久慈市は2013年朝ドラ『あまちゃん』のロケ地で知られ、北限の海女が今でも潜りながらウニやアワビを採っています。2011年東日本大震災の際には、津波によって漁港や街なかが壊滅的な被害を受けましたが、被災地の中でもいち早く復興し注目を集めました。2016年には台風10号によって再び街が浸水被害に見舞われます。津波や豪雨など自然災害を何度も受けながら、すぐに復活するといった地域のレジリエンスはどのように生み出されているのか、愛着を持つまちづくりを目標に掲げる久慈市を取材しました。
岩手県久慈市 地域づくり振興課係長 二又 壽大さん
- 統率(リーダーシップ)72
役所では地域づくり・女性参画係長として、地域では久慈市巽町の町内会事務局長として、若者と年長者を結び付ける中堅の役割を果たしている。行政と住民の立場を使い分けることで、地域主体のまちづくりを持続可能にしていく縁の下の力持ちとなっている。 - 武勇(行動突破力)92
秋祭りの山車組運営では行動的人物となり、高校生地域活性化団体INSPIREの活動には伴走するなど、様々な地域活動の扇の要として動き回っている。また東京で久慈ファンが集うふるさと交流会を取り仕切るなど、様々なアイディアを実現していくために行動を惜しまない。 - 知略(ビジョン)75
高校生や若者たちの主体性を引き出すための内発的動機づけを進めるために、敢えて自分の考えを押し付けたり指示することはしていない。若者たちから出てきたアイディアを実現するために、様々な関係者やネットワークを駆使していく関係性づくりを重視している。
- 政治(内政外交)73
自らが出世して影響力を発揮するよりも、地域活動が持続可能になるように行政職員としての立場と地域住民としての役割をごちゃまぜにして日々動いている。市民センターを軸とした地域活動など、様々なプロジェクトに伴走しながら実現の後押しをしている。
記事のポイント
- 高校生が自主的に地域活動を企画・運営
- 東京では大人たちがふるさと交流会を定期的に開催
- 市民のアンデンティティ「秋祭り」を後世へ受け継いでいく
高校生がまちに飛び出した「INSPIRE」
ー久慈市では、中高校生の海外派遣経験者がINSPIREというまちづくりサークルを立ち上げましたね。
海外に行って、改めて地元のことを考えるようになった高校生たちがいます。INSPIREという団体を立ち上げ、名物・まめぶ汁のアレンジレシピを考案したり、小学生と一緒に街なかでクリスマスコンサートを実施しました。
立ち上げた子たちは高校を卒業して市外に進学しているのですが、帰ってきた時はINSPIREのことや久慈のことを話してくれます。高校生が自分たちのできる地域活動を実践する、そんな小さな成功体験が久慈に対する愛着を高める結果に繋がっています。
また後輩たちが引き継いで、代替わりして活動を継続しています。Twitterなど、ソーシャルメディアを駆使して久慈の良いところを発信してくれているのが今風で頼もしいですね。
INSPIREのTwitterでは高校生がリアルタイムで活動を発信
ー一代限りで終わらずに、受け継がれているんですね。
現在4代目の子たちが加わり賑やかになっています。商店街に拠点を設けて、そこにミニFMを開局しゲストを招いてトーク番組をしたり、高校生たちが自らのアイディアを形にしていっています。全国高校生マイプロジェクトアワード2016では、全国大会に出場してベストコラボレーション賞を受賞したのですが、予選にエントリーしたことをはじめは知らなかったんですよ(汗)。彼らのバイタリティには敬服です。
職場で若者たちに活躍してもらえるまちづくりをしようと計画をつくっていますが、彼らは別に予算も必要なくて、お菓子とジュースがあれば会話が弾み色々なアイディアがあふれ出て実践します。大人たちが会議で集まってう〜んと唸りながら議論するより行動がとにかく早い。予算を付けてくれるならおやつ代があれば大人達がINSPIREされるのではと言ってます(笑)。
INSPIREの高校生たちが、郷土料理まめぶ汁のアレンジレシピ開発という企画をやったんですが、高校生たちがふるさとの味を考えて、継承していく。単に昔ながらのものを維持して守っていくだけではなくて、新しい要素も加えながら数多くの楽しみ方を郷土に見つけていければ良いですね。この企画を終えた彼らはこう言いました、「あえて遠回り(アレンジ)して本当(オリジナル)の良さに気が付いた」と。進学や就職で久慈市を離れることを遠回りと考え、多くの若者が久慈の良さに気づき、いつか遠回りで得たスキルを久慈で発揮してほしいと思います。
ー高校時代にこのような経験ができるのは大変貴重だと思います。
高校生って大人が思っているより自由な時間が限られているんですよね。近頃はINSPIREに色々な団体などからイベントの手伝いをしてほしいという話が来るようになりました。沢山の関係を作ることができる利点もあるし、単に何でもいいから社会の役に立ちたいという子もいるのでボランティアで運営を手伝うという形も必要だとは思います。でも、INSPIREのメンバーには、企画に加われないものや事業の趣旨がINSPIREの活動目的に合わないお手伝いは遠慮していいとアドバイスしています。やることが決められているお手伝いは労力の提供でしかなく、貴重な時間は自分たちの活動に使ってほしいと思うので。時間に関しては彼らにもう一つアドバイスしていることがあります。ワークライフバランスっていう言葉があるじゃないですか。高校生なのでスタディライフバランスを考えましょうと。
