「あらゆる水上モビリティをロボティクスとAIで自律化する」をテーマに、オンデマンド水上交通の実現を目指す株式会社エイトノット(https://8kt.jp/)。

代表の木村裕人さんは、これまでロボティクス分野で様々なプロジェクトに携わってきた。ロボット開発、商品企画などの専門知識、経験、そして趣味のマリンスポーツを掛け合わせて、社会的な課題を解決できるような面白いことを!と、小型船の自律航行技術の開発をメイン事業として、2021年3月にエイトノット立ち上げた。海は広いが制約が多く、気軽に、自由に移動することは難しい。自律航行船を開発・活用することで、人口減少、高齢化といった離島の経済・社会状況の改善につながり、新たな水上経済が生まれるのではないか、と考える。

「D-EGGSプロジェクト」では、自律航行船で離島の住人に日用品を届ける実証実験を行った。サテライトオフィスのある大崎上島を訪ね、木村さんが考える水上モビリティの自律化について話を伺った。

エイトノット株式会社 代表取締役 木村裕人さん

どのような想いで「D-EGGSプロジェクト」に参加されましたか?

木村  陸の自動運転や空のドローンなど、モビリティの自律化・自動化技術はものすごいスピードで進歩しています。水上モビリティにおいても、日本政府は2025年までに自動運行船の実用化を目指す方針を発表しています。そこで注目すべきは、現在の日本において、離島の生活に必要な航路の約300のうち、1/3以上は赤字という現状です。生活航路の維持に関しては、現在は補助金があるものの、今後、離島の人口減少、高齢化が進むなかで、いかにライフラインを継続していくかは大きな課題です。そこで、ロボティックスとAIを活用した私たちの自律航行船を新たな生活インフラとして提案できないかと。そのためにも、まずは実証実験を行い、自律航行船の可能性を知ってもらいたいと思いました。

広島商船高等専門学校の練習船桟橋にて。広島商船のメンバー(左から3名)とエイトノット代表の木村さん、椋田さん、事柴さん

広島県内で、大崎上島を選んだのは、なぜですか?

木村 広島県内のエリアでいくつか候補地はあったのですが、弊社の技術責任者の横山智彰が、大崎上島にある広島商船高等専門学校のOBだったことは大きな理由の一つです。技術開発的にも土地勘がある場所だととてもやりやすい。さらに、広島商船高等専門学校のサポートで、実際に5名の生徒がこのプロジェクトに参加しています。私たちより、島付近の海域に詳しいので海域や潮流を調べてもらうなど、とても頼りになりました。

また、これまで大崎上島は、ICTやドローンなどの新技術を活用し、様々な実証実験に積極的に取り組んでいて、私たちの事業へも全面的にバックアップしていただける土台があったことも大きいです。

D-EEGSのプロジェクト期間中、広島商船高等専門学校の先生からの提案で、OBの横山や私が幾度か学校を訪れビジネス関連の授業をする機会にも恵まれました。私たちもまだ道半ばではありますが、起業家としてのビジネスマインドや新しい企画の立て方、事業の作り方など、ビジネスの観点からお話をさせていただき良い経験となりました。余談ですが、将来、広島商船を卒業した人の中から起業家が出てくれると嬉しいですね。

「船は、あらかじめソフトウエアで定めた航路で進みます。LiDAR
やカメラといったセンサーで浮遊物や他の船なども検知します。」/エイトノット株式会社 椋田薫さん

実証実験について教えてください

木村 大崎上島から生野島の住人に自律航行船で日用品を届けるオンデマンド宅配サービスです。また、配送後に空になった船に島内で出たゴミを乗せて回収することも行いました。なぜ生野島かというと、この島が人口14人の小さな島であり、住民は食料品などの買い出しやゴミ出しの度にフェリーに車を積んで、大崎上島に渡っているという現状を知ったからです。

さらに、生野島は、本島から一つのフェリー航路では行くことができない「二次離島」で、生野島と大崎上島をつなぐのは町営フェリーの1日7便のみ。また、生野島の多くの住人が外出時の交通手段に不安を感じていることが町民アンケートでも明らかになっていました。

実証実験では、生野島の住人と株式会社フレスタ大崎上島店の協力を得て、電話注文を受けて買い物を代行し、自律航行船に荷物を乗せ、オンデマンドで生野島へ配送しました。自律航行船の可能性を知ってもらう良い機会になったと思います。

今後は、自律航行の精度を高めながらサービス内容の検証を行い、2023年を目標に自律航行船を活用した物流サービスの展開を目指します。

「人の暮らしを支え、人と海との心の距離を近づけるサービスを作っていきたい」

あなたが目指すDXは世の中にどのようなインパクトをもたらすと思いますか?

木村 離島の新たなライフラインの確保、さらには人手不足の解消やコスト削減、自律航行船を活用することで、様々な社会課題を解決できるのではと考えています。

また、私はマリンレジャーが趣味ですが、初めて海に出た時の感動をもっとたくさんの人に知ってもらいたいという想いもあります。海上での移動は、ボートの免許や操船が伴い、一般にはなかなかハードルが高いもの。さらに、フェリーの時刻表に合わせて旅や生活スタイルを変えないといけません。オンデマンド型の水上交通が実現すれば、海上での移動が手軽になり、より海と人との心の距離も近くなる。四方を海で囲まれた島国である日本で、誰もが気軽に水上体験を楽しめる、そして私たちのサービスをきっかけに新たな経済圏が生まれると良いと思っています。


今回、実証実験の場として、大崎上島町を選んでいただき、ありがとうございました。

水上での自律航行船の実証ということで、広島県様よりお話をいただいた際に、本町の広島商船高等専門学校で学ばれた横山さんの「ぜひ実証を大崎上島で」という熱意、木村さんや堂谷さんの人柄にも触れ、また技術的な面でも、非常に魅力的に感じたため、町も微力ながら協力させていただきました。

今後は、この縁が末永く続くことを希望し、かつ、大崎上島町にも拠点を設置していただければ、ゆうことはございません。町としても、ぜひとも、実証実験で終わらず、最先端の自律航行技術で、大崎上島町において実走いただくことを楽しみにしています。

(大崎上島町 企画課長 川本亮之)

 

取材:三桃みえこ 撮影:岸副正樹