若手移住者と島外メンバーが手を組み、新しい島の魅力を発信

東京から飛行機で約30分(調布~新島間)、高速船で約2時間半。伊豆諸島の新島で、新たな取り組みが始まっています。2024年春、移住者と島外メンバーが手を組み立ち上げた「合同会社るとり」。
彼らは農業と観光を組み合わせた新しい島の魅力づくりに挑戦しています。

今回の取材では、10年前に移住し、塩作りや農業を営む代表の斉木佑介さんを中心に、東京や山梨など各地から約月1回のペースで新島を訪れるメンバー(副代表の萩野さん、営業担当の中村さん、エンジニアの荒川さん、デザイナーの奥田さん)にお話を伺いました。

それぞれが本業を持ちながら、新島との新しい関係づくりに取り組んでいます。

▼「るとり」が目指す新しい島の魅力づくり

透明度抜群の海で、マリンアクティビティが人気の新島

「合同会社るとり」は、新島に集まった個性豊かなメンバーたちが2024年6月に立ち上げた会社です。きっかけは、2023年度に東京都が実施した「地域との縁づくりプログラム」。このプログラムは、島の人と島外の人が一緒になって、地域の課題を新しいビジネスのアイデアで解決していこうという取り組みでした。

プログラムでは「100DIVE」というスタートアッププロジェクトを活用しました。地域が抱える課題を解決することは、実は未来の日本全体が直面する課題を解決することにもつながる——そんな考えのもと、アイデアを出すだけでなく、実際に動き出す人たちをサポートする場として機能したのです。

「新島において海以外の遊びの場を増やしていくことが目標です」と話すのは、塩職人であり「るとり」代表の斉木佑介さん。

メンバーは新島在住の2名(塩職人の斉木と宮原酒造の櫻井)に、島外から5名が加わっています。通信事業の専門家、デザイナー、地域商社で活躍する人、システム開発者と、まさに七色の個性が集まったチーム。それぞれが本業を持ちながら、新島での新しい取り組みに力を注いでいます。

月約2回のオンラインミーティングをベースに、メンバーの誰かが必ず月1回は島を訪れて活動を進めています。この取り組みについて、副代表の萩野さんはこう語ります。

「自分自身の勉強にもなるし、本来やりたかった新島のためにもなる。自己成長と地域貢献の両輪で進められることが、この活動の醍醐味です」

▼10年の島暮らしから見える新島の魅力

「るとり」代表の斉木佑介さん

斉木さんが新島に移住したのは、20歳の頃から親交のあった先輩からの誘いがきっかけでした。ニューヨークでの3年間の生活を終えた直後、「新島で店を開くから手伝わないか」という一言に、迷わず応じたそうです。

当時は島のイメージが全く湧いておらず、未知数だったといいます。ただ単純に、海が綺麗で空が広く、いいところだなと感じていたとのこと。その印象は今も変わらないものの、10年の暮らしを通じて、新たな魅力も見えてきました。

「この規模感がすごくいいんです。町の中心部がコンパクトにまとまっていて、役場やゴミ捨て場など、生活に必要な場所が車で5分圏内にある。何か自分がやろうとする時に、協力者がすぐ近くにいるのも心強いですね」

移住当初は飲食店のスタッフとして働き、2018年には居酒屋「サンシャイン」を事業継承。その後、天然塩づくりを始め、2024年からは農業にも挑戦しています。特に最初の7年間は地域活動には関わらず、自分の生活で精一杯だったと振り返ります。しかし、その間に築いた地域との関係性が、今の活動の土台になっているのです。

島の暮らしと新たな風

「移住した当時は、自分が移住者だとは考えもしませんでした」。そう話す斉木さんですが、近年、新島にも新しい風が吹き始めています。外から来た人が家を購入して定住したり、新たな事業を始めたり。そんな動きが少しずつ増えてきているのです。島での暮らし。最大のハードルは住まい探しです。空き家バンクはあるものの、登録件数は少なく、島民の方も家を探しているため取り合いになるのが現状。家賃相場は一軒家で4万円程度と、東京と比べれば手頃な金額ですが、物件自体が少ないのです。

