2022年8月27日(土)に、福島県田村市で活躍されている林業家の方からお話を伺うオンライントークイベントを開催しました。
今回ゲストにお呼びしたのは田村森林組合で参事兼専務理事を務めていらっしゃる「管野孝さん」。自然と共生してきた林業家ならではの視点で、「林業とSDGs」「林業の歴史(変遷)」など、林業の魅力や産業構造の移り変わり等についてお話ししていただきました。

ゲスト:管野孝氏(田村森林組合参事兼専務理事)
福島県田村市出身。高校卒業後、常葉町森林組合(現材の田村森林組合)に入社、現在勤続42年目。森林整備、木材生産、森林土木等の現場を経て、現在は金融、総合企画、木材乾燥技術の開発導入、プロジェクト田村杉の推進等に従事。また、木工教室や観光産業、地域創生総合戦略会議委員に参画する等、市や県の事業にも携わっている。

 

日本の『林業』の歴史

日本は国土面積に占める森林面積が約66%であり、先進国の中でも有数の森林大国だということをご存知でしょうか。山々から離れた街中で生活をしていると、こうした森林に恵まれている状況というのにはなかなか気づきにくいところがあるというのが実情です。

管野さん曰く、水と森に恵まれている地域は世界にも沢山存在しているが、流れている水(生水)がそのまま飲めるのは日本とバンクーバーくらいだとのこと。森林があるからこそ、清潔で綺麗な水が生み出されるということに改めて気づかされました。

「世界の中でも乾燥した地域や国土を山岳が多く占めているところに比べると、日本は環境的にも恵まれています。日本は稲作文化なので、湿潤で水も豊富にあるんですよ。そういった場所は森林面積の比率も多いのかもしれませんね」

これだけ身近に木製品が溢れているにもかかわらず、あまり深くを知らない『林業』の歴史。時代ごとの背景や世界の状況にも言及しながら、さらに詳しくお話を聞きました。

 

─昔の人は、どのような林業を行っていたのでしょうか。
管野さん:奈良・平安時代は寺院建築で木材を利用し薪材として利用していました。江戸時代は藩の所有林として藩が管理をし、保全対策として大量伐採を禁じていました。また、土砂流出防止など治山治水の観点としても重要な役割を果たしていたのです。

文明の発達とともに森は切り開かれてきました。資源を取り尽くし、その森がなくなってしまったらエネルギー不足に陥り発展は止まってしまいます。そういった経緯を経て放棄された街の遺跡などが、世界各国にも多く見られますね。旧約聖書に記載のある森林なども、今は砂漠になっている。木を切ってしまって再生できなかったということ。日本でそれが起きにくかった理由の一つは、温帯モンスーン気候だということ。植生の回復が早いのです。しかし、温帯地域の森林が人為的な開発によって荒廃したという例もあります。

 

─近代の林業はどのようなものだったのでしょうか。
管野さん:先ほど話した通り、江戸時代の山は『留山』という藩の所有であり、入山や伐採を禁止されていました。民間の人が山に入る際は入会(いりあい)というものを決めて、取れる木材の量も厳格に決められていました。ところが明治からはそれがなくなってしまい、文化の発展に伴いエネルギーや木材の必要が高まったことで大規模な伐採が行われ、その結果多くの山々は丸裸になってしまったのです。
そんなこともあって、明治時代に『森林法』が制定され、森林伐採を制限。植栽を積極的に行い、山林の育成に力を入れました。その後、戦後復興や高度成長期などで木材需要は最盛期を迎えました。
田舎では昭和四十年代中頃までは囲炉裏や竈(かまど)が普通にあったので、木材は人々の生活に欠かせないエネルギーの一つだったのです。

 

─現在の林業の実情について教えてください。
管野さん:人が手をかけた以上は、手をかけ続けないとその山林のポテンシャルを発揮できません。今はそれが手付かずな状態の山林が多くあるのが現状です。社会全体が豊かなようで、実は自分の周りの環境にしか目がいっていないのです。百年先を見据えて行動する心の余裕が必要だと思います。小さなことでも一人一人が気をつけていけば、林業にとっても日本全体にとっても、未来は明るくなると思います。

