地域おこし協力隊は、人口減少や高齢化が著しい地域において、地域の活性化や地域振興など「地域を盛り上げること」を目的に設けられた制度の1つです。自治体が外部から人材を受け入れ、隊員が地域の特性に応じた活動を行います。
福島県中部に位置し、自然豊かで四季折々の美しい風景が楽しめる福島県田村市。県外から移住した地域おこし協力隊員がさまざまな活動を行ない、まちに新たな魅力を生み出してきました。今回はその1人、田村市の元地域おこし協力隊の菅野千恵子さんをご紹介します。
「自分が本当にやりたいことは何なのかに、真剣に向き合った3年間だった」と振り返る菅野さん。協力隊としてどんなことに挑戦し、どんな学びを得たのか。活動の中でぶつかった壁や、卒隊後の今に生きていることなどを、飾らない言葉で語ってくださいました。田村市や地方での挑戦を考えている方は、必読の記事です!
◼️ 菅野千恵子さん
福島県田村市出身。東京で13年間、和菓子屋の販売員として働いた後にUターンし、2020年6月に地域おこし協力隊として着任。2023年6月に卒隊を迎えた後はフリーランスとして独立し、現在は複数の仕事を並行して行う“パラレルワークスタイル”で活動中。
地域おこし協力隊として歩んだ、挑戦と成長の3年間
ー 地域おこし協力隊として田村市に来ることを決めたきっかけは?
東京で暮らしていましたが、満員電車や情報の多さ、人間関係などのストレスが重なり、疲れ切ってしまっていました。気分転換に帰省した際、幼い頃に行った片曽根山でリフレッシュしようと立ち寄ったところ、山頂から見た田村市の景色を見て心が洗われ、漠然と「生まれ育ったこのまちのためになることがしたいな」と感じました。帰り道、たまたま遠回りをして郡山に向かっていた時にテラス石森の前を通り、廃校をリノベーションした施設であることを知りました。地元の人がまちおこしのために立ち上げた拠点であると分かり、何か導かれているような感覚がして、自分も一緒に何かできないかと思うようになりました。当時勤めていた会社を退職しようと考えていたことも重なり、「地元で職があるなら」と希望が持て、Uターンを決めました。

片曽根山。山頂からは、船引町や遠く連なる山々まで見渡せる
ー 着任後はどのような活動をしていましたか?
移住を希望する方からの相談業務や、農業イベントの企画運営といった活動を行っていました。今でこそ増えましたが、私が入ったばかりの頃は農家さんとのつながりがゼロで、それを作るというのが最初のミッションでした。農家さんのリストを手に片っ端から電話をして、「会いに行って話を聞いても良いですか?」と、怖いものなし精神でつながりを開拓をしていきました。

田村市に移住し活動する方へインタビュー
ー 地域の方々との関わりで、印象的なエピソードはありますか?
農家さんとの関わりが多かったのですが、誰一人として、嫌々仕事をしている方がいなかったということです。協力隊になる前の私は、会社員として、嫌でもやらないといけない仕事があったり、特にやりがいなくやっていた仕事もあった中で、こんなにも楽しく仕事をしている方がいるんだなと思いました。自分の働き方について、真剣に考えるきっかけをいただいたのは間違いありません。

「遊休農地を減らして地域の農村環境を守りたい」と就農した、松や農園の佐藤さんご夫妻と
ー 活動の中で特にやりがいを感じた瞬間は?
移住相談で携わった方が、移住後に笑顔で、とても幸せそうに暮らしている姿を見た時です。人生が変わる大事なタイミングでお手伝いができてよかったと、やりがいを感じました。また活動を通して、苦手と思っていたけれど実は案外得意なのかもしれないと思えることが、たくさん見つかりました。例えば人前に立って話すことや、場を仕切ること。苦手だしやりたくないと思っていましたが、「菅野さんが話してくれると場が和む」と言ってもらえることが増え、イベントの司会やファシリテーションする力が自然と身につき、卒隊後には司会者という仕事にもつながりました。これは入隊当時には、全く想像もしていないことでした。

「ABUKUMA うんめぇFES in 横浜赤レンガ倉庫」での司会の様子。田村市の農産物や特産品の魅力を十二分に伝えた
ー 活動してみて一番成長できたと感じることは?
「できないことにどう向き合うか」ということです。まったくの業種違いからの転職だったため、とにかくパソコンを使った業務が何一つこなせなくて、本当に苦労しました。「できない、できない…」と、当時はそのことばかりに気持ちが傾いてしまい、辛くてたまらなかったのですが、その度にまちづくり法人(一社)Switchの代表から「じゃあ、どうやったらできそう?」と声掛けをしてもらったことは、今の自分の仕事のやり方にも生きています。感情と事実を切り分けて捉え、冷静に解決策を考える力が身につきました。資料作成スキルも、今役立っていることの一つです。協力隊時代は「書類が多くて嫌だな…」と思っていましたが、フリーランスになってから大いに生きています。
ー 活動において大変さを感じたとき、どう乗り越えましたか?
キャパオーバーになり、「もう自分にはできない」と退職届を出したこともありました。しかし、仲間や代表がとことん話を聞いてくれ、乗り越えることができました。そうした人たちが、自分より何倍も頑張っている姿を間近で見ていたので、「私ももう少しだけ頑張ろう」と思うことができました。また仕事以外で、息抜きになることを見つけるようにしました。知り合いの農家さんや畜産農家さんのところへお手伝いに行ったり、イベントスタッフのアルバイトなどをしました。働く選択肢が一つではないと感じられたり、一緒に働く方の仕事に対する想いなどを聞いたりして、とても勇気づけられました。

