徳島県唯一の村・佐那河内村。県都に隣接していながら、農山村の文化と風景が残るのどかな村には、今も「講中」「常会」「名中」といった田舎暮らしには欠かせない助け合いのコミュニティが息づいています。この村で暮らすということは、そうしたコミュニティの一員となること。一見、不自由そうに思えますが、これがミスマッチを防ぎ、新生活をスムーズに始める秘訣。移住コーディネーターの西川高士さんに空き家活用の取り組みと共にお話を伺いました。


▲移住コーディネーターの西川さん。『フルムーンダイニング』などの食事会なども開催し、地域の人達と移住者が交流できるイベントも開催しています。

佐那河内村に
住むためのルール

他地域の町内会や自治会の場合、加入は任意ですが、佐那河内村は基本、地区の常会に所属し、地域の役割を担うことが求められています。移住希望者の相談に応じ、住まいとなる空き家のマッチングを行う移住コーディネーターの西川高士さんは、「こうした昔ながらの集まりを、都会の人は煩わしく感じるかもしれませんが、佐那河内村ではこれが普通。移住相談があった場合、早い段階で常会などの説明をして、理解いただける人に家を案内するようにしています」と話します。
最近では徳島市内からの移住も増えているそうですが、移住希望者と入居する地域との「お見合い」のような機会を設け、顔合わせを行っています。顔合わせが出来ない場合も「こんな人が来ますよ」といった事前リリースは欠かせません。「空き家があるから、そこへ住む」というより、人と人とのつながりを第一に考え、スムーズに地域へ入っていけるよう、サポートしています。

耐震診断を義務化
建築士との連携は効果大

「村が空き家を斡旋するからには、安心・安全な家に住んでもらいたい」という思いから、佐那河内村では空き家改修の際に耐震診断を義務づけています。空き家改修に関する補助金を利用する場合、耐震診断は必須。耐震診断を行うのは、徳島県建築士会に所属する佐那河内村在住の建築士で、耐震診断時に家の状態を隅々まで確認し、その情報を元に改修の図面を作る流れになっています。

 

▲耐震診断などを行う一級建築士の島津臣志さん。自身も2015年に佐那河内村に移り住み、呉服屋さんだった商家を建築事務所にリノベーションした。

「耐震診断は内野さん、島津さんという2人の建築士さんに交互にお願いしています。改修に関する見積もりも出してもらえるので、売買でも賃貸でも改修の試算がしやすく、どこに何を頼めばいいのか、わからない人にとっても安心です。耐震診断の書類を県へ提出して戻ってくるまでに2ヵ月くらいかかるので、その間、改修図面の作成を並行して行い、時間をムダにせず、スピード感をもって進めてもらえるので、とても助かっています」。
徳島県で耐震診断を行う場合の金額は4万円。平成12年5月以前の木造住宅の場合は「住まいの耐震化」補助制度が利用できるので、自己負担は3000円で済みます(※自治体によっては無料のところもあり)。耐震診断で問題になったところは必ず改修に反映し、あとは予算の範囲内で改修を行います。
「今のところ大がかりな耐震改修が必要になった物件は1軒です。田舎の古民家って、だいたい土壁。窓も多く、耐震の数値が低いので、窓部分を壁にするんですが、そのときガチガチの壁にすると、そこを支点に倒壊する危険性が生まれます。古民家は全体のねばりでゆるく保たれているので、昔ながらの土壁のよさを残した粗壁パネルを使って改修しました。これなら地震で揺れて歪むことはあっても、倒壊は免れます。粗壁パネルの他に筋交いを入れたり、耐震シェルターを設置して、目標数値をクリアしました」。

ローコストで改修する
プロのノウハウがスゴい!

