフレーズ。文字だけ追うと、どこか無機質で冷たい印象を受けるかもしれません。でも、実際にお話を伺って分かったのは、その実態がむしろ真逆だということでした。仕組みの力で個人の可能性を引き出して、一人ひとりが主役になれる場所をつくる。そんな、ものすごく人間味のある取り組みです。
取材中、䑓堂社長の言葉の端々には、社員一人ひとりを本気で信じて、幸せになってほしいと願う気持ちが、ずっと滲んでいました。お客様に対しても、私のような取材者に対しても、向き合う姿勢が一切変わらない。取材後、お忙しい中にも関わらず、わざわざ丁寧なお礼の言葉までいただいて。その人間的な温かさこそが、何よりも雄弁に、サンクスホームという会社の土台を物語っているように感じました。
熱意と、信頼と、人としての温かさ。そのすべてを兼ね備えたトップが率いるサンクスホーム。私は自信を持って太鼓判を押したいです。三重で、これから新しいキャリアを歩んでみたいと考えている方には、ぜひ一度、扉を叩いてみてほしい。そう心から思える取材でした。
文責:Nativ.media編集部