「やりたいことがはっきりしすぎている方ほど、なかなかハードルを下げられないんです」と斉木さん。「それよりは、新島が好きだからという理由で、最初は仕事を選ばずに入ってきている方の方が、長く定住できているように感じます」

▼東京から最短30分。でも、別世界

時間が止まったような穏やかな夕暮れ。新島の海岸から望む夕日

るとりのメンバーたちは、それぞれの視点で新島の魅力を語ります。副代表の萩野さんは、新島の魅力を「海・山・人」という3つの要素で表現します。海と山両方の自然があり、そこで暮らす人々の温かさ。これほど豊かな環境がある場所が、東京から最短で30分という近さに最初は驚いたといいます。

山梨と北海道を拠点に活動し、月1回は必ず新島を訪れるという営業担当の中村さん。「まるで時間が止まったような場所。こんなに進化していない場所が残っているなんて」と、初めて訪れた時の印象を語ります。24時間入れる露天の温泉があり、朝日と夕日が同じ島で美しく見られる。都会の喧騒からわずか30分で、ここまで違う世界に出会えることに魅了されたそうです。

システム開発を手がける荒川さんは、休日にはダイビングで全国の島々を巡っています。
「私はダイビングで色々な島に行きますが、新島の
何もないのが逆にいいんです」。
観光地だと観光スポットを巡らなければという気持ちになりますが、新島は自然をゆっくり楽しめる。外の人を受け入れてくれる風土があるからこそ、また来たくなる場所なのだそうです。

▼大地を耕し、関係を育む

2024年から農業にも挑戦

今年から農業を始めた斉木さん。周りの若い世代が農業に興味を持っているのを感じ、開墾から収穫までの農作業を、楽しみながら手伝ってもらえるような仕組みづくりを始めています。既存の農家さんの協力を得て畑を見せてもらうツアーを実施したり、収穫体験の機会を作ったり。一年を通じて新島に来た人が楽しめるコンテンツとして、少しずつ形になってきています。

現在では小学校、中学校、高校での授業にも関わるようになりました。それぞれ15人程度の小規模なクラスで、新島の特産品である七福芋(あめりか芋)のブランディングを小学6年生と一緒に考えたり、地域の生産者として子どもたちに話をする機会もあります。

地域の小中高生との関わりも!

 

関係人口としての新しい形

るとりの拠点。ここをリニューアルして宿泊施設にする予定

るとりのメンバーたちは、本業を持ちながら月に1回から数ヶ月に1回のペースで新島を訪れています。「友達の家に遊びに行くような感覚」と奥田さん。島での自分なりのルーティンができ、地域の人々との関係も徐々に深まってきているといいます。

メンバーはそれぞれの専門性を活かし、デザイン、営業、システム開発など、役割分担をしながら活動を進めています。2025年夏には新たな宿泊施設のオープンを目指し、準備を進めているところです。観光と農業の枠を超えた、新しい体験の場を作り上げようとしているのです。

「私たちのような形での関わり方もあると知ってもらえたら」と荒川さん。新島という場所で、移住でも観光でもない、新しい関係性が生まれつつあります。斉木さんは最後にこう語ります。「新島は何かを達成する場所ではなく、フワッと来て楽しむ場所だと思います。資源が少ない新島だからこそ、新しい価値を生み出せる人に向いているのかもしれません」

穏やかな波音が響く港町。移住者と関係人口が織りなす新しいコミュニティの物語は、始まったばかりです。

新島村の暮らしについては、新島・式根島の移住定住移住ポータルサイトで詳しい情報をご紹介しています。

東京での新しい暮らしに興味をお持ちの方は、東京都が運営する東京たましま移住定住ポータルサイトや、地域との関わり方を提案するプラットフォームSMOUTの特集ページもご覧ください。

新しい暮らしのヒントが見つかるかもしれません。

また、合同会社るとりの活動や最新情報は、公式Webサイト https://rutori.com/
でもご覧いただけます。
移住や地域とのつながり方を検討されている方は、ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。