空き家1軒の改修費用は300万円くらいから。安さの秘訣を伺うと「あるもの上手に活かす建築士さんのノウハウがスゴい!」と西川さん。「『ここはまだ使えるよ』とか、『この雰囲気はいいから残しておこう』といったアドバイスで必要最低限の改修費用はグッと抑え、その分、キッチンや水回りなど価格の振り幅が大きいものは好みや予算に応じて設置できるので、満足度の高い改修ができていると思います。周囲の景観にも配慮して、『ここだけ直せば住めるようになるから、それでどうですか?』とか、『この壁は抜いても構造上、問題ないよ』と機能的に使いやすくなる提案もしてくれるので、コスト面だけでなく、建築士さんが入るメリットは大きいと思います」。
改修費用を抑える手段として、セルフビルドを希望する人もいますが、あまりおすすめしないという西川さん。「セルフビルドをしたい人は大工さんの監修のもと、自分の出来るところだけやる程度にしておいた方がいいと思います。現状復旧を求めない賃貸の場合も、後々所有者に返すことや次の所有者にわたることを考えると、改修するならきちんとして、長く使える方がいいと思いますよ」。

▲これから改修を行う古民家。地域おこし協力隊の人の住まいになる予定で、生活用品や家財道具を処分する際、再利用できそうなものは譲り受けた。建築士の方達のアイデアでどう生まれ変わるか、改修に関わる人達も毎回楽しみにしているそう。

空き家の確保は
地域との連携で

人口減少対策として村に移住者を増やすためにも、住居となる空き家の確保が課題です。これまでも固定資産税の納税通知書に空き家提供を呼びかける案内を同封するなど、地道な取り組みを行ってきました。これには一定の効果はあったそうですが、現在は広く募るというよりも、ある程度目星をつけて、その家を貸してもらえるよう、地域の人達と一緒に進めていくやり方が定着してきているといいます。
「親戚の人から空き家の所有者に聞いてもらうこともありますし、『仲がいいから、私が聞いてあげようか?』と声をかけてくださる人も増えてきました。役場内に空き家や移住の窓口ができたことで、少しずつ認知され、広まってきたように思います。『将来的に空き家になるので、今のうちから準備していきたい。どうしたらいいですか?』といった相談も寄せられるようになってきました。
それで、最近増えているのが余所に嫁いで、急に相続権が回ってきたような方からの問い合わせ。すでに自分の家を構え、子供達もその家には住む気がない。『不動産を村で引き取ってもらえないか』という申し出もありますが、村では引き取れないので、『物件を探している人を紹介します』といったカタチで話をすすめています」。
そうした中で今、一番の悩みの種は農地の問題。先日も空き家を売りたいという相談があり、不動産情報を確認してみると他人の農地の上に家が建っていることが判明。家を手放すことになって初めて依頼主はその事実を知ったのだそう。「家と畑をまとめて手放したいという人もいるんですが、現状、農地は動かない。司法書士さんに見積もりをとってもらって、宅地転用ができるようであれば、転用した後に売買する方法もありますが、ハードルが高いですね。以前視察に行った丹波市は下限面積*を1 a (100㎡ )まで下げていました。調べると1㎡から農地が売買できるところもあるようなので、農業委員の担当者と話を詰めて、下限面積を下げることができないか検討しています。
ただ農地の話は県全体で考えた方がいい問題かもしれませんね。1 aくらいまで下がれば、農地も動きやすくなるので、時代に合わせて変えていくことも必要なんじゃないかと、僕は思います」。

*農地法により、農地を購入できるのは基本的に農家、または農業従事者に限られている。農地の売買や贈与、貸借を許可する際の下限面積(最小限の広さ)は各市町村の農業委員会が決めていて、徳島県では2017年に神山町が10aまで引き下げた。

お試し移住施設 幸家(さちや)

佐那河内村に興味を持ったら、実際に暮らしてみて、村の日常が自身に適したものかどうか、泊まって体験できる施設。
名東郡佐那河内村上字幸田
利用料金 1泊1,500円(水道光熱費込み)
利用期間 1日~180日(6ヵ月相当)
問合せ TEL  088-636-4030