地方創生の重要なキーワードとなった「関係人口」。一般的に「観光以上、定住未満」で地域と関わっている人たちを指す総称として用いられており、近年では、各地方自治体が関係人口の創出に力を入れた政策をおこなおうとしています。
そんな中、国土交通省が不明瞭であった関係人口の実態を明らかにしようと初めての調査をおこないました。
国土交通省が実施したはじめての「関係人口」の実態調査。定義や調査のポイント
今回実施されたのは、三大都市圏の関係人口に係る実態調査です。約3万人に対してアンケート調査が行われ、調査対象地域の18歳以上の人口(約4,678万人)に基づき、拡大推計して結果が導かれたものになっています。
関係人口を4つに大分類
まず、用語の定義を確認しておきます。今回用いられた「関係人口」についての定義は下記になります。
関係人口(訪問系):
日常生活圏、通勤圏、業務上の支社・営業所訪問等以外に定期的・継続的に関わりある地域があり、かつ、訪問している人(地縁・血縁先の訪問(帰省を含む)を主な目的としている人を除く)
今回の調査では(訪問系)と補足があるように、ふるさと納税で関係している層などは除外されており、特定の地域と、定期的・継続的に関わり、実際に訪問する人を対象に「関係人口」と定義しています。
関係人口についても、地域における過ごし方に応じて細分化されており、下記のようにまとめられています。
直接寄与型:産業の創出、地域づくりプロジェクトの企画・運営、協力、地域づくり・ボランティア活動への参加等
就労型:地域においてテレワーク及び副業の実施、地元企業等における労働、農林水産業への従事
参加・交流型:地域の人との交流やイベント、体験プログラム等に参加
趣味・消費型:地縁・血縁先以外で、地域での飲食や趣味活動等を実施(他の活動をしていない)
この分類にならうと、地域づくりにおいて重要になるのは直接寄与型の関係人口であるといえます。
三大都市圏の居住者の約2割強にあたる約1,080万人が関係人口
今回の調査結果で押さえておきたいのは、三大都市圏の18歳以上の居住者(約4,678万人)のうち、約2割強(約1,080万人)が関係人口として、居住や通勤圏外の特定の地域を訪問しているということです。
またそれぞれの関係人口分類の割合をみてみると多いものから順番に、
趣味・消費型:約489万人>参加・交流型:約272万人>就労型:約181万人>直接寄与型:約141万人
となっています。関係人口を成しているのは単一な層ではなく、多様性をもって機能していることと、実際に地域づくりに関与する層は、関係人口の中でも一部であることがわかります。
地域活性化の鍵を握る「直接寄与型」の関係人口。移住や就労とは分けて考えなければならない理由
今までの関係人口をめぐる議論では、関係人口化は、移住までのステップのひとつと考えられることが示されていました。地域への訪問から地域での活動を行うようになり、二拠点を経て定住するというモデルです。関わりの階段を上がることで、移住につなげようということで、現在も行われる取り組みが多数あるでしょう。
実際に今回の調査でも、「関係先を移住先としてどのように考えているか」を尋ねる項目では、「移住したい地域である」または「どちらかといえば移住したい地域である」と回答した人は、全体の約5割となっています。分類ごとでみてみると、直接寄与型は移住先として捉えている傾向が若干強いという結果が出ています。
この結果をうけて、直接寄与型は移住を目的に活動をしていると考える前に、考えておきたいポイントがあります。
地域との直接的な関係性を求めている直接寄与型の関係人口は、地域との関係性を深化させる傾向がみられることも指摘されており、その深化の方向性についても調査が行われています。
その結果、「地域の人とのコミュニケーションを深めたい」、「より多くの人とのつながりを持ちたい」という希望が多いことがわかりました。一方で、「概ね5年以内の移住や就労を考えたい」と「概ね5年後以降の同内容」はそれぞれ8%程度と5%程度となっており、移住や就労に関して希望があるというよりも、関係人口としての地域との関わり方の深化を求めていることがわかります。
関係人口を活かした地域活性化に向けてのヒント
関係人口というキーワードが注目され、取り扱いに関しても様々な見方が出てきている中で、今回の実態調査ははじめて明らかになったことも多い内容となっています。
中でも、地域づくりにとって欠かせない直接寄与型の関係人口は、関係人口のままで地域に関わり続けることを望んでおり、移住を前提としない関わり方が望まれていることがわかります。直接寄与型は、地域課題解決への貢献意識が高く、実際の行動力もともなうことから、地域づくりにとって不可欠な存在でしょう。しかしそこに、地域側が「定住しないなら関わるな」という態度で接してしまうと、排除される可能性が高まってしまいます。
これらを踏まえると、すべてが地方移住につながるような施策を実行するのではなく、移住希望層には移住定住に向けた施策を行い、関係人口の創出は、より分類に応じたアプローチを行うことが必要でしょう。
中でも、地域の課題解決に結びつく直接寄与型を増やしていくことを主眼に、地域に定住せずに地域と関わる存在を受け入れ、地域づくりに活かす仕組みをつくったり、地域住民側の考え方を更新していく必要があります。
「関係人口」が重要な地域づくりはまだ始まったばかり。各地域が創意工夫することで、多様な地域との関わり方がこれからも生まれ続けるはずです。