京都府南丹市美山町、正に日本の原風景と呼ぶにふさわしい美山町の北集落、いわゆる“かやぶきの里”はその集落全体が国の重要伝統的建造物保存地区として選定されている。

美山の北集落“かやぶきの里”

そのかやぶきの里の一角に平飼いの養鶏場がある、それが戸川養鶏場だ。運営しているのは戸川倫成(とがわともしげ)さん、証券会社や経営コンサルトなど華やかな職種を歴任してきた戸川さんが2017年に前任者から場所を引き継ぐ形で開業した。平飼い養鶏にどのような魅力を感じたのか、開業した経緯を含め戸川さんに語って頂いた。

【平飼い養鶏との出会い】

「昔から業界の産業構造やマーケティングに興味があったんです」と話す戸川さん、大学卒業後は証券会社に勤め、その後IPO(株式公開)を目指す上場準備企業の経営企画を数社担当、さらには経営コンサルティングの職に就いた。華やかな職種を歴任してきた戸川さんと平飼い養鶏との出会いは、経営コンサルタント時代のクライアントとして平飼い養鶏農家と関わったことだった。「最初はコンサルタントの一顧客でした。しかし平飼い養鶏のことを調べていくと次第に興味が強くなっていったのです」。

主に平飼い養鶏に魅力を感じた理由について戸川さんはこのように話す。「主に3点理由がありました。1つ目は市場についてです。アメリカではマクドナルドといった大手ファストフードチェーンですら2025年までに平飼い卵に変えると発表しています。世界の流れがケージフリーに変わっているが、日本ではケージ飼いの卵が90%以上となっています。またデータとして卵の消費は大きく変わっていないにも関わらず、養鶏家数はここ30年で約1/5になっていたりと、ここにビジネス的な魅力を感じました。2つ目はカタチのある商品を扱う仕事をしたいと思ったからです。主に金融やコンサルなど、カタチのない商品を今まで扱っていました。それはそれで必要ですし、やりがいがあった仕事ではありましたが、次のステップとして自分の持っている経営視線やマーケティングの知識を活かしたモノの販売に興味が強くなりました。そして3つ目ですが、鶏さんが可愛かったんですね(笑)」

当時、戸川さんのクライアントが美山にある中野養鶏場より2棟借り受けていたのだが、他地域に移転することが決まった。そのタイミングで戸川さんに声がかかる。「美山の中野養鶏場オーナーより、全5棟貸すので平飼い養鶏しないかと打診を頂きました。集落全体が国の重要伝統的建造物である美山の魅力もありブランディングもできる、そして養鶏の経験のない自分が養鶏場を借り受けるチャンスは今しかないと考え、即決しました」。

中野養鶏場の場所を引き継ぐ形で2017年、戸川養鶏場を開業することになる。

かやぶきの里の一角に戸川養鶏場がある。

養鶏農家となった時の戸川さん

【養鶏農家としてのこだわりと葛藤を抱えながら】

「まずぶれないようにしていることは、私は“たまご農家”ではなく“養鶏農家”だということです。字のごとく鶏さんを養う訳なのですが、私は卵を創ることはできません。卵を創れるのは鶏さんだけです。私が出来るのはプロダクトとして“卵”を販売することになります」と戸川さん、まずは鶏さんがする事、人がすべき事の役割をきっちり分け、その中で鶏さんに可能な限りストレスなく健康的に過ごせることを意識していると話す。

販売面からみると、まず消費者ニーズがありその消費者ニーズを叶えるために卵の生産体制を整えることになる。そこにどうしても鶏にしわ寄せがくる仕組みがあるのだと話す。「経済的には間違ってはいないと思いますし、その為に様々工夫されている研究者や企業の方の努力は素晴らしいと思います。但し私は“鶏さんを第一”に考えたい」と戸川さんは養鶏農家としての強いこだわりを持つ。

「例えば卵の黄身、これは餌の種類で色を変えることが出来ます。“赤い色は栄養価が高い”ようなイメージがありますが、実は関係ありません。これは買ってくれるお客様が黄身が赤い卵を好む傾向にあるので、餌を変えているのです。要はお客様ファースト。何度も言いますが、この考えが間違っているわけではありません。ただ私は黄身の色ではなく、どのような餌が一番鶏さんにいいのかを第一に考えています」とあくまで“鶏さんファースト”を貫く。

ちなみにブランド名の“美卵~みらん~”は、美山の卵であることと、張りのある美しい卵であることから名づけられた。

しかし養鶏農家として、つまり命を預かる身として「やはり葛藤は抱えますよね」とも語る戸川さん。何をベストとするのかは結局自分自身のエゴだと話す。「平飼いと言えど、ある程度狭い範囲で閉じ込めているのも事実です。また度重なる育種改良や環境整備により、本来は春に20個ほどしか卵を産まない鶏さんが年中卵を産むようになっていたり、雄鶏はひよこの時点で選別され絞められている現実もある。そこにはケージ飼いも平飼いも変わらないんです」。