 

─林業の魅力と大変さについて教えてください。
管野さん:林業のいいところは「ごまかしが効く」ところです。農作物を作るときは種を撒いたら何日で収穫してなど、短いスパンで物事を考えなくてはなりません。その点、林業は伐採時期の調整が効きます。しかし逆に、どの時点で伐採するのが一番有利かを見定めなくてはなりません。木材が高騰したり需要が高まったりと、百年の間に何が起こるかわからないですから。それと、木々によって成長速度も違うので、それも考慮しなくてはなりません。

 

─全国に林業従事者が何人増えればいいと思いますか?
管野さん:現在、林業従事者は5万人前後。今は林業だけでなく農業も行う、農林業の方が多いですね。森を守ることは農地を守ることにつながり、農地を守ることは海洋を守ることにつながる。それぞれのバランスを保たないと、社会全体が成り立たないのです。すべての森林を保全し、経済林として利用するため専業で林業をする人がどれくらい必要かという話になると、とんでもない数になります。おそらく田村市だけでも200人は必要になるのかな。それは森林保全の面だけでの数なので、加工や流通まで含めるとそれ以上の人員が必要ですね。

 

─田村市の林業について教えてください。
管野さん:田村森林組合はオーナーズクラブです。森林を持っている人たちが共同で運営しているため、林業を営んでいなくても森林を所有していれば入れます。主に木材加工や森林調査を行い、森林がバランスの取れた状態になるように保つことが仕事です。森林組合の仕事は木を切るだけでなく、製材加工部門、技術部門、事務部門などに分かれます。新しく林業に従事する人のために「緑の雇用制度」というものもありますから、未経験でも大丈夫です。また、田村市には田村杉というブランドがあります。田村市は降水量や寒暖差のバランスにほどほどに恵まれた地域のため、木を育てやすい環境です。

 

各産業の発展にも欠かせない『林業』という仕事。

従事者の減少や高齢化などの問題を抱えている『林業』。地方の人口流出も問題になっていますが、森林を保全する健全な田舎の人口があって初めて都会の安定した生活が保たれるのだと、管野さんは語りました。

「昔の人の話ですが、『お金にしたいなら全部木を切ってしまったほうがいい。しかし山林を次世代につなげば子供や孫も守れるし、雇用も生まれる。今を生きるためには必要ないかもしれないけど、未来には必要かもしれない』と言っていました。
林業は子供、孫の世代、それより先の見えない未来を見据えておこなうビジネスです。古くから自然と共生し、持続可能な社会を目指してきた職業なのです。自然のサイクルに合わせて長期的なスパンで循環を作っていく、そんな重要な役割を果たしています。
昨今、SDGsと謳われる中で地域環境・自然との調和がますます重要になってきました。森を守ることは、地域を文化を守ること、ひいては経済を守ることにもつながります」

古代よりエネルギーとして材料として発展に欠かせないものだった木材。どれだけ便利になった現代でも、木は大切な資源として使用されています。私たちの世代だけではなく、子や孫、そしてその先の未来のために自然を残して行かなくてはならない。そんな当たり前のことを思い出させてもらえる、大変貴重なお話でした。

今回は9名の皆様にご参加いただきました。参加者からは、

・歴史、経済、地理的な大きな視点で日本の林業の現在地を体系的に感じられて大変勉強になった
・ゲストの豊富な知識量と見解により、より深く林業を理解できた
・子どもと一緒にやってみたいが、遠いしきっかけがなかったので、何かいい動きがあったら、子どもたちの世代にいい環境を残せるのかな、と思った

とのご感想をいただきました。

たむら移住相談室では今後も、田舎での暮らしを満喫されている方や活躍する地域プレーヤーをゲストにお迎えしてオンラインイベントを行います。ぜひ今後の情報もチェックしてみてください。

たむらぐらし