共に励まし合い活動した、地域おこし協力隊の仲間たち
卒隊後は得意なことを仕事に。模索の末にたどり着いた自分らしいパラレルワーク
ー 卒隊後の進路はどのように決めましたか?
やりたいことが特になく、卒隊後どうしていくかはギリギリまで悩みました。ただ、嫌々仕事をすることだけはしたくなかったので、「自分が得意なことをやろう」と決めました。
はじめからフリーランスになる覚悟はなかったものの、ひとまず需要の高いWebスキルを身につけようと、オンライン講座でデザインやマーケティングの知識を学びました。結果的に、興味があることを突き詰め、「デザイン×SNS×コーチング×司会×ヨガインストラクター」という、いろいろな働き方をするスタイルになりました。

協力隊時代に、ヨガコミュニティ「inaka de yoga」を立ち上げ。リアルやオンラインでレッスンを行う
ー 現在の仕事内容や、パラレルワーカーとして働くメリット・大変な点は?
現在は完全在宅で、Instagramの投稿デザインやショート動画の制作、資料作成といった、デザイン業を中心にお仕事をしています。またWebスクールで、初心者の方向けにデザインを教える講師業や、昔の自分のように在宅ワークをしたいと悩む方のコーチングなどもしています。さらに週に1回、ヨガインストラクターとして、リアルやオンラインでヨガのレッスンをしながら、自分の健康管理も趣味のように行っています。
朝はゆっくり自分のペースで起きられるし、気分が乗らなかったらカフェに行って仕事できたりと、自由度が高いのが何よりの魅力です。大好きなペットとずっと一緒にいられるのも、家事をしながら仕事ができるのも、最高だと思っています。やりたいことが多すぎて、いつも時間が足りません。笑 大変なことは、スケジュール管理や力の抜き加減の調整です。サボるのも頑張るのも、自分次第ですから。今後は、旅をしながら仕事するのが目標です。

チャレンジショップ「ふらっと」でのSNS活用講座
ー 田村市で暮らす・働く魅力を、どんなところに感じますか?
とにかく癒される景色があることです。山の上での開放感や、ハッとするくらい美しい夕日などを日常的に見られる体験は、都市部では得られないものだと思います。また、決して華やかではないけれど必要最低限が揃っているちょうど良さや、人がみんな優しくてあったかいところも魅力です。「困った時はお互いさま」という精神や、助け合いの心が自然と根付いているなと思います。車の渋滞が無いのも最高です。
地域おこし協力隊で新しいキャリアを築こう!
ー 地域おこし協力隊に向いているのはどんな人ですか?
野心に溢れた人や何か成し遂げたいことがある人にはぴったりと聞くことがありますが、「自分に自信がない、強みややりたいことなんて何もない」という人にこそ、やってみてほしいです。私がそうだったように、任期中の3年間で、自分が本当にやりたいことは何なのかということに、真剣に向き合えると思います。私が協力隊を経験して得た一番大きなものは、チャレンジ精神です。とにかくやってみないとわからない!ということ。「やってみてダメだった」は失敗ではなく、何もしないことが失敗なんだと分かりました。
ー 田村市や地方での挑戦を考えている方に一言!
キラキラしたイメージのある地域おこし協力隊ですが、実はとっても泥臭く、地味で、忍耐強くやらないといけないことの方が多いかもしれません。それが辛いと感じることも、もちろんたくさんあるのだけど、その中にあるメッセージを前向きに受け取れる人には、きっと思いもよらぬ大きな成長が待っていると思います。私もまさかフリーランスになろうなんて、入隊当時は1ミリも思っていなかったので、3年間で物事に対する考え方が変わったなと実感しています。決して楽ではありませんが、必ず自分を変える大きなきっかけになると思います。自分の中の常識を覆す、影響力のある人がたくさんいるのが、田村市の何よりの魅力です!
菅野千恵子さん
Instagram:https://www.instagram.com/inaka_de_yoga/
この記事を読んで田村市での生活に興味を持った方、移住を検討している方は、お気軽にたむら移住相談室へご相談ください。
たむら移住相談室
Web:https://tamura-ijyu.jp/
電話:050-5526-4583
メール:contact@tamura-ijyu.jp
※たむら移住相談室は株式会社ジェイアール東日本企画と(一社)Switchが共同で運営しております。