浅地 杏子 さん
[東京都]⇔[かつらぎ町・和歌山市]
和歌山市、かつらぎ町、東京に拠点!
ゲストハウススタッフ、シェアハウス運営といった様々な仕事を持つ三地域居住者が目指すものとは?
【職業】
和歌山市:ゲストハウススタッフ
かつらぎ町:シェアハウス運営、農業バイトなど【拠点】
① かつらぎ町(シェアハウス)
② 東京都世田谷区
③ 和歌山市(シェアハウス)【浅地さんの二地域居住ストーリー】
富山県出身で、大卒後に就職した農業関連企業において、出張生活で全国各地を巡ることで日本の地域の力に気づいた浅地さんは、和歌山県海南市で行われていた「みかん援農」の取組に出会う。感銘を受けた浅地さんは、その運営者から、同様の取組を主導できる地域おこし協力隊(かつらぎ町)の募集が始まるとの話を聞き、応募したところ採用される。現在は地域おこし協力隊を卒隊し、和歌山市のゲストハウスで働きながら、東京都内に拠点を構えつつ、地方部における豊かなコミュニティ醸造(コミュニティづくり)に向けて、”実験”と実践の日々を送っている。
この記事の目次
1.多地域居住のきっかけ
「理想の暮らし方の探求」を求めて
農業関連業界に就職し出張生活をしていた時、農業就業者の高齢化、若年新規就農者の多くが経営失敗や地域に馴染めず離農することに疑問を持ち、就農までせずとも一次産業に関われる方法があればいいのにと考えていました。Web制作の会社に転職したあと、旅行先の長野県でシェアハウスの文化を知り、そこにたまたま遊びに来ていた東京の三軒茶屋でシェアハウスを運営する人に出会い、そのシェアハウス(30人程度の多彩な人が暮らす)に入居しました。多様な生き方に刺激を受ける中で、シェアメイトとの旅行先で出会ったのが海南市下津における「みかん援農」でした。
みかん援農は、人手不足に悩むみかん農家の収穫作業を手伝う「援農者」を全国から募集する取組です。毎年11~12月の収穫シーズンになると、40戸程度の農家のもとに、60~70名の援農者が全国から集まります。援農者と農家の出会いだけではなく、援農者同士の出会い・交流も生まれる素敵な取組で、私は感銘を受けました。
そして、しばらくしてこの取組をされている方から、かつらぎ町が同じような取組を主導する「地域おこし協力隊」の公募を始めると教えてもらい、応募したところ2020年11月に着任が決まりました。とはいえ和歌山県に知り合いは一人もおらず、都会の繋がりや暮らしも手放し難いと思っていたので、東京のシェアハウスにも籍を残すことにして和歌山に住民票と本拠点を移して月に1度は東京に帰るという二地域生活がスタートしました。
2.理想の暮らし方を実験する場所(拠点①)
シェアハウスをつくり、援農者を受け入れる
かつらぎ町では、築150年の平屋の古民家を借りています。人口が減少している過疎地域ではありますが、大阪にも程近く穏やかさと便利さが良いバランスで共存した立地に将来的にも地域として存続できる可能性を感じています。こちらに援農者の滞在拠点、居場所と職業と住居の機能を備えた場としてシェアハウスをつくりました。北は北海道から南は沖縄まで、年齢では17歳から70歳代まで、スタートして累計100人近くの援農者を受け入れました。
かつらぎ町は四季を通じて、様々な果物が収獲できる場所で、ブドウの袋掛け作業、柿の摘蕾作業(開花前に蕾を一定数取り除く作業)や桃、ブドウの手入れ作業、梅の収穫など様々な季節の仕事があります。地元の農家は慢性的な人手不足状態にあり年配の農家ほどツテがなく困っている状況です。農家と援農希望者が出会える拠点ができたことで、地域住民にとっても私自身も様々な方と交流でき新しい価値観や文化に触れることができました。そして、援農者にとっても普段と違った暮らしを体験することができる実験特区となりました。
3.ローカルコミュニティの場(拠点②)
地方都市のゲストハウスで働く
援農をきっかけに外部から人を呼ぶことはできても、それは一時的なことで期間が終われば帰ってしまうため継続的ではありません。また、個人の力の小ささを痛感していたので組織に属することに意識が向いていました。そこで、移住当初からお世話になっている和歌山市のゲストハウスで働きながら、ローカルのコミュニティ醸造をやりたいと思いました。
ここは宿泊施設、飲食店、コワーキングスペース、シェアオフィスなど様々な機能を持っており宿泊客はもちろんローカルな人が集まる場所で国内外の様々な人と交流することができます。このような交流を通じて、何か面白いことが生まれるのではないかと、創造性の可能性を感じています。和歌山市内での住まいはゲストハウスが運営するシェアハウス(7人居住)です。現在は、ここが主な滞在拠点になっており、半月はこちらで、残りはかつらぎ町で滞在しています。
4.地方と都市に拠点を構える理由(拠点③)
フラットになれる場所と情報と人を求めて
冒頭で申し上げた東京都内のシェアハウスも拠点にしています。やはり、東京には人と情報が集まります。地方の小さなコミュニティで生活していると視点や常識が凝り固まってしまいますし、東京の拠点には価値観のリセットと視野の拡大と情報収集を求めて月に1回程の頻度で帰るようにしています。外部からの視点はとても重要だと思っています。また、外部の人間でもあるという属性を持つことでついつい近くなりがちな地方の人間関係に適度な距離感を発生させることができるという大きなメリットがあります。過疎地域と地方都市、都会のそれぞれの視点と属性を持てるのでバランスが良いですね。
5.和歌山で暮らすことのメリット・デメリット
大阪へのアクセスの良さ、和歌山県の穏やかな人間性
県内では和歌山市とかつらぎ町に拠点を構えていますが、和歌山で暮らすことのメリットについては2点あると考えています。1点目は、大阪への好アクセスです。豊かな自然環境が広がっているにもかかわらず、大阪に近く、関西国際空港にもすぐに行けますので、海外を含めてスムーズに移動できます。将来的には、かつらぎ町のシェアハウスで宿泊事業をやってみたいと思っており、このアクセスの良さと高野山などの観光資源は魅力的です。メリットの2点目は、和歌山県民の穏やかな人間性です。とても親切な方が多くて今の生活が実現できているのは和歌山の方々のおかげです。
和歌山で暮らすことのデメリットは、地方で生活する上で共通していますが車が欠かせないということと娯楽が少ないことぐらいで、それほど苦ではありません。地方暮らしの最大のデメリットである人間関係の近さは上述の通り、都市にも拠点を持つ外部の人間という属性が回避してくれます。
6.これからの暮らし方・活動の展望
地方と都市で人、資源、経済が循環する相互性コミュニティを創出する
多地域居住の実践には家賃や時間、体力などそれなりのコストを要しますが、それ以上に得られる知見や経験に大きな価値を感じています。これを続けるには安定した収入を得る必要があり、まず会社員に戻ることにしました。またシェアハウスの機能を多角化させたいと考えています。
かつらぎ町には山間部や農地で景色が良い場所も多く、観光資源が豊富です。近隣の観光農園と連携できれば農業の三次産業化(観光化)を行い、その拠点としてシェアハウスを活用できないかと考えています。また、援農で関わっていただいた農家とともに農産物の加工品開発も行ってみたいです。これらの活動を通じて、人口減少が続く地域と都市とでお金や人が循環する仕組みを持つ相互性コミュニティを生み出すことができるのではないかとの仮説を検証すべく、まずは和歌山から実験していきたいです。