豪雨や地震などの災害で、各地で一次的な減少は見られたものの、海外からの日本への来訪観光客数、いわゆるインバウンド観光客は、今年も伸びそうです。12/14に石井啓一国土交通相が、記者会見で2018年の訪日外国人数について、3,000万人を突破するとの見通しを明らかにしたそうです。(出典:時事通信社 12月14日記事) 2017年は2,869万人だったので、およそ5%の伸び。昨年ほどではないものの、引き続き堅調と言えるでしょう。そのインバウンド観光客に関する数字で、1位が京都府、2位が千葉県、3位沖縄県というものがあります。これはどんな指標かわかりますか?

勘のいい方ならピンとくるかもしれません。これ実は、「インバウンド観光客の人口比率」なんです。 つまり、「県民1人あたり、どのくらいのインバウンド観光客を迎えているか」ということ。単なる観光客数の絶対値よりも、「集中度」や「偏り」が実感値に近い形で現れる指標になると思われます。ふと気になり、昨年の数字で都道府県別に一覧にしてみました。実は同様の数字がどこかに無いかと検索してみたんですが、うまく探せなかったので、意を決して作ってみた次第です。

こうしてみると、全国1位が京都というのは、すぐに合点がいきますね。最近の京都の様子は、正直尋常じゃないくらいの外国人観光客の多さ。少し前に出張した際も、大げさではなく、むしろ日本人より多いのではと思えるくらいでした。あまりにも人が多いので路線バスに乗れなくなったとか、日常生活に様々な支障が出始めているという話もよく耳にします。それもそのはずですね。なんと京都の人口260万人に対して、インバウンド観光客はすでに1,000万人近くも来てるんですから。人口比380%は、あのシンガポールの約2倍という凄さです。

2位が千葉県というのも、すぐに想像がつきます。明らかに「成田空港」と「東京ディズニーランド」の影響でしょう。来訪客数も東京、大阪に続く第3位ですが、少し特殊な環境ですので、街中での感覚とはそんなに沿わないのかもしれません。むしろ滞在率や県内での回遊が課題かもしれませんね。

3位の沖縄も納得です。数年前から仕事で頻繁に沖縄に通っているので、その観光客の増え方は肌で感じます。次から次へと新しいホテルができるのも、それを象徴しています。人口が149万ちょっとなので、そのインパクトも大きいはずです。

それにしても、1~3位どころか、上位19の兵庫県くらいまで、インバウンド人口比率で見ると既に軒並み世界の観光先進国並になっていることがよくわかります。インバウンド観光客の地域的な「偏り」の激しさを改めて痛感します。全体の数字は伸びているのは喜ばしいものの、この「偏り」をなんとかしなければならないのが、まさに観光立国の最大の課題ですね。最近は「観光公害」とか「オーバーツーリズム」という言葉も、よく耳にするようになってきました。地域住民にとってメリットになってこその「観光」です。これを乗り越えて初めてそれが誇れる国になれるんだと思います。

この「インバウンド観光客人口比率」という数字は、あのデービット・アトキンソンさんの「新観光立国論」などの著書でも紹介され、その考え方が広まりました。都道府県単位ではなく、市区町村でもその数字を追えるようになれば、地域の様々な観光施策にも役立つ指標になるかもしれません。

文:ネイティブ倉重

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【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。