コロナで従来の人間関係が変わっていく中、オンラインでつながれる関係や、会社や家族以外でのコミュニティの重要性が増してきています。
その中でも広まってきているのが地域のコミュニティ。暮らしを共有したセーフティーネットの役割を果たしていける地域のコミュニティは今後も重要になってくるでしょう。今回はその中でも東大震災をきっかけに立ち上がった、新しい暮らしを実験中の、熊本県宇城市三角町にある「エコビレッジサイハテ(以下サイハテ)」についてご紹介します。

サイハテからの景色

「エコビレッジサイハテ」とは

エコビレッジとは
まず、エコビレッジという言葉を聞いたことがない人もいるかもしれません。Wikipediaでは、「持続可能性を目標としたまちづくりや社会づくりのコンセプト、またそのコミュニティ」と定義されています。ただし、その実態は様々で、エコビレッジという名前がついているからといって自給自足しているところもあれば、していないところもあります。サイハテはエネルギーは自給していませんが、自分たちの手で環境を整えてきているので仕組みを理解しているため、壊れても修理ができたり、ミカン畑に流れる排水のことを考えて自然分解できる洗剤・シャンプーを使用しています。

サイハテについて
熊本県宇城市は宇土半島の真ん中に位置しています。熊本駅からJR三角線で終点の三角駅まで約1時間、三角駅からは車で20分の山道を登ったところに「サイハテ」はあります。

山を登っていく道に沿って、建物がいくつか立っており、その周りに畑があります。家族で住んでいる人が多く、各家庭で野菜やハーブを育てています。

その名前の通り、少し人里離れた場所にあるので、来る際には迎えをお願いするか、車で来ることをオススメします。また、1食500円でスタッフと一緒にご飯が食べれますが、自炊できるように食材も持ってきておくと便利です。お酒や飲み物はカフェ&バーがあるので、夜はそこで住人と交流しながら飲むことができます。

サイハテに訪れると、自分たちで暮らしを作る体験ができます。畑での野菜の育て方や動物の世話、土地の開墾、水道の仕組み、家の作り方など、生活に必要な食・住についての基本を学ぶことができます。村に住んでいる人たちは、土地と建物しかなかったところから、住んだり食べたりできるようになるまでほとんどすべて自分たちで行っており、今でも不具合がでたときには協力して直しています。
また、希望すれば藍染めやビーガンスイーツ製菓の体験など、住人個人の仕事を教えてもらうこともできます(別途要支払)。そこからお金を生み出すための考え方や方法、やりたいことのヒントをもらえるかもしれません。それ以外には、時期によってみかんの収穫や養殖海苔などの村の周辺地域の仕事を体験できることがあります。

村のはじまり
もともと果樹園施設だったところが約10年間廃墟になっており、マルチアクセスアーティストの工藤真工さんが出資者と住人を募集して、土地と建物を引き継いだのが始まりです。果樹園の名残は今も村のあちこちで見ることができます。
工藤さんは、資本主義社会に限界を感じ、競争させる社会から思いやりや調和を大切にした、暮らしベースのコミュニティができるのではと考え、リーダーのいない、来た人が自由に楽しめる「お好きにどうぞ」な村づくりを始めました。

木工作業室、ここでリノベーションに必要なものを作成

建物の中だけでなく、外壁も自由にアート

建物の中だけでなく、外壁も自由にアート[/caption]「お好きにどうぞ」の中で、DJブースができたり、カフェ、ゲストハウス、アトリエ、アースバッグなど、それぞれやりたいと思った人が中心になって、なかったものを形にしてきました。何がどうなっているかわからないような無法地帯のような時期も最初のころはあったそうです。

サイハテは今年で10年目になります。現在の住人はこども含めて20人、その他短期滞在スタッフやプロジェクトメンバー合わせると約30人です。
当初から変わらずこの村にはリーダーがいませんが、住人同士が心地よく過ごすための決まり事もその時々にあわせて作られてきました。今では、村をもっと面白くするにはどうするかということや困りごとなどをみんなで考えるミーティングが月1回開かれています。
エコビレッジ内でのコミュニティ運営と、そこに外部からの受け入れが行える体制が整っています。月1回ミーティングの様子

エコビレッジサイハテ、3つの滞在方法

本当の村のようなサイハテですが、ここでの暮らしを体験する方法は3つあります。
1つは村にあるゲストハウスに宿泊する方法。このゲストハウスも先人たちが改築してくれたおかげで、綺麗で居心地のよい空間になっています。ドミトリーしかありませんが、ゲストハウスとは別に作業部屋もあるので、仕事に集中したい方はそこを使ってください。ゲストハウスは村の一番上にあるので、ここからの眺めは美しいです。屋根付きウッドデッキもあるので、ここでのんびりするのもオススメです。洗濯機付きです。2つめは村人になる方法です。年間35,000円で、ゲストハウス50泊、キャンプ泊50泊ができる、「村人制度」という制度を利用できます。住人とは違うので、住むことはできないのですが、十分に村の一員となって滞在することができます。

