福島県須賀川市➧中国➧田村市都路町

きこり工作室

安田 康さん


 

福島県須賀川市出身。高校を卒業後、中国の大学へと進学し、卒業後はカメラマンや日本語教師として中国で勤務。帰国後、福島県石川郡古殿町で出会ったグリーンウッドワークという生木と伝統的な手工具を使ったモノづくりに魅了され、グリーンウッドワークを用いた「きこり工作室」を立ち上げる。田村市都路町にあった空き家を住居兼作業場として、現在は丸太切りから取り組む木工教室や、受注販売などを手掛ける。

紆余曲折の末、巡り合ったグリーンウッドワーク

元々海外に興味をもっていた安田さん。高校は英語科のある学校へ進んだ。周りは英語圏へ留学する人が多い中、安田さんは須賀川市と姉妹都市であった中国へ進学することに。その後、カメラマンや日本語教師として中国で勤務し、気づけば10年程が経っていた。そして起こったのが、中国での反日運動。「自宅前の道を、反日デモの行列が通過するんですよね。ただ自分、中国人以上に中国人っぽい見た目だったんで、そんなに心配はなかったんですけど。」それでも知り合いからは「外には出ない方がいい」と言われた。さらに習慣や考え方の違いからくる生活上のストレスも加わり、安田さんは日本への帰国を決めた。

地元須賀川市に戻り、しばらくは友人の仕事を手伝いながら生活していた。中国語を使って通訳の仕事でもするか、そんなことを考えていた矢先に起こったのが、東日本大震災。福島県への観光客は激減し、通訳の仕事の見通しは立たなくなった。この先どうしようか…。そう思っていた時、たまたまテレビで見たのが福島県石川郡古殿町にある元保育園を活用した「グリーンウッドワーク クラフトハウス」だった。(グリーンウッドワークとは:森から伐採したばかりの乾燥していない木を、伝統的な手工具を使い小物や家具をつくるモノづくりのこと)

元々モノづくりが好きで、趣味の釣りで使うランディングネット(魚を取り込む網)などを手作りしていた。そんな安田さんは、テレビから流れたそのクラフトハウスに俄然興味が湧き、連絡を取った。その頃はまだクラフトハウス自体が立ち上がって間もない頃だったため、拠点である元保育園の改修を手伝う代わりに、グリーンウッドワークやクラフトハウスで扱っているモノづくりについて教えてもらえることになり、約半年間、そこで修行を積んだ。

クラフトハウスには鍛冶場があり、刃物なども自ら制作していた。その他革製品や編み物も扱い、制作に必要な粘土は毎日山から採集し、ろ過して使う。色々なものを扱う中で、安田さんが特に魅了されたのがグリーンウッドワークによる木工制作だった。

作業場兼住居として出会った空き家はまさかの「0円物件」

グリーンウッドワークは金属の杭やネジを使わない。おまけに制作過程で使うのは伝統的な手工具。そのため完成までには時間がかかる。丸太を切り出すところから、椅子1脚を制作するまでに約1か月、長い時は2か月はかかる。大量生産はできない代わりに、世界にただ一つの作品が出来上がる。安田さんは初めて自分でグリーンウッドワークで椅子を完成させた時、しばらく感じていなかった「達成感」を味わった。目の前の雲が晴れるように、「また作りたい」と心からそう思った。

クラフトハウスでの修行を終えた後は、自宅の一室を使いグリーンウッドワークに取り組んだ。しかし自宅は須賀川市の街中。チェーンソーや斧を容易に使える環境ではなく、作業場に適した場所を探していた時に出会ったのが、田村市都路町にあった空き家だ。

都路町の山の中にある別荘風のログハウス。元のオーナーは美術の先生兼陶芸家だったそうで、家は1階が作業場、2階が居住スペースとなっていた。陶芸窯もそのまま残されており、家具や家電もそのまま使っていいとのことだった。水回りは改修の必要があったが、驚くべきは、家の価格。なんと0円物件だった。家を探し始め、初めての見学で出会ったこの空き家、安田さんは迷うことなく即決した。

空き家になって5年程が経過していたため、多少手を入れる必要はあったが、モノ作りは安田さんの得意分野。住めるようにするため、自分で修繕を進めた。今後は友人の手も借り、さらに住みやすい家に改修していく予定だ。夏の虫と冬の寒さには苦労もあるが、ログハウスで薪ストーブと猫とコーヒー、そして好きなモノづくりができる環境。安田さんは理想の暮らしを手に入れた。

