鳥取県鳥取市、“鳥取砂丘コナン空港”という呼び名が付く鳥取空港の離発着が見渡せる真横に、とある観光いちご園がある。その名も“re-tori farm ~リトリファーム~”。運営しているのは河崎真也さん、大手コンサル会社を経てUターンで鳥取に戻り開園した観光いちご園だ。今後も規模を拡大する予定の観光いちご園だがどのような経緯で運営することになったのか、その河崎さんの想いに迫る。

有名な鳥取砂丘から約10分、鳥取空港の真横に農園がある。

【農業への転身】

「もともと農業はしたかったんですよね」と河崎さん、ただ実家も農家を営んでいたのだが農家を継ぐということは考えていなかったと話す。高校時代や大学時代は特に将来のことをそこまで考えずに来たとのことだが、一つ目のターニングポイントが大学時代にあった。

「大学は楽しかったんですが、“ただ楽しかっただけ”だったんですよね。本当にこのままでいいのかなって気持ちがずっとありました。そこで思い切って鳥取の大学から福島の大学へ編入し、経営学を学ぶことにしたんです。農業をするにせよ、何をするにせよ、まずは経営を学ぶことが大事なのではと考えました。そして経営を学ぶ中で仕事の選択肢として“コンサル”に興味がでてきました」。

新卒で大手のコンサル会社への就職も決まった河崎さん、初めは農業とは異なる業界のコンサルティングを担当していた。しかし漠然とではあるが鳥取に戻り農業をする想いもあったことから、3年目に農業部門でのコンサルへ自ら志望し異動することになった。

コンサルの仕事をしている中で見えてきたものがあると話す。「経営的にうまくいっている農家にある法則性が見えてきました。もちろん細かいことも多々ありますが、主に2点あります。一つ目はなるべく中間マージンを発生させずに直売で売り切ってしまうということ、二つ目が組織的に強固であるということです。これは経営がうまく行っている農家には共通で当てはまるものでした」。

この頃から鳥取に戻り農業をすることを決意していた。しかし仕事を通じ、農業経営の全体を知ることが出来たと話す河崎さんだが一つ不安なことがあった。それは現場の経験があまりにもない事だった。「数値を基に言うことは簡単なんです。しかし実際にするのは農家の方々。机上の空論に終わらせないためにも自分自身が現場を経験することは必要だと思いました」。

そこで河崎さんは会社に勤めながら農業学校に通いだしたのだ。平日は仕事をし、週末は農業学校に通う日々だったというがこれが良かったと話す。

「1年間でしたので出来ることは限られてましたが、私のようなアパート暮らしの人間が“畑”で“農産物”を育てる経験が出来たのは大きかったですね。そして共に学ぶ人がいたことでグループワーク等を通じて様々ディスカッションが出来たのもよかったです。この1年でかなり視野が広がったと感じてます」。

【新規就農への道のり】

会社を退社し、農家になるべく地元鳥取へ戻ってきた河崎さんだが、予想しなかったことに悩まされた。

「農家の家系だっただけに、農家になるのがこんなに難しいだなんて考えてませんでした」と話す河崎さん、特に農地探しについては苦労したと話す。「私は父親と一緒に農業をするのではなく、あくまで“新規就農”との立場で農家になろうと考えました」。しかし新規就農者が農地を取得するには様々な壁があることを知った。「行政や先輩農家の方々からもアドバイスを頂き、農業大学校に通うことを決めました。そして約4カ月ほどかけ農業大学校の社会人コースを履修し、その後先輩農家の研修を受けました。そして念願だった農地を取得できる、と思ったのですが次は条件に合う土地がなかなか見つかりませんでした」となかなか前に進まないことに何とも言えない苛立ちが残ったと話す。

紆余曲折あったが、最終的には鳥取空港近くの好立地である農地を借りることが出来た。「この時に我慢することを覚えましたね」と振り返っていた。

農園からは飛行機の離発着が見える。川崎さん曰く、日本で市場空港に近い“いちご園”と。

【ついに観光いちご園がオープン】

2019年3月、ついに鳥取空港のすぐ隣に観光いちご園をオープンした河崎さん、農園の名を“re-tori farm ~リトリファーム~”と名付けた。「re-tori farmの“re”は再認識という意味があり、“tori”は鳥取の鳥からとっています。リトリファームを通じて鳥取の良さを発信し、鳥取の価値を再認識できるように、という意味を込めました」。

当初は1棟からのスタートだったが、鳥取の市街地エリアからほど近い立地やSNSの発信も手伝ってすぐに人気が集まった。「逆にいちごが全然足りなくて何人ものお客様をお断りをせざるを得ませんでした」と話す河崎さん。その後、年々棟数を増やしていき順調に規模を拡大していった。「元々コンサルをしていたので経営面は自信がありました。いちご狩りだけではなく、直売での販売やB品についてはスイーツに加工して展開したりと比較的想定から大きく外れることなくいきました」と自信を覗かせる。

その一方、苦労したこともあると話す。「やはり“人集め”ですね。これには実は二つの意味がありまして、一つ目は体験農園ですので生産販売するだけでなく人に来てもらうこと必要があります。但しこのことについてはコンサル時代からの経験もありましたし、SNSでの告知がある程度うまくいきました。問題は二つ目の従業員として働き手を集めるという意味での人集めですね。規模を拡大していきたいにも関わらず思ったように集まらないこともあります。大学生など臨時的に雇用することもありますが、規模拡大していきたい中では“長期的な働き手”を探すのは今後の課題になると思います」。

リトリファームのロゴ

農園の様子

【将来について】

「大げさに言いますと“農業テーマパーク”を創りたいんですよね」と笑いながら話す河崎さん、そのためにはいちごだけ以外にも手を伸ばしていきたいのだと話す。「いちご狩りは年末に始まり終わりはゴールデンウィークくらいの約半年だけです。そうではなくて、違うフルーツなのか野菜なのかはまだ決めていないですが、年中リトリファームに行けばなんかやってるぞ、そしてカフェがあったり少しお買い物が出来る直売所があったり、そのような施設を目指していきたいですね」。

そこにはリトリファームを老若男女どのような方でも1日中楽しめる施設にしたい、との強い気持ちが伺えた。「ありがたいことに立地については色々なご縁があり人を集めやすいいい農地が借りることが出来た。後はこれを活かすだけですね」と話す。

また若年層の食育や農業後継者不足の解決に向けた取り組みも進めていきたいと考えていると河崎さんは話す。「鳥取はやはり地方都市なので、都会で育った人たちよりは“土”を触る機会は多いです。とはいえもっと食に興味を持ってもらって“農業は楽しいんだよ”と思ってもらえる、そしてそれが“農業の道もありだな”って想いに繋がるような活動をしたいなと考えてます。そして現実的には農業に関する後継者不足は深刻なものがあります。そこにはまだまだ“農業は儲からないのでは”という風潮が強く感じますが、私はやり方次第で十分やっていけると思ってます。まずは私が前例となれるようにその証明をしていきたいと考えてます」。

今後のリトリファームの取組が楽しみである。

re-tori farm ~リトリファーム~ : https://ritorifarm.com/

オーナーの河崎さん。今後は老若男女がいつ行っても楽しめる施設を創ると意気込んでいる。

スイーツなど新たな取り組みも進めている。

老若男女が楽しめる施設を目指す。