2017年の秋。ぼくの乗っている飛行機は、シャルル・ド・ゴール空港に降り立った。まだ夜が明ける前だった。

パリへ行くことを決めたのは1ヶ月前、大分の屋根裏というバーで。ぼくと、女の子と、カモシカ書店の岩尾さんと3人で並んでカウンターに座っていた。岩尾さんはぼくに投げかける。「きみにはいま、なにがある?」ひどく頭を抱えてしまった。お金もない、地位もない、名誉もない。だとしたら、いま、隣りに座っている女の子と一緒にパリへ行く決断しか残っていない。女の子は自らの夢に近づくため、パリへ行くと決めていた。ぼくとその女の子は、一緒に長い時間を共有していたから、しばらく2人が会えないことがどういうことか、ぼくはわかっていた。

女の子がパリの郊外に借りる部屋に一緒に居れば宿代は浮く。そうすれば、2週間くらいはパリに居られるだろうと考えていた。ところが!大家さんが「男の子と女の子はダメ」と。なんてこった。ぼくはなんとか寝る場所を確保しなければいけないと思い、調べていたら、カウチサーフィンというサイトがあることを知った。ざっくり言うと、田舎に泊まろうみたいなことである。民泊やAirbnbとは違うので、料金は発生しない。ただ、事前のやりとりはとても慎重だ。知らない人の家にいきなり泊まりに行くわけである。おもしろいサービスがあるもんだなあと思われた方もいるだろう、だけど、実際に利用するには注意が必要だ。公的な身分証や連絡先をサイトに登録しているか、これまでにサービスを利用して、家に泊めた経験や、泊まりに行った経験があるかなど。泊める方も、泊まる方も、お互いにそういった情報を加味して決めるわけである。

ぼくはパリで3軒泊まった。1軒目はパリ北駅近くの歳が近い弁護士の家。朝、カフェボウルで紅茶を飲んでパリを実感した。2軒目はアーユルヴェダの教室をやっているヌーディストの家。正直、すごくドキドキした。それは杞憂に終わり、ベジタリアンの食事を体験したり、フランスのボードゲームで遊んだり、楽しい時間を過ごした。3軒目はマレに住むカップルの家。ここは、女の子と一緒に泊まった。ラビオリというフランスの家庭料理を一緒につくって食べたり、レストランへも連れて行ってもらった。それで、大家さんの機嫌が急に変わったとかで、最後は何泊か、女の子の借りている部屋に泊まった。

そーいうわけで、ぼくは2週間のパリ滞在を満喫することができた。ほぼ毎日、パンと水でやり過ごしていたけど。

話かわって。それから2年。ふと、パリへ滞在している間に書いていた日記を読み返していた。そうだ、もうすぐラグビーワールドカップが開催されるじゃないか。ぼくはパリでの恩返しをしたいと思って、カウチサーフィンで宿を探していたイギリス人を家に泊めた。一緒にご飯を食べ、ファンゾーンでビールをたらふく飲み、ラグビーの試合を観ながらいろいろな話をした。屈強なイギリス人に囲まれ、ぼくはなぜか一緒にスクラムを組み、簡単なゲームもした。(ぼくのことを知っている人は、ここでびっくりして笑うだろう。そういうキャラじゃないから笑)

何かに触れたり関わったりすると、自然と愛着が生まれてくるものだ。もともとぼくはフランスの映画や音楽が好きだった。だから、女の子と出会ったのだろうし、パリへ一緒に行ったのだと思う。ぼくはラグビーをプレーしたことがないけど、たまたま、ラグビーをしている友だちが何人かいた。それで、大分での試合開催。カウチサーフィンの恩返し。また新たな出会いが生まれて、ラグビーやイギリスという国により興味を持ったし、もっと英語を勉強しなければとも感じた。

みなさんはラグビーワールドカップでどんな体験をされましたか。新聞で「街からビールが消える!」という見出しがあったけど、飲み屋は閑古鳥が鳴いていたという話もちらほらと聞く。2020年東京オリンピック開催を射止めたのは間違いなく、2013年の新語・流行語大賞にも選ばれた、滝川クリステルの「お・も・て・な・し」だったと思うが、どうだろうか。おもてなし。もてなす。漢字では「持て成す」と表す。ぼくが学生時代に買った国語辞典には「心をこめて客に応対する。」と意味が書かれている。別の辞典をひくと「うまくとりなす。」「そうであるかのようにみせかける。」といった意味もあるようだ。ラグビーをきっかけに大分へ訪れた人たちと、次はなんでもない日に、また大分で会えることをぼくは願っている。

 

Yusaku Tomitaka(ぼくらが街に出る理由

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