民間発の取組みを支援する行政の役割とは

ー民間のアイデアがちゃんと形になると、新しい反応がうまれて新しい流れができる。そういったところを踏まえて、民間の担い手が出てきた場合に、行政としては起業促進や創業支援をされるんですか?

市役所が前に出て支援する以前に、伊勢志摩エコツーリズム推進協議会が伊勢市、志摩市と鳥羽市の連合でできています。もともと先に立ち上がったのは鳥羽市のエコツーリズム推進協議会で、観光課が事務局をやっています。それを伊勢志摩でもということで、エリアを拡大する形で広がりました。

ー先ほどのお話にもあった、団体旅行から個人旅行へという流れになってくると、多様な体験メニューを着地型観光で用意して来たお客さんがその日の気分で決めるといった枠組みが必要になってくると思いますが、今の事業者さんはそういった価値観にシフトしていっているのでしょうか。

宿泊事業者さんはそういった体験メニューには敏感で、自分のところのお客さんを夕食後、体験メニューに案内して、反応が良いと今後は自分のところでも独自でやりたいと考えている旅館もあります。それまではお客さんを送り込むだけだったけど、うちでもできるんじゃないかと。あとは体験メニューをサービスでやってたのを、お金も取れるんじゃないかと発展させる流れはあるかと思います。

ー送客していたのを自分たちでやるというところで、そうするとある程度新しい事業が発生して雇用が発生するんじゃないかなというのが感覚的にありますけど。

小さい種が増えてスポット的な仕事は増えてきています。その種がいっぱいあるのが鳥羽の強みだと選挙の時から強く訴えていました。着地型観光の体験の種がどこよりもある。いろんなジャンルに渡ってあるもんですから、市内そこらじゅうにあるのが観光地としての鳥羽の強みではないかなと思ってます。

海女さんとして地域おこし協力隊を誘致

ー地域にある体験の種を大きく芽生えさせるような役割でいうと、地域おこし協力隊の制度を活用して何人か入られてますね。例えば海女になりたいという方が来て、受入れ側の地域住民の方がそれをどう捉えているのか、どういうふうに行政として支援されているのでしょうか。

大野愛子さんという方が一昨年から来て、海女として受入れました。当初の地元の反応はというと、正直、あまりよろしくなかったと思います。どこもそうなのかもしれないですけど、特に鳥羽の漁村ならではの文化は、新しい人を受け入れにくいとか、新しい人には入ってほしくないとか、そういう気持ちの方が強かったと思っています。

例えば漁業権の問題があります。海女さんたちは「かまど」というグループ作って5、6人で海女小屋に入って漁を行なう形態とっているところが多いんですけど、どこの「かまど」に所属するかで揉めました。また東京など移住関係のイベントに本人を連れ出していくと「地元に海女しに来とんのになぜいつも東京いっとんの?」って言う声も聞こえてきました。

地元で受け入れるまで本当にすごく時間がかかったな、という実感があります。ちょうど3年目で、7月末で任期が終わるのですが、元フォトグラファーという経歴を活かして、海女の映像などいろいろ記録に残していただきました。大野さん自身は鳥羽に残って、将来は海女カフェをしていきたいなという話もいただいてますので、それに向けて支援できたら有難いなと思っています。漁協だけでなく町内会や旅館組合、海女組合などいろんな人たちに来てもらって協議しています。

ー今のところ海女として実際に漁に出てっていうのはどれくらいされてるんですか?

シーズンずっと漁に出ています。今年はアワビだけで200kgくらい採っているのでもうプロですよ。収穫量も地元の海女さんがクレームくるくらい、妬まれるくらいになってきました(笑)。もともとダイビングの経験もある方ですので、3年かけて漁場を覚えて海の様子も把握して、ちゃんと取れるようになりました。また他の部分でも素敵な企画してくれてます。

ー将来的に海女カフェ、ゲストハウスみたいな構想を考えられてると思うんですけど、そこに対しての支援は?

一人の海女として移住者として、地域に残っていろんなやりたいと言っていただいておりますので、担当課として我々も一緒に実現へ動きたいなと思っております。地域おこし協力隊の起業支援制度もいろいろ出てきているので活用したいですね。

ー大野さんが任期終了した後にまた地域おこし協力隊を募集されるのでしょうか?

海女としては募集していません。通常の地域おこし協力隊としては引き続き募集しています。もともとは漁業と観光の連携事業の中で、各集落ごとにある漁協の支所ごとの現状をヒアリングする中で、海女さんが減っているので受け入れてもいいよっていう集落があったので、手を挙げてもらった経緯があります。基本的には地域側のニーズに合わせてやることになります。

ー地元に何か変化はありましたか?

テレビ慣れはした気がします(笑)。特に大野さんが入った石鏡なんかは中京テレビさんで密着取材もしていただきました。「全映協グランプリ2017」も獲得しました。でも、まだまだかなという気がします。

*「全映協グランプリ2017」最優秀賞(総務大臣賞)受賞番組 
『だいりょうますます~ばぁのかまどと海女ちゃんと』