「新しい社会インフラを創る」をミッションに掲げるYper株式会社(https://www.yper.co.jp/)。
代表の内山智晴さんは、海外に滞在した際に日本の宅配インフラのレベルの高さと同時に、荷物を届けるために配送員が何度も訪問する「再配達」という社会的課題が見えた。労働人口が減少していく中、荷物を届ける最後の区間であるラストワンマイル物流の整備は社会課題の解決につながると考え、2018年に再配達をなくす置き配バッグ事業を立ち上げた。置き配バッグで得られた知見や関係性から、ラストワンマイルを自動化・省人化することで配送効率をより上げられるのではないかとのアイデアが今回の自律走行型配送ロボット「LOMBY(ロンビー)」につながった。
「D-EGGS」では、北広島町をフィールドにロンビーの性能検証をはじめ、中山間地域での採算性を検証。新たな物流システムで、中山間地域の課題にも挑む。
―プロジェクトの内容を聞かせてください。
―内山 私たちYper株式会社は、「再配達」という社会的課題を解決しようと置き配バッグ™「OKIPPA(オキッパ)」を開発し、その利用普及につとめてきました。3年ほど取り組んできた中で、OKIPPAだけでは配送効率が上がらないという事例が見えてきました。
例えば大規模マンションの場合、玄関前にOKIPPAがあっても、正面玄関のオートロックをはじめ各戸の玄関までセキュリティーがいくつかあり、玄関先までたどり行くのに時間がかかります。中山間地域は住宅が点在していることから、再配達を防ぐためにある拠点に宅配ボックスを置いたとしても、住民がそのボックスに行くまで30分かかるようでは効率的とは言えません。「宅配ボックスまでの移動を自動化できたら、配達効率が上がるのではないか」、そのアイデアが自動配送ロボット「LOMBY(ロンビー)」の開発につながっています。
この度の実証実験では、手元に荷物が届くまでの最後の区間を自動化・省人化するLOMBYの性能検証だけでなく、中山間地域で運用する場合の採算性も検証しました。また、中山間地域の食糧アクセス問題をふまえて、LOMBYに宅配物だけでなく生鮮食品を混載した配送にもチャレンジしました。
―自動配送ロボット「LOMBY」で、配送効率を上げる取り組みとは?
―内山 過疎化が進む中山間地域は住宅が点在し、物流効率が悪化しています。地域の高齢化、若年層の都市部への流出に拍車がかかり、物流インフラの維持が難しくなることが予想されています。労働人口が減っていく中で、ラストマイル配送を現役の配送員さんの労働力だけに頼るのは現実的ではありません。
中山間地域ではできるだけ人手をかけずに運用したいので、ロボットとボックスのあるサービーステーションのセットで運用することを考えました。荷物を持って移動するロボットはたくさんありますが、LOMBYは自動でステーションにある荷物を詰め込み、所定の位置に自分で荷下ろしできるという特徴があります。DXによる自動走行ロボットを活用した物流インフラ構築が成立すれば、住民の皆さんが日常生活で困っていることを改善でき、今後も日常を持続することができます。
―日用品と食品の混載によって解決できることは?
―内山 中山間地域では、食糧アクセス問題も深刻です。そこで、ネットで買い物をして、ついでに生鮮食品を買い足して自宅に一緒に配送してもらう、そういった混載配送を想定して実験をしました。
まず、検証用のWEB2つ立ち上げました。日用品を買うサイトと、検証実験のフィールドを提供してくださっている北広島町にあるスーパーの食品を買うためのサイトです。
使い方の流れは、北広島町在住のモニターさんが日用品サイトで買い物すると、神奈川県にある日用品サイト倉庫から商品が発送されます。日用品を購入したモニターさんには日用品購入完了メールとともにLOMBYのステーションが設置してある北広島町のスーパーで食品を購入できるサイトをお知らせし、メールに表示された時間内に食品を購入するとその食品と神奈川から届いた荷物とをロボットに詰め込んで運びます。
配送員さんが町中にあるステーションに宅配物を届け、スーパーの店員さんが食品をステーションの指定ボックスに入れると、そこにいるロボットが自動で荷物を混載して所定の場所へ運びます。再配達の手間も、荷物を取りにいく手間も省けます。ステーションに人が張り付く必要もありません。
食糧アクセス問題を解決できる選択肢は、高齢者の問題を解決するだけでなく、生活しやすさの選択肢として若い世代の移住を促進できる可能性もあるのではないかと思います。
―広島を検証実験のフィールドに選んだ理由は?