エシカル(倫理)や動物愛護の声も大きくなっていると感じる中、戸川さんはこのように話す。「最終的には『ありがとう』と本心から思うことが大事だと考えてます。もちろんそれで鶏さんが許してくれるかは分かりませんが、人が食べていくために一定不利益を与えている事実には正面から目を向け、そこに関してはひたすら感謝すること。養鶏を始めて『頂きます』の本当の意味が分かったような気がします」。

必ず“鶏さん”と呼ぶのはこのような尊敬や感謝の念があるからだそうだ。葛藤を抱えながらも感謝や尊敬を忘れない、そこには養鶏業を営む戸川さんの信念が垣間見れた。

元気に動き回る鶏さん。

新鮮な卵は採れた当日に配送する。

“美卵~みらん~”のロゴマーク

【ここで美山の平飼いたまご『美卵~みらん~』のご紹介】

<鶏さんについて>
純国産の鶏“ゴトウ赤玉鶏 もみじ”です。日本の風土で育種改良され、強健で抗病性にも優れ、褐色の美しさや卵殻や卵形の良さも特徴となっております。

<平飼いの密度について>
平飼いは5羽/㎡以下と決まってますが、戸川養鶏場では3羽/㎡以下としてます。より鶏さんが自由に動きやすくなってます。

<水について>
京都で唯一「水の郷百選」に選ばれている美山の綺麗な天然地下水を汲み上げて鶏さんに与えてます。

<餌について>
遺伝子組み換えでないトウモロコシや近くの農家さんに頂く雑穀を中心にした穀物で、抗生物質は使用しておりません。

<“美卵~みらん”プロモーションビデオ>


<“美卵~みらん~”が買えるお店>

美卵オンラインショップ
ムモクテキ 京都店(京都市)
阪神百貨店梅田本店  B1青果フロア(大阪市)
道の駅 ふらっと美山(南丹市)
JAファーマーズマーケット たわわ朝霧(亀岡市)

<“美卵~みらん~”が食べれるお店>
カステラ ド パウロ 「特上カステラ」(京都市)
Léclat レクラ(京都市)
koe donuts kyoto コエ・ドーナツ京都(京都市)
DEAN & DELUCA 京都店 (京都市)
クリエイティブダイニング「TAKAYAMA」(京都市)
熙怡(Kii)キイ(京都市)
スープとお惣菜 Pan Boo (京都市)
・Restaurant&Bar Minority(大阪市)
PANCAKE & books bibliotheque(大阪市)
心根(高槻市)
お食事処 きたむら(南丹市)
悠々ひろば(南丹市)
民宿またべ(南丹市)

※クリックすると各HPへ移動します。都合により販売していない場合もございます。予めご了承くださいませ。

美卵の魅力を伝えるべく、ユニークな被り物をして売り場に立つこともある。

【未来を見据えて】

「ライバルは他の卵とは思ってないんですよね。ディズニーランドやいい映画がライバルだと思ってます。モノには色んな価値があって、大きく“機能的な価値”や“情緒的な価値”、“自己表現的価値”があります。機能的な価値としては卵は優秀で、栄養素も高い。但し他の卵も機能性はそこまで変わりません。私が特に意識しているのは情緒的な価値です」と戸川さんは話す。

一般的に養鶏といった畜産業は“作り手の意識”と“消費者の意識”にまだまだズレがある。鶏さんの飼育環境、作り手の想い、養鶏業の取り巻く環境等を可能な限り発信し、知って頂くことで情緒的な価値を生み出すのだと話す。「養鶏のことを知り生産者の想いを感じ取った消費者の方は“どのような卵なんだろう”とわくわくしますし、美味しい卵を食べることで感動に繋がります。それはディズニーランドのわくわく感や、いい映画を見た時の感動と同じ価値であり、そのような“心の満足”をお客様に感じて頂けるような仕事をしていきたいと考えてます。そして平飼い養鶏にはそれが出来ると考えてます」。

そして最後に戸川さんはこのように話した。「確かに私は鶏さんを飼っているかもしれないが、鶏さんが創った卵で生計を立てるので、鶏さんに養ってもらってるんだなって最近は思います(笑)。そこにもやっぱり『感謝』しかないですね」。

鶏さんと二人三脚で歩む戸川養鶏場の今後の取組が楽しみである。

二人三脚で歩んでいく鶏さんと。

張りがある新鮮な卵

戸川養鶏場HP:http://xn--1lr193h.jp/