全国初・漁業と観光が手を結んだ、地産地消の資源管理
ー資源管理のやり方はどうなっているんでしょうか。
もともとは水産業関係者が中心となって資源放流をやっていましたが、最近特徴的なのは観光関係の方が力を入れ始めて、漁業と観光の連携事業という中で鳥羽独自の取組みが進められています。漁業が衰退しては元も子もない。中でも、鳥羽のシンボルとして海女さんの漁獲がずっと継続されていくことが大事だということで。よそでは考えられないことだと思うんですけど、観光協会が先陣を切ってそういう活動をしてるんですよ。
もちろん鳥羽市と観光協会と漁業と3者がタッグを組んでいて、それは全国に例がないことなので注目を集めています。これだけの水産資源があり、鳥羽には年間400万人が来て200万人が泊まってるのに、地元の海産物がホテルや旅館で使われてない課題がありました。せっかくなら地産地消にした方が、観光にとっても都合が良い。
ー観光的な視点での景観保全と漁業は、両立しないイメージですが。
それが、そんなこともないんです。例えば、伊勢湾には漂着ゴミの問題があり、私も市長になる前の県議の頃から力を入れてきました。なかなか解決する問題ではないんですけど、環境ボランティアのようにお金を払ってでも清掃活動に来てくださる人がたくさんいます。都市部へのしかるべき発信をすれば、観光プログラムの種にできるんじゃないかと思いますね。
ボランティアツーリズムの可能性
ーエコツーリズムの次にはボランティアツーリズムが来ると
そんなことでお金が取れるのかっていう話に通じますが、ゴミ拾いをするためにお金を出して名古屋から来てくれるんですよね。そういう方たちは、普通の観光よりもずっと楽しそうに充実した1日を送って、自分たちの力で自然をキレイにできるから来ている。びっくりしますね。
ー今、全国的にも、収穫体験からさらに進んだ収穫支援ボランティアのように、地域産業を手伝って支える社会貢献活動のような観光プログラムが増えていますね。
離島の答志島では、わかめの収穫時期には猫の手も借りたいくらい人がほしいんです。そこではアクティブシニアの方たちが、都会から手伝いに来て作業してくださっています。結(ゆい)プロジェクトといって、水産庁OBの人が中心になってやってくれてるんですよ。ああいうのも仕組みがあればできてしまうんだよね。単純作業ですけどね。やりがいのあるボランティアだと思いますよ。一石二鳥というか。
ーそういったところは、地域おこし協力隊がコーディネーターとして入って双方の信頼を獲得していくような動き方はできそうな感じですね。
ネタはいっぱいありますよ。その人が果たしてくれる仕事も貴重ですけれども、その地域おこし協力隊をコーディネートするために、役所の職員が割いている時間も結構あるんですよね。それは単に来て仕事やってもらってパッとお任せできることではないです。しかもネタがある場所に限って、日常生活というか住む場所というかそういうところをコーディネートするだけでも大変なんで、一朝一夕にはいかないのが悩みですね。
世界に認められる鳥羽商船高専をどう評価するか
ー鳥羽市には鳥羽商船高等専門学校があり、目覚ましい研究成果を出しています。AIを使った漁業の管理システムを開発して、それがMicrosoftのアワードで優秀賞をとってシアトルに招かれたとニュースになりましたよね。かなり先進的な技術を取り入れながら地域の課題解決を進められてると思うんですけども、産学官連携というのはどういうふうに進められてるんですか。
地元に全国的に名を馳せてる鳥羽商船がいるということには、恥ずかしながら最近気が付きました。商工会議所では、商船と連携していろいろやってたんですけど、商船がITの知見や技能を持っていることはあまり意識していませんでした。三重県の方でそういった話を聞いて、漁業で課題解決に繋がることをしていると知って、改めてその存在価値を見直しました。
ー鳥羽商船の卒業生が優秀すぎて、地元に10%くらいしか残らないようです。卒業生のキャリア形成におちては、あまり連携できてないでしょうか?
協定を結んでやっと本格的に連携事業を始めたところです。漁業では、市の水産研究所の職員とドローンを活用した課題解決が始まっています。今はイノシシの獣害対策などにも発展しています。市役所の各課で、課題のヒアリングも始めています。
ードローンは、盗難や密漁防止に活用しているようですね。
ITを使えば、こんなこともできるのか、あんなこともできるのかと、たくさんありますよね。そういった人材がいるのに、就職先がほとんど県外ということは知っていましたので、先日も学生たちに「ぜひ帰ってきてください」と伝えました。帰ってきてくれた時には、行政として起業支援をさせてほしいですね。
鳥羽市には様々な可能性の種が地域のあちこちに落ちているという印象です。それらを統合して表現する上で、「海女」という象徴的な存在がより活きるのではないでしょうか。様々な文脈において、世界でもオンリーワンの存在である海女をどのように表現していくのか、抽象的なイメージはできあがりつつも、具体的な言語化がまだまだ進んでいないという状況です。
市長ご自身は非常に勉強熱心であり、またオープンマインドで少しでも他の地域の良いところを吸収しようといった姿勢で交流を進められていますが、まだ1期目2年目ということもあり行政職員の方々の間には、笛吹けども踊らずといった雰囲気も感じられました。それでも何人かは市長の意向を汲んで、地域の魅力を再発見し始めている方々による動きが始まっています。
※今、注目したい市町村のクニづくり 鳥羽市編第二弾 「市民が主役で行政は黒子。漁業と観光と福祉の連携を通じたまちづくりとは?」に続きます。
取材・文:東大史