―内山 無人でものを運ぶという物流インフラは、中山間地域だけでなくさまざまな場所で活用できます。例えば工場、倉庫、学校などで、台車でものを運ぶ行為すべてを私たちのプロダクトにも置き換えられます。広島は中山間地域と中心部との距離が近く、産業もニーズの多様です。いろいろな可能性を試せる環境を魅力に感じました。
―実証実験の場である北広島町の印象は?
―内山 プロジェクトがスタートして最も感動したのは、北広島町の方々の新規事業に対する熱量がとても高いということです。北広島町役場にはDXチームがあり、専任の職員さんがいます。私たちのプロジェクトを実施するにあたって、実証実験の準備や、現場の配送員さんのインタビューの設定、協力してくださる会社の紹介など、今回の実証実験実施への各種調整をしてくださいました。また、地域のことを知っているDXチームの皆さま方が、地元で私たちのプロダクトをどう生かせるかを一生懸命に考えてくださいました。この実証実験への地元の方の理解を深めてくださったことも心強かったですね。私たちはプロダクト開発に注力することができました。
北広島町は広島中心部へのアクセスもよく、神楽など伝統芸能が継承されて残っており、文化的にも良い環境だなと思います。
―今後、広島との動きは?
―内山 北広島町での実証実験の結果にもよりますが、北広島町でカスタマイズしていくことはもちろんですが、サンドボックスに参加されている企業さんとコラボレーションするなど、ほかの事業に私たちのプロダクトがあてはめられる可能性も考えてみたいです。
―世の中をどんなふうにしていきたいと思われますか。
―内山 日本の労働人口が減っていく中で、より便利なインフラとして自動配送ロボットが使えると思います。高齢者の方にその地域にできるだけ長く住んでもらうためだけでなく、自動配送ロボットを活用してインフラを整えることで若者の流入、リモートワークの推進にも役立つのではないかと考えています。
都市部の若い世代の皆さんが北広島町に住んで働く可能性もありだと思います。東京に拠点をおき、冬の間は北広島町に住んでウィンタースポーツを楽しみながら働く、といった暮らし方もいいですよね。人生の充実を考えたとき、住み方や働き方はどんどん変わってくると思いますから。そんな世界をつくり出せるのがロボットの可能性だと思います。
OKIPPAもLOMBYもですが、暮らしの中に選択肢を増やすことでストレスを減らし、時間の過ごし方の可能性を広げることができます。私たちのプロダクトで、生活をちょっとアップデートできたらうれしいです。そして日本は社会課題を技術力やテクノロジーで解決している、そんな面白い風景を世界の想像を超える形で見せていけたらいいですね。日本の世界での価値を高めていくことにもつながると思います。
Yper(株)の開発した自動配送ロボットは他の AMRとは異なり、荷受け・荷下ろし等を含め省 力化・非対面での配送ができる点に特徴があり、時代のニーズに応えるものだと感じました。同時に、このAMRをどのような場面でどう使うか、何と組み合わせるかが知恵の出しどころだと思っています。本町としても様々な可能性に夢が膨らんだ実証実験でした。
これから、公道走行へ向けた法整備が段階的に進んでいくと思われますが、先端技術は日進月歩で進んで行きます。Yper(株)には、より良いものをつくっていただきたいと期待しています。今後もそのために当町としてできることは協力したいと思います。
(北広島町役場総務課DXチーム リーダー 大本賢一郎)
取材:梶津 利江 撮影:岸副正樹