9/17(土)に放送された、NHKスペシャル「自動運転革命」は、非常に見応えがありました。日産自動車を中心に、その開発競争の最先端の様子が垣間見られて、緊迫感が伝わってくる内容でした。こういう番組を見るといつも思うのですが、何となくそうだろうなと思っている世の中の動きを、ほんの一端でも実際に「見せる」ことは、それだけで相当の意義がありますね。2020年に公道での完全自動運転を目指すというのは、一般的な認識を超えたスピード感です。

しかし、この番組でもそうでしたが、自動運転産業が語られるときにどうしても物足りない感じが否めないのが、本題にも掲げた「Google」がこの領域に参入しようとしていることへの考察です。ここでも、やはり「最先端の領域に貪欲なGoogleが、その莫大な資金を背景に、自動運転のOSを取りに行っている」という言及にとどまっていました。その事自体は正にそうだと思うのですが、今ひとつ具体性に欠けます。では、Googleの真の目的はどこにあるのでしょうか?

これは完全に私見ですが、Googleの本当の目的は、一言で言えば「車のフロントガラスに広告を出す」ことにあると、私は考えています。そのインパクトの大きさに目を向けずして、このイノベーションの本質を語ることはできないかなと思います。

もしかしたら、IT業界の事業開発者にとっては当たり前すぎる見方かもしれませんが、それこそGoogleで検索しても、中々それに言及している意見を見つけられませんでした。しかし、これまでパソコンでそれに成功し、スマートフォンでも実質世界を制し、まだ未完成ながらGoogle Glassでその挑戦を見せたように、Googleのビジネスモデルは、常に「人類の視界」を独占し、そこに広告を配信することで莫大な利益をあげるという非常にシンプルなスタイルを貫いてきたと言えます。やること成すこと、全てがそこにつながっていて、完璧なモデルにも見えるほどです。自動運転もそこにつながっていると見るのが自然でしょう。なぜなら、車のフロントガラスは、「自動運転」になって初めて広告を出すことができるようになる、極めて価値の高い「視界」だからです。

想像してみてください。完全に自動化された自動車の中で、フロントガラスに、「5km先に、最近大人気の新しいファミリー向けレストランがあります。立ち寄っていきますか?」という”広告”が配信されたら、私たちはどうするでしょうか? しかも、その広告は、そのレストランへの距離は勿論、車の中に家族4人で載っていることや、この数時間走り続けていて、どこにも立ち寄っていないこと、さらにはもうすぐランチタイムだということも加味して配信されるはずです。そうした環境下に置かれたら、私達はかなりの確率で、「Hey!キット! そりゃいいね!寄っていこう!」と音声認識を使って自分の車に指示するはずです(笑)。こうした広告配信プラットフォームが、自動車に標準装備されたら、それがどのくらいの巨大なマーケットを生み出すのか、想像するだけで気が遠くなりますね。しかも、そうした広告配信技術自体は、既に実現していて、ネット広告配信の世界でも、Googleは覇権を握っているのは周知の事実です。今のスマートフォンのように、この”Google Front Glass”が、全世界の自動車の80%を独占したら、”必ずどこかに行こうとして移動している最中の視界”だけに、その影響力は計り知れないでしょう。

番組では、競争は激しいものの、日本メーカーのNISSANも、そのトップランナーとして悪くないポジションにいるという印象で紹介されていました。しかし自動車を購入するというマーケットそのものが、この自動運転の普及で急回復するという思い込みは、危険だと思います。いやむしろ、消費者はますます「車を買わなくなる」のではないでしょうか? なぜなら、自動運転によって最もはやくそのメリットを享受するのは、路線バスや高速バスなどの定常ルートを走る交通手段のはずです。その安全性は上がり、利用費は劇的に下がる可能性もあります。さらに、今も急速に普及しているカーシェアリングのサービスもさらに利用しやすくなるでしょう。自分もそうですが、ペーパードライバーの多くにとって最も理想的なのが「いつでも簡単に利用でき、運転の心配のないサービス」だからです。つまり、既存のメーカーにとって最も辛いのは、「自動運転技術を制しても、儲からないかもしれない」という状況なのです。

すでにおわかりのように、Googleは「儲かる」からやっているし、その道筋が完全に見えています。さらに自動運転の技術も一歩リードしている。ここがすごくて恐ろしいところなのではないかと。おそらく、スズキやマツダなどは、自社での完全なる自動運転技術開発は、考えていないかもしれません。(違っていたらすみません) もし自分がそうした企業にいたら、むしろ回収できるかわからないその莫大な開発費を今から賭けるより、別の事業開発に投資する方が、いいのではと考えるかもしれません。少なくとも、Googleに100%牛耳られないように、むしろ無くてはならないパートナーとして頼られる領域を探すかもしれません。(少しだけアイデアがありますが、それはまた別の機会に…) こんなこと言うと、「今からそんな弱腰て情けない」と思われるかもしれませんが、そのくらいの大きな影響が、PC,スマホにつづいて自動車の車内にも起こりつつあるという認識は、それほど外れてはいないのではないでしょうか。

TEDでも、Googleの自動運転技術の開発の最先端を紹介するプレゼンがありましたね。
2011年に早くもこのプレゼンがなされています。

昨年に発表されたこれは、ビジュアル的にも衝撃でした。

しかしいずれも、「俺達は広告でまたありえないくらい儲けるんだぜ!」とは言ってませんね(笑) そりゃそうです。でも、真意を隠しているのかというと、そういうわけでもないと思います。彼らは、純粋に「自動運転が人類もたらすイノベーション」を実現することに邁進していると思います。それが、確固たるビジネスモデルに裏打ちされていることが、Googleの真の凄みなのだと、私は思います。

文:NATIV倉重

P.S. NHKスペシャル「自動運転革命」は、2016年9月24日(土)午前0時10分 (9/23金の深夜) に再放送されるようです。ご覧になっていない方は是非!

【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。