INSPIREが新たな企画としてたくさんの高校生を集めた久慈市を考えるワークショップを検討しています。ワークショップの結果は市長にプレゼンするんだとか、みんなで考えたアイディアは必ず形にするとか張り切っています。実は、INSPIRE以外の高校生にも「地域」に関心を持っている子がいます。思いがあってもどうのように取り組めるのかわからずに高校生活を終えていく子もいます。ですのできっとこの企画で一歩を踏み出せる高校生と会えるのではと期待しています。限られた時間の中で地域のためにワクワクしている高校生とここに住む人たちみんなが一緒に久慈にワクワクしていけるといいと思います。
久慈を好きになってもらうふるさと交流会
ー東京でふるさと交流会を定期開催されていますね。
最近では、あまちゃんを観て久慈のことを好きになってくれた方が増えてきています。もっと色んな要素から久慈のことを好きになってもらいたいというのがふるさと交流会です。久慈出身者だけでなく、応援してくれる方、興味のある方などたくさんの方々が参加してくれます。
今年は虎ノ門にある、くろきん本店で開催いたしました。飲食店は持ち込みを嫌がるところもあるのですが、こちらではいろいろ要望を聞いてもらい、久慈から様々な食材を送って上手く調理してもらうことができました。中でもこの地方で昔から食べられている地きゅうりのスティックなどは好評でした。素朴な味なんですが、みんな懐かしい、美味いって言ってくれるんですよ。
くろきん本店を運営するゲイトさんには本当に良くしていただいて、サンプルを持っていってたった一度打ち合わせしただけで、きっちりとこちらの要望を実現してもらいました。東京にこういったふるさとの味を楽しめるお店が増えると、関係人口も増えると思っています。
ー旬の地のものを食べるのが本来は理想的ですよね。
一年を通じて同じものを食べられるじゃないですか、でもせっかく久慈を味わってもらうのだから時季もプラスしました。鮮魚の刺身は前日までに久慈港に水揚げされたものだけ、時化で水揚げがなければ無しだったのですが幸いにもイナダが揚がり事なきを得ましたが。やっぱり一番美味しいのは、その地域の気候風土に合った食べ物を旬の時期に食べることですよね。
秋祭りが、究極のまちづくり
ーちょうど秋祭りの時期にお伺いすることができたのですが、圧巻の盛り上がりでした。
秋祭りは久慈がもっとも盛り上がる日です。春からコツコツと準備を進めて、今年の山車の飾り付けはどうしようとかみんなで議論しながら、夜仕事が終わったら集まって作業して作っています。
しかも毎年バラして、次の年にはまた違う飾り付けにしようといった形で継続しています。もちろん、みんな仕事しながらで大変なんですよ。でも、これがないと久慈じゃない。他所に出ていった人も祭りの日には帰ってきます。久慈のアイデンティティが詰まった行事です。
ー子どもたちの姿も目立ちます。
町内の子どもたちには、秋祭りのほか盆踊りなど地域の行事に参加してもらい、将来は自分たちが継いでいくのだと認識してもらうようにしています。自分自身も、子どもの頃は面倒だと思ったこともあったのですが、当時の大人から教えてもらったことやしてくれたことを次世代に繋げていくことはとても大事なことなのだと、今になって思いますね。
小学校6年生が山車の上で太鼓を叩く、中学生が笛を吹くなど学年ごとに役割があります。小さな子はいずれ自分がするものだと憧れを持っています。今年面白い出来事がありました。中学生が音頭あげの際に誰に言われるでもなく、甲子園の金足農業スタイルで観客を沸していました。子供たちなりの盛り上げるアイディアだったようで、この子たちならきっとこの祭りを続けてくれると実感したところでした。
ー地域の行事はコミュニティの要
祭りがある地域に生まれてはじめは不幸だと思った時期もありました。でもそれは地域のことをちゃんと考えたことがなかったからだと思います。何をするにしても人が必要です。うちの町内会は祭りがあることによって人が集まり議論し祭り以外のことも考えることができる環境があります。実際に祭りを通して地域の環境整備や消防団に参画する若い世代がいてくれます。今は、祭りがある地域に生まれたことを幸せだと思います。
久慈市に訪れたときはちょうど秋祭りのタイミングで、市役所の方々にはご多忙のところ様々な対応をしていただきました。東北人らしく、普段は慎み深いのに祭りになると勇壮に山車を引いて駆け回る姿は、何百年も続いてきてこれからも受け継がれていく文化なのだと実感することができました。
祭りは北国ほど派手になるという傾向があります。一年間、じっくりと準備して収穫や無病息災を祝う祭りで喜びが爆発するというのは、産業構造が変わった現代においても深く久慈の人々のアイデンティティに息づいています。
しかし、久慈市も多分に漏れず少子化が進んでおり、子どもたち・若者は貴重な存在となっています。大学がなく、仕事も少ない久慈市でどのように暮らしていくのか。市長もそう語られていたように、経済的な課題をクリアするだけでは決して久慈に戻ってくることはないでしょう。小さな頃からの原体験をどのように持ち、若者の主体性を大人たちが応援・後押しできるかが長い目で見た地域おこしの究極の形なのだと感じました。
取材・文:東大史