もう5年以上前になりますが、ある行政職員さんが教えてくれたことがあります。

「地域自治といえば、やっぱり雲南市。小規模多機能自治が進んでいて、そのネットワークが全国に広がりつつあるんだ」と。

「小規模多機能自治」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。市町村単位ではなく、小学校区ほどの区域で暮らしに必要なさまざまな対策を、住民自ら整備していこうとする活動です。

島根県雲南市は、そうした地域主体の自治の先駆けです。

2004年の合併時から始まった取り組みは、今どんな形で機能しているのか。2022年末、地域自治の取り組みが始まって18年目になる雲南市を訪れました。

地域をまわって感じたのは、「地域自主組織」と呼ばれる組織が想像していた以上に     人々の生活の中にあり、しっかり機能しているんだなということ。一部の熱心な人やリーダーがいてこその活動ではなく、「ここで暮らし続けるために何が必要か?」を住民が冷静に課題抽出して、対策が行われるインフラとして整いつつある。

自主組織を市内の全地区にしくみとして導入するために、雲南市が力を入れてきたこと、各地区でそれがどう機能しているかを取材してきました。

02_4471波多地区の「波多交流センター」。廃校になった建物に「はたマーケット」が設けられ、日用品の買い物ができる

地区によって異なる困りごと(波多地区)

ここは雲南市の中心部から車で約40分。山間の集落、人口256人(2022年12月時点)の波多地区です。

現在の「波多交流センター」、元小学校には、毎日30人近くの住民が訪れます。目的は、買い物。建物の奥に「はたマーケット」と呼ばれる地域で運営する商店が入っています。

03_4506食品や日用品など、900品目ほど取り扱っている

04_4512「波多コミュニティ協議会」事務局長の田原善明さん

05_マーケット職員(交流センター兼務)写真R05.01.23 (1)マーケットの職員は、交流センターの職員が兼務。お客さんが来ると事務局にチャイムが鳴るしくみ

以前は地区内にもお店がありましたが、9年前に閉店しました。店へ行くには車で15分、大きめのスーパーへは30分以上かかります。運転免許のない独居の高齢者や、子育て中の人にとっては切実な状況です。そこで、このお店を始めたのが、地域自主組織「波多コミュニティ協議会」。その拠点が「波多交流センター」です。

店では食品や日用品など、900品目ほどを取り扱っています。売上は毎月100万円ほど。全日本食品という会社と契約し、週に3回仕入れを行なっています。

協議会の事務局長であり、副会長でもある田原善明さんはこう話します。

田原さん「協議会の職員が店舗運営も兼ねています。店の隣には、お茶を飲める場所やスポーツジム代わりに『ずむ』といって持ち寄った健康器具をつかって運動できる場所もつくりました。地区で軽自動車も持っていて、無償で送迎もします。」

06_たすけ愛号 (1) (1)「たすけ愛号」による、送り迎えも。年間送迎回数は1,600回。送迎の費用は利用する人たちの寄付金(年7〜8万円)によって賄われている

07_はたスポーツズム (1)方言で「ずむ」、ジムのこと。波多地区はとくに雪が多いため、冬の運動不足の解消や、買い物ついでにお茶やおしゃべりを楽しむ交流の場としての役割も果たしている

波多コミュニティ協議会は法人格をもち、この交流センター以外にも波多温泉「満壽の湯」や「元・ふれあいの里奥出雲自然公園」などの管理委託を受け、年間の事業額は5,500万円。こうした事業は、金銭的な利益を出すことが目的ではなく、すべて合わせて住民の暮らしを守り、サポートするのが主旨の取り組みです。

雲南市にはこのように、地区によって異なる困りごとを解決するための事業が、地域自主組織によって行われています。市内の全30地区にそうした組織が整備されているのです。

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