震災復興、新しい学び、地域活性…多分野に新たな可能性を示す

同施設のプログラムの特徴として、油井さんを始めとするスタッフや、外部から訪れるアーティスト、地元で働く人々など多様なバックグラウンドを持つ“スペシャリスト”がこどもたちと交流する点がある。スタッフは旧桑浜小学校時代の卒業生、雄勝町の出身者の他、関東や他地域からの移住者で構成され、日本の学校で英語を教える外国人教師たちも加わる。昨年からアーティスト・イン・レジデンスとして、アーティストを招聘し、こどもたちと創作を行うプログラムも開始。様々な体験を通して、こどもが自発的に学んでいける環境づくりを目指している。

「アートは具体的な目的があってつくるというより、アーティストが作りたいと思って製作する。感覚的ものが多く、なぜそれを作ったかという議論を作品が出来てからすることはこども達にとって貴重な刺激になります。そういったプログラムを、自然に囲まれた環境でやるのでは、感じ方も違ってきます」(油井さん)

社会において、いつもゴールイメージを持って何かに取り組まなければいけないような強迫観念に駆られて生きている環境を反面教師にしたようなプログラムは、大人から見ても刺激的な体験かもしれない。

「この自然豊かな環境は、人が少ないから成り立っているとも言えます。例えば、都市はこれからもっと都市化していって、こども達が成長する環境は人工的なものとなり、働く人はストレスをかかえて生活していく。心身を整える意味でも、日本の都市で暮らす人は、地方に目を向けてみてほしい。
モリウミアスにおいては、物理的な面で施設としてカタチになってきていますが、中身はまだまだこれからです。将来的にはもっと世界中からこどもたちが訪れてくれるようになれば、本物になったと言えるかもしれません。より多くのこどもにMORIUMIUSを通じてサステナブルに生きることを感じてそれぞれが暮らす地域で還元できたら。世界中で人が増えて都市化が進み、地域から人が減って資源が失われる。しかしながら地域の資源こそが地域の魅力であり、その資源を学びのコンテンツとして伝えていくことができれば地域はもちろん、それぞれが生活する地域もサステナブルな社会に近づいていくと考えています。」(油井さん)


地方創生という言葉が一般的に浸透した昨今、MORIUMIUSを始め、地域の特性を生かした多様な試みが各地で生まれてきている。その中で聞かれるキーワードが「何も資源がない土地はない」というものだ。震災を経て、人口が4分の1程となり、未だ昔に近い町の姿を取り戻してはいない石巻市雄勝町。単なる限界集落として以上に大きな障害を、モリウミアスとの取り組みによって乗り越えていくその過程は、地方創生の在り方を進化させる道標となるのではないか。

取材・文・撮影:高柳圭

●公益社団法人MORIUMIUS 概要●

住所
宮城県石巻市雄勝町明神字沼尻13-5
設立
2011年5月24日
代表理事
立花貴
理事
油井元太郎/北本英光/船橋力
事業内容
教育支援及び地域の活性事業。