ある日の福島県田村市。JR船引駅から歩いてすぐの場所に、子ども服や靴、おもちゃがずらりと並べられた場所がありました。その数はおよそ380点。出入りするのは主に子どもを持つ家族連れです。

ご提供:地域交流スペースship

この場所は「地域交流スペースship(シップ)」と呼ばれる田村市のコミュニティスペース。行われていたのは子ども用品を中心とした「おさがり交換会」です。

別の日には親子向けワークショップの開催や、ハンドメイド作品などを展示・販売する場所としても活用されているこの場所。ママを始め、子育て世代が必要としている場所・機会を提供したいという想いで進化を続ける地域交流スペースshipについて、運営するNPO法人くらスタ(田村市復興応援隊)の桑原祐子さんにお話を伺いました。

まずは自分たちで施設をリフォーム!みんなが入りやすいオシャレな見た目にチェンジ

地域交流スペースshipがあるのはJR船引駅前商店街の一角。大きな青色の看板が目印です。

施設の中はというと、レトロな雰囲気の商店街とはまた違い、木目を基調としたオシャレなカフェのような空間。出迎えてくれた桑原さんは「ここにある家具は、ほとんどがもらい物や手作りなんですよ」と教えてくれました。

「看板は、地域の人たちと一緒にデザインを考え、色を塗りました。テーブルはワークショップを開催して参加者と手作り。棚は、以前地元のお祭りで使われていた椅子を再利用しています。極力お金をかけないで、みんなの力を集めて作った場所なんです」

新潟県出身の桑原さんがshipの運営を担当するようになったのは、2022年4月。初めて足を踏み入れた時は「入りにくい場所だな」と感じたそうです。

当初、施設の中には会議用の長机が事務的に置かれており、道路に面して掲げられた看板は、名称が以前と変わったことで白く塗りつぶされていました。

定期的に行われていたサークル活動は、会員の高齢化などのため参加者は徐々に減少、この場所に人が訪れること自体が少なくなっていました。

交流スペースの運営が初めてだったという桑原さんですが、それでも「何とかしなくちゃ。もっと誰でも気軽に入れる場所にしなければ」という想いで改革に着手します。自身が子育て中ということもあり、折角なら子育て世代が集まれる場所を作りたいという想いもありました。

「お金をかければオシャレな場所を作るのは簡単かもしれないけど、それだと町の人にとってはやっぱり『誰かが何かやっている場所』。『自分たちが作り上げた自分たちの場所』という愛着をもってもらいたいと、地元商店街の人を始め、田村市民に協力を呼びかけ、看板やテーブルをみんなで手作りすることにしたんです」

ちょうどこの頃、インターンとして職場に来ていた田村市出身の高校生も加わり、またマスコミに取り上げられたこともあって一気にshipの注目度は高まりました。

ご提供:地域交流スペースship

オシャレに生まれ変わったship。次に必要なのは「ここに来たいと思う目的」

こうしてshipは「地域の交流スペース」として再出発することになりました。

若い世代にも好感をもたれるようオシャレな見た目へと生まれ変わったshipですが、今度は別の問題に直面します。

「どんなに場所をキレイにしても、人が来ないんです。なんでだろう?何が足りないんだろう?って色々考えました」

当時のshipは主にフリースペースとしての用途がほとんど。Wi-Fiを完備し、コーヒーも飲めるようになっていたので、中高生が勉強する場所、地域の人のおしゃべりの場、その他色んな活動が自然とここで行われることを想像していました。

しかし、ほとんど人は来ません。

shipが主体となり様々なイベントを企画しましたが、集客には苦戦することが多かったと言います。そんな中、転換点となったのが、冒頭で行われていた子ども用品の「おさがり交換会」。

田村市のみならず、近隣の郡山市や三春町からも親子連れが訪れ、1回目の開催から大好評。またイベントを通して、

「学校の制服や体操服の交換会はない?」

「うちに子どものジャングルジムや三輪車がまだあって、どうしようかと悩んでいるんだけど…」

「子どもの服って捨てるに捨てられなくて…」

そんなママたちの声が集まってきました。

「実は以前『子ども服から生まれる季節雑貨』という捨てられない子ども服を自分でリメイクし、小物に仕立て直すというイベントを企画したことがあったんです。でも参加者はゼロでした。なんでかなって考えた時に、もし自分だったら忙しい生活をしている中、大量にある子ども服を手で縫って小物にアレンジするって…参加したいとは思わないかなって思ったんです」

そこで気がついたのは「自分のママとしての感覚を大事にする」こと。その後はイベントを企画するときは、桑原さんが自分だったら絶対に行きたいと思うイベントを考えるようにしました。「おさがり交換会」もそうして立案されたイベントです。