そして3つめはボランティアスタッフとしての滞在です。こちらは、2週間以上の滞在を、初期費用2万円で体験することができます。3食付き、週6日/一日6時間、村のあらゆる仕事を手伝います。
村の仕事を通して、住人と交流できますし、それぞれがどんな暮らしをしているのか垣間見ることができます。また同時期にスタッフメンバーになった人とは自然と交流も生まれ、刺激の多い毎日を送ることができます。

2週間という期間が難しいという方は、ゲストハウスに滞在しながらボランティアスタッフの仕事を体験することもできます(体験費500円、一食無料)。仕事が終わった後はスタッフと一緒にご飯を食べることも。スタッフも全国からサイハテに来ており、年齢も高校生など10代から社会人経験のある30代まで様々です。

常連の方々とスタッフ、プロジェクトメンバー

ボランティアスタッフの1日を体験してみました。

スタッフはゲストハウスかスタッフ専用の家に寝泊りしています。どちらも2段ベッドの一段分が自分のスペースです。
私は朝大抵ニワトリの鳴き声で目が覚めていました。結構にぎやかです。
運が良ければカフェスペースには、工藤さんが入れてくれたフリーコーヒーがあることも。
朝食は各自自由です。仕事は大体午前3時間、午後3時間です。開始の時間や終わりの時間は季節によって異なりますが、私が滞在していた9月は9時~12時、15時~18時でした。

仕事のうち、日課としてあるのは動物の世話です。
サイハテにはヤギとニワトリと犬がいます。意外にも猫はいないのですが、ヤギは4匹いて開墾する前の斜面や野菜を育てている畑周辺の草を食べてくれます。ヤギのおかげで、荒れ地が綺麗になるので、計画的に草を食べてほしいところまで毎日連れていきます。ニワトリは30羽程いて、卵を産んでくれます。有精卵と無精卵がいますが、無精卵は村で売っており、有精卵はスタッフのまかないに使われています。(なんて贅沢!)
自分たちで世話をしているので、どんな餌をやっているか、ニワトリたちがどんな状態かなどがよくわかります。たまに卵を採ったときに、まだ温かさを感じることがあったり、糞がとても臭いときがあった・・・そういうことの一つ一つにスーパーでは感じることのできない生産の背景を知ることができます。

世話しているニワトリの卵たち

その他の仕事は、季節によってかなり異なるそうですが、畑の水やり、野菜の植え付け、雑草刈り、お茶などの加工品づくり、ゲストハウスの清掃が主です。雨の日は室内でできる片付けや清掃をみんなで一緒にやったり、特に仕事がなければお休みになることもあります。
畑でできた野菜をスタッフのまかないに使わせてもらい、また次の人たちのために時期に合った野菜を植えました。普段あまり旬を意識しにくいと思いますが、畑に少しでも携わることで野菜を作る難しさや収穫の楽しさなどを感じることができます。

畑で採れたさつまいも

昼食と夕食はスタッフ全員で作って食べていました。その人数は、多い時で15人~20人になることも。
人手があっても、20人分のご飯を作るのはメニューを考えるだけでひと仕事でしたが、みんなでワイワイ食べる食事はおいしくて楽しかったです。

スタッフの晩ご飯

また、たまに「宴」と呼ばれる村全体の一品持ち寄りパーティーがあり、そこではゲストもスタッフも住人も集まるので賑やかです。焚火をしたり、音楽に合わせて踊ったり、子どもも大人も一緒になって踊ります。

宴の様子

週1回の休みがあるのですが、その日は皆で住人に車を借りて近所の海や温泉に行っていました。「洞窟温泉」は、サイハテからも近く、本当に温泉が洞窟の中にあって楽しいところでした。

スタッフとしての滞在体験を通して

スタッフとして滞在した経験をもとに、エコビレッジサイハテのよかった点をまとめました。

田舎暮らしがリアルに体験できる、農業体験ができる
サイハテは、将来的に半農半Xで暮らしたいという人や、コミュニティで助け合って生きて生きたい人にピッタリの場所です。
無理のない範囲で農業の体験ができますし、採れた野菜を自分たちで料理して食べる体験も得られます。Wifiなどの設備がしっかりしているため、リモートワークをしながら田舎暮らしが体験できます。
村の運営や住人の皆さんの暮らし方や考え方を知ることで、将来的に自分でコミュニティを作っていく参考になるかもしれないですし、色んな人と助け合って暮らすことの良し悪しやコツなども肌で感じられると思います。

多くの人に出会うことができる
ゲストハウスがHahfの拠点になっていることや10年目となってリピーターが多く訪れることもあって、「僻地」と言ってもいいような場所ですが、日々新しい人と知り合えるので滞在に飽きません。訪れる人の中には面白い仕事をしている人や住人の中に変わった価値観を持って生きている人がいるので、刺激をもらえます。

さまざまなプランがある(長期滞在も短期滞在も可能)
長期でも短期でも、様々な形でこの村と関わることができます。サイハテは毎年11月に周年祭という祭りも行っているので、その時期に遊びに行ってみるのも貴重な体験になると思います。

余談ですが、私はサイハテで藍染めを体験し、今後仕事にしていきたいと思う程興味を持つきっかけをもらいました。
様々な人との出会いの場であり、新しい価値観や暮らし方に触れることのできる場所です。

三角エコビレッジ SAIHATE