Profile

山田香織/小松佐知子

山田香織 37歳 福島県
小松佐知子 37歳 岩手県

「このあいだ作ったフサスグリのジュース、飲んでみます?」 真っ青な空と、緑が映える木々をバックに、「cosotto, hut」は、まさに「こっそりと」建っていた。小さなスペースには愛着のある商品が並び、山田さんはそれらを優しく手に取りながら位置を整え、声をかけてくれた。

東北で震災を経験し、下川の地域おこし協力隊から化粧品会社を起業した2人のストーリーと、これからつくりたい未来とは。

震災が再会のきっかけとなり、未来を語りあった

山田「小松とは、もともと学生時代の友人だったんです。特別に仲が良かったというよりは、時々連絡を取り合う関係で。

3月11日の東日本大震災の時に、小松の実家がある地域の被害が大きかったので『なにか手伝えることはない?』と久しぶりに連絡をして、よく会うようになりました」

小松「私は当時、民間の検査機関にいて、食品栄養分析などの仕事をしていました。震災がきっかけで彼女といろいろ話すようになって」

山田「私はもともとアトピーで、10年ほど前から自分でカモミールなどのハーブエッセンスを使った化粧水をつくっていたんです。

で、将来は化粧品をつくる仕事をしたいんだよね、と話していて。化粧品会社を作るには専門性の高い製造責任者が必要で、それまでは漠然とした夢だったのですが、化学系の仕事をしていた小松がその資格を取れる条件を持っているということで、『じゃあ、やってみちゃう?』と」

小松「そのころ、主に機械相手に仕事をしていたんですが、自然の中で働きたいなという気持ちが芽生えていたんです。山田の想いと私の気持ちのタイミングがちょうど合ったのかもしれませんね」

山田「事業を立ち上げるなら、ハーブの生産から製造まで一貫してやりたいと思っていました。自然の中で農業をするというイメージもあって、具体的に調べ始めたら長野か北海道が候補に上がって。

ただ、長野にはすでに大きな化粧品メーカーさんがありましたし、北方植物にも興味があったので、北海道に決めました」

小松「下川には地域おこし協力隊として移住したんですが、実は移住先を調べるまで協力隊の制度を知りませんでした。

北海道の中でどこがいいかを調べていくうちに下川を見つけて、バイオマスによるエネルギーの取り組みや、自給自足というキーワードがしっくりきたんです」

山田「移住を考えたり事業を始めたりするきっかけとして、私たちにとって震災の影響は大きいです。

以前はヒールをはいたり、女性らしい服が好きだったんですが震災の日に15キロくらい歩いて帰ったとき、ヒールはぼろぼろになって、持っていた華奢なバックでは水を買うのにも不便で……。震災以降、自分の持っているものに対して『これ、本当に必要なの?』と感じるようになりました」

自分の手から何かを生み出したい

小松「下川に興味を持ってから、まずはハーブ栽培をやりたくて町役場の農務課に問い合わせたんですが、ハーブだけを生産するとなると受け入れができないということでした。

でも、当時の役場の担当者の方が調整をしてくれて、2人一緒に採用して、かつ私たちのやりたいことへのサポートもできるかもしれないと商工関係の課での受け入れを紹介してくれました」

山田「そこからはすぐに移住が決まりました。最初からやりたいことが明確だったんで、協力隊の時から少しずつ準備をして、協力隊の任期が終了するタイミングで起業しようと決めていました」

小松「協力隊の任期中は、いろんなことをやりましたね。

一の橋地区という下川の町中から車で15分ほどの集落で『駅カフェイチノハシ』というカフェを運営するのが、地域おこし協力隊としてのメインの仕事だったんですが、あとはしいたけ栽培やトドマツやカラマツの育苗、移動販売とか。それと同時進行でカフェの横の空き地を借りて開墾して畑にしたり。」

山田「小松はトラクター乗り回してたもんね(笑)」

小松「そう、私、けっこう好きなの(笑)」

山田「小松とは、お互い違うタイプだったのが良かったのかなと思っています。小松は真面目でコツコツと積み重ねるタイプで、私は勢いで走っちゃうほう。全然違うタイプだけど、震災という同じ経験をして、消費者から生産者になりたい・自分の手から何かを生みだしたいという強い想いを持っていることを共有しあえました」

小松「協力隊に着任して2年目に入ってからは化粧品製造業の資格をとったのですが、それ以降、下川の方々の応援も増えていったように思います。製造工場をどこに持つかということも課題だったのですが、ちょうど場所が空いて、使えるように尽力してくれた方々に支えられて、2017年4月に起業しました」

私たちを信じてくれる人に恩返しを

山田「本当にいろんな人に支えてもらっています。特に、同じ一の橋地区でシイタケを栽培している下川町役場の平野さんは、心理的にもサポートしてくれて。

協力隊時代に、自分たちの起業に向けた活動が『地域おこし』になるのか、もっと地域のお手伝いをした方が良いのではと悩んでいた時にも、私たちを信じて後押ししてくれました。」

小松「一の橋地区は市街地から離れているので、制作や自分たちの考えに集中できる環境が良いなと思っています。

一方で、平野さんや「フプの森」(トドマツのアロマオイルを原料とした商品を製造販売している地元企業)の皆さんがいたりして、アドバイスが欲しいときや困った時に聞きにいける方々が近くにいらっしゃるのも心強いです。わたしたちと同じ女性だけの会社であるフプの森さんの作業現場を見ると『こんな程度で疲れたなんて言ってられない!もっと頑張ろう』って思います」

山田「これからやりたいことはたくさんあるんですけど、そのうちの一つは『cosotto, hut』の展開です。

販売拠点となる、ほんとに小さな小屋を一の橋地区に作りました。日曜日と月曜日のみオープンしていますが、私たちの商品はもちろん、今後は下川や北海道で同じようにチャレンジしている人たちのものを一緒に販売していきたいと考えています。

微々たるものですが、これまでお世話になった人に少しずつでも恩返しもしていきたいんです」

小松「私は、以前まで『自分の作ったもので肌の弱い方の助けになりたい!』と意気込んでいたんですが、最近はちょっと変わりました。私ができることなんて本当にわずかで。私たちの商品を手にとってくれた方に植物の力をシンプルにお届けできる商品づくりをしていきたいなと思っています。」

山田「そうだね。私は植物の恩恵でアトピーが良くなった経験もあるので、もっと研究して薬や病院などに頼りすぎない、自己免疫力を自分で高めていけるような商品を創っていきたいし、そういうライフスタイルを選ぶ方が増えてくれたらうれしいですね」

小松「会社は2年目に入りましたし、もちろん売り上げや経営は大事だけど、私はなにより、自然の中で働くこの生活が気に入っています

山田「本当にそうだね。SORRY KOUBOUの商品はネットでも販売しているんですが、やっぱり対面で、使い方をお話ししながら販売する方法を大事にしています。特に、いま力を入れている『ハーブチンキ』は手づくりの化粧品をつくる材料で、その他にもさまざまな使い方ができたりするんですが、まだまだ魅力が伝えきれてません。

売るためにつくるというよりは、わたしたちが好きな植物の持つ力を知ってもらいたい、使ってもらいたいという延長線にこの仕事があると思っていて。お客様からのアンケートも全部読んで、必要なものはすぐに商品に反映させています。お客様とていねいなつながりを創っていくのが、私たちの仕事の仕方なのかな」

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