グリーンウッドワークでの木工制作と木工教室を生業に

現在は、週3、4日は土木仕事を請け負いつつ、残りの日は木工制作を行っている。作業場を使った教室も開催しており、口コミで聞いてきたという生徒さんが、グリーンウッドワークによる椅子や器作りに励んでいる。

実際に作業風景を見せてもらった。木工制作という響きから繊細な作業をイメージしていたが、まず取り出したのが、長さ60㎝、直径20㎝ほどの丸太と大きな斧。その斧を使って丸太を縦に割っていく。その後、少し小さめの斧を使い、でこぼこの表面を削っていく。どちらもなかなかの力が必要そうに見える。が、生徒の8割は女性とのこと。希望者にはチェーンソーを使って丸太を横に切る作業から取り組んでもらうこともあるそうだ。

生徒が3人以上集まれば出張教室も行うが、基本的には生徒の都合に合わせて自宅兼作業場で教室を開催する。普段意識することはあまりないが、受講者からは「この素敵な空間でのモノづくりは非日常を感じられて、うらやましい」そんな言葉をかけられる。

ログハウスの1階、作業場の隣には元々ゲストルームが備わっていた。木でできた2段ベッドに机とイス。ログハウスの雰囲気を壊さない落ち着く作りの部屋だ。今後、安田さんはそこを活用し民泊をすることも考えている。家族連れなどに泊まってもらい、週末は木工教室、朝は周辺の山を散策してもらい、食事は安田さんお手製の料理を提供する。実は安田さんの木工教室は今でもランチ付きで、もれなく料理好きな安田さんの手料理が食べられる。それも安田さんの教室の魅力の1つだ。

木工品の販売は、現在は基本的に受注販売のみ扱っている。先に述べた通り、制作に時間のかかるグリーンウッドワークは、大量生産や作り置きには向いていない。お客さんからの希望に合わせ、1つ1つ丁寧に作品を創り上げていく。素材がもつ木の模様、曲がり具合、色、香りは木の種類や個々の木の特徴によっても変わってくる。安田さんの制作では設計図というものはほとんど作成せず、作りながら木の特徴と向き合い、その木に合わせた作品を仕上げていく。まさに「世界に一つの作品」である。

「だからこそ、木によっては制作の途中で割れてしまったり、途中で完成イメージが変わり、変なところに穴をあけてしまったりもするんですけど。まぁ、小さいことは気にしないようにしてます」

山での生活が生み出すのか元からの人柄か、とても大らかな安田さんだ。

将来的にはこの作業場の一角に、来た人が気軽にコーヒーを飲めるようなスペースを設置し、自身の作品を展示するスペースを作りたいという安田さん。さらに、元々あった陶芸窯を鍛冶場として利用し、制作に使う刃物も自分で作りたいと話す。

自然に囲まれ、落ち着いた時間が流れるこのログハウスでは、ちょっと立ち寄っただけでも色々なインスピレーションや、あれやりたい、これやりたいといった思いが浮かんでくる。そんな不思議な空間が、ここ「きこり工作室」だ。

田村市は適度に不便で、適度に便利な場所。

街中とは違い、コンビニが目の前にあるわけでも、映画館にすぐ行けるわけでもない。でも、そんなに不便は感じないという安田さん。「車を走らせれば生活圏内にはスーパーも薬局もある。特に不便を感じることはないですね。便利なわけでもないけど、適度に不便で、適度に便利な場所、田村市はそんな感じかなと思います」

人との関係も、程よい場所だという。「人の優しさはすごく感じます。今年は近くの人に野菜の苗をもらったので植えてみたり、キノコ採りで近くを通った人が帰りにおすそ分けしてくれたりもします。かといって常に干渉されているわけでもないし、騒音でクレームがくることもない。適度な人間関係が築けているかなと思います。」

面白いのは、ここにきて物々交換が増えたことだ。「養蜂家からはちみつを取るのに使うハニーディッパーを作ってほしいと言われたことがあるんですが、その時は代わりに木工の仕上げに使う蜜蝋をもらいました。そんな感じの物々交換はよくやりますね」ここでも安田さんの人柄全開だ。

やりたいことがある人には、静かで集中できる環境なのでおすすめだと話す安田さん。「まぁまずは、気になる人は1度ぜひ来て実際に見てもらうのが一番かと思います。良かったら木工教室も体験してみてください」

最後まで、気さくで温かい安田さんだ。

 

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