今では月に1~2回ほど、こうしたship主導のイベントやワークショップが開催されており、その多くは親子向け。

ご提供:地域交流スペースship

「人が欲しているイベントを企画すれば、参加者は自ずとついてくるんですよね。そうした意味でも、自分のママとしての感覚は大切にしたいなと思いました」

地域交流スペースshipが手掛ける3つの活動の柱

現在shipは主に3つの柱で活動しています。

1.地域の人と人をつなぐ “交流の場”(フリースペース)
2.趣味や作品をシェアする “表現の場”(シェアスペース)
3.やってみたいを実現できる “活動の場”(場所の提供)

「交流の場」では、「おさがり交換会」のようなship主体のイベントを始め、市民が講師となり行うワークショップなどが行われています。またボードゲームや授乳室を設置し、子どもや親子連れでも気軽に立ち寄っておしゃべりができる場所としても開放しています。

「表現の場」は、桑原さんが担当になり新たに始めた取り組みのひとつです。

以前から桑原さんは、田村市復興応援隊として地域活動をする中で「田村市のお母さんたちって、手仕事をしている人が多いなぁ」と感じていたといいます。手芸や編み物を始め、着物のリメイクやアクセサリー作りなど、ハンドメイドの作品作りをしている人たちにたくさん出会いました。

「プロとしてやっている人は、マルシェに出店する、オンライン販売する、など作品を知ってもらう機会がありますよね。でも趣味でやっている人の多くは、発表の場所がないんです。それならshipを発表の場所として使ってもらおうと思いました」

そうしてshipに棚を設置し、個人の作品展示ができるスペースを設けました。shipは行政からの委託で運営している施設のため、最初は販売までは難しいかなと思っていましたが、交渉を重ねた結果、ついに今年の9月から展示だけではなく、作品の販売も可能になりました(条件付き)。

「展示(販売)期間は1クール3か月なんですが、これが意外と人気でして、今では8組/1回の応募枠以上の申し込みがあるんです」

出展者が増えるのと比例して、shipでのワークショップの開催も増えていきました。理由はシェアスペースでの販売条件の1つが、「shipでワークショップを開催したことがある人」だったため。

最初は「私にワークショップなんて…」「人に教えるなんて…」と尻込みする人がほとんどでしたが、桑原さんが根気強く1人1人の希望をヒアリングし、ワークショップのやり方をレクチャーするうちに、少しずつワークショップ開催への意欲を見せ始める人が増えていきました。

今ではハロウィンのガーランドやクリスマスリース作り、オリジナルの食器が作れるポーセラーツ体験など、土日を中心に月3回程度、様々なワークショップが開催されています。

>>shipで行われているイベントの予定はこちらから<<

「ワークショップや展示を重ねて自分の作品に自信を持ってもらえたらいいですよね。ここで少しずつワークショップに慣れていってもらえれば、いずれは自分でマルシェに出店だってできるようになりますし、そこで作品が売れるとまた次の制作意欲につながります」

「自分が困っていることはどのママも困っている」

地域交流スペースshipの使用にはもちろん年齢制限はありません。ただその中でも桑原さんが子育て世代が集まりやすい場所にしたいと思った理由、それは自身の経験にあります。

結婚を機に地元新潟県から福島県へと移住してきた桑原さん。当初住んだ福島県郡山市では、転入女性向けの会が存在したり、子育て施設・イベントが充実していたりと、ママコミュニティ―を築くのにそこまで苦労はしませんでした。

「その後引っ越してきた田村市では、子どもの学校以外でそうしたママ同士が情報交換をし、つながる場所というものが少なかったんです」

そんな苦労を経験したからこそ、このshipで少しでもママの困りごとを減らせれば。そうした想いで現在活動に取り組んでいます。

「今後は、子どもグッズを譲渡/販売できるような掲示板をつくりたいと思っています。ship版ジモティー(地域に特化した中古品販売WEBサイト)ですね。後はもっともっとママたちが気軽に集まって話ができる場所にしたい、自発的に趣味が広がる場所にしたい、子育て情報・地域の情報が集まる場所にしたい、というようにやりたいことは多いのですが、なかなかまだ追いついていないのが現状です。これから運営面でもママたちの協力をもらって、1つ1つ実現していけならいいなと思っています」

田村市への移住を検討している子育て世代の方に、ぜひ活用してほしい地域交流スペースshipです。

地域交流スペースship

住所:福島県田村市船引町船引字五升車37
電話:0247-82-6110
開館時間:火曜日~土曜日 10:00~16:00
休館日:月曜日、日曜日、祝日、お盆期間、年末年始(イベント開催日はOPEN)
HP:https://ship.kra-sta.com/
運営:NPO法人 くらスタ (田村市復興応援隊)

 


この記事を読んで田村市での生活に興味を持った方、移住を検討している方は、お気軽にたむら移住相談室へご相談ください。

たむら移住相談室

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