神戸市の戦略と符合

5年前まで、ドイツに本社がある木材メーカーの日本代理店に勤めていたというヤマサキさんは、なぜ六甲山の木を手がけるようになったのだろうか。始まりは、週末の時間を使ったカホン(ペルー発祥の木製打楽器)づくりのワークショップだった。

「若手の林業家の人たちと林業を盛り上げるために何かできないかと話している中で、カホンが面白いんじゃないかと言ってつくり始めたんです。そうしたら、各地の森林組合から反響がありました。一様に『木を伐っても出口をつくるアイデアがない』という課題を抱えていたんですね。気づいたら、週末ボランティアで青森や九州に行くワークショップ屋さんになっていました。」

週末だけでは回しきれなくなった時、ヤマサキさんは国産材を生かす事業を立ち上げるために会社を辞め、独立を決意した。それでも、神戸市から声がかかるまで、六甲山の木が使えるとは思っていなかったという。

マルナカ工作所は、神戸港からの海風がわたる地区にある

「六甲山の木のルーツは明治時代にさかのぼります。豊臣秀吉が大阪城をつくる石を切り出すため、六甲山の木を伐採してしまった。だから、明治時代の後半ごろの六甲山、中でも『表六甲』と呼ばれる港側は真っ白に見えるハゲ山だった。神戸市はそこに、3年で300万本ぐらい防災のためにナラやカシやクスやサクラといった広葉樹を植えました。もともと建材用に伐って売って植えて、という山じゃないので、伐ってはならぬという時代が続き、120年の時を経て大木化してしまった。そうなると、今度は木どうしが喧嘩して倒木が多発し、山が崩れ始めてきた。そこで、神戸市は2014年に六甲山森林整備戦略を立ち上げ、手入れに乗り出した。その時の計画書に、デザイナーと協働して六甲山ブランドのものづくりを目指しますと書いてあるんです。」

ものづくりの計画を動かそうというタイミングで、神戸市の行政官がTuKuRuを尋ねた。TuKuRuは、元町商店街にあるシェアギャラリーショップで、市内で活動するクリエイターが集っている場所。そこで、店主の東村奈保さんがヤマサキさんを紹介したことで、六甲山とヤマサキさんがつながった。

「最初お話をいただいたとき、『え、六甲山の木って伐ってもいいんや』みたいな印象でした(笑)じゃ、やってみましょか、という感じで、『土木事業で倒された木をとりあえず山からおろして何か作ってくれ』みたいなのから始まって。僕らも手探りで、ワークショップをしながら木工が趣味の人たちと『どんなものに使えるかな』というところから始めていきました。広葉樹って、杉、檜と違って曲がった木が多いんですよね。だから、建築の柱とか梁にするのは難しいんですよ。個性が強くて。なので、まずは木の卵をつくりました。ワークショップで木の卵を子どもたちに配って、絵を描いてもらったりしながら『六甲山の木って使えるんだよ』って広めていきました。」

木はアイデア次第で多くの使い道が開発できる

そうこうするうちに、有馬温泉側の裏六甲ともつながった。裏六甲は表六甲とは異なり、民間の地主が所有し杉・檜を植えていた。ところが、地主は林業家ではないので手入れはするが伐った木を売る労力はかけない。ヤマサキさんにとっては眠れる資源。裏六甲の木を山で買って、ビジネスのひとつの柱にしたいと考えている。

「和田岬(神戸港に面する岬)にこれまた1軒だけ、製材所が残っているんです。そこも、やはり港町ならではで。昔、インドネシアとか東南アジアから大きな原木を輸入して丸太を挽いて、関西エリアに卸していた。人件費が圧倒的に安い海外で製材してから輸入するようになるにつれて、製材所もどんどん潰れていった。それでも、丸太を挽くのをやめてもっと小さいものをつくるようになった工場や、今まで輸入剤を扱っていたような会社はわずかながらに残っています。そこで、それらの工場をネットワークして、マルナカ工作所を軸にみんなに協力してもらって、六甲山の木を世に打ち出して行くことも始めています。」

木のシェアリングエコノミー

マルナカ工作所が商品企画やマーケティング機能を担い、市内で木を扱う工場や業者を束ねて製造と流通能力を向上させる。みんなの“持ち寄り”で六甲山の木をビジネスベースにのせようという、SHARE WOODSの文字どおりのシェアリングエコノミー的な発想だ。

画一的なホテルの客室と比較して、AirBnbの貸し部屋が多種多様であるように、ヤマサキさんがつくるウッドビジネスも多様性に溢れている。

「商品開発は、行き当たりばったりです。これと決めた商品をつくるのではなく、木を見て決める。普通は、板から発想するじゃないですか。でも、僕らは丸太から発想します。丸太って、小さいものから大きいものまであるから、当然、板にできない木もあるんですね。そういう木って、既存の流通ではチップにするか、焼却するかしかない。でも、付加価値を上げようと思えばアイデアも出てきます。細い丸太をくり抜いて植木鉢を作ったりとかね。板をとったあとの丸太の端っこだって、野菜のヘタみたいなもので捨ててもいいようなものなんですが、なんかおもしろいじゃないですか。例えば、食材を載せるプレートに加工したら、需要はあるんですよ。」

同じ木を扱う商売でも、銘木屋とは客層が異なる。マルナカ工作所では、銘木屋から安く引き取ったという残り材も出番を待っている。

集まった材木が出番を待つ

「銘木屋さんの何十万の仕事と、僕らみたいな仕事は違うんで。そういう会社にあっても売れない、残ったパンの耳みたいなのをうちがもらって付加価値つけて。無駄なく使いたいという考えがベースです。たまに材木市みたいなのをやって、イベント的にコーヒーとかピザとか出して、『ご自由にどうぞ』という場をつくったり、木工教室を開催して使ったりもします。」

隠れた可能性を引き出す

現在は無垢フローリングや壁・天井材など、住宅やオフィスなどに使われる木質系内外装材の輸入販売業をキャッシュエンジンにしているが、SHARE WOODSの活動だけで経済的に自走できるようになることが当面の目標というヤマサキさん。木工教室と、デザイン・加工の仕事、建材の製造販売と、いくつかの柱を並走させていく構えだ。

「外国産材と競争して安く売るとか、そういう無理はしないで、木の可能性を開拓していきたいですね。ありがたいことに、こうやって構えていると、ノベルティのネタを探しておられる印刷屋さんが向こうからきてくれたりします。」

大量生産大量消費の市場とは別の土俵にいるのは、材木量の都合もある。

「材木の量としても年間でそんなに出てきません。六甲山の木がなくなってしまって次の展開が1年空いたら、そこで情報が消えてしまうので。山の上のほうにはまだまだ伐るべき木があって、増やそうと思ったら増やせるんですが、道をつくるところからなので、コストがかかります。その費用をどうやって捻出するか、行政のアイデアをもらいながらやっていく。税金を使うとなると、市民の理解と信頼を得ながら進める必要がある。まだまだ、できることはありますよ。」

地域に眠っている資源と、1人の思いや経験・技術がつながることで、新しい地域内循環が生まれ、人々の暮らしの質が上がる。神戸の地でSHARE WOODSが起こしているのは、新たなかけ合わせによる静かなるローカルイノベーションだ。

●SHARE WOODS 概要

  • 所 在 地 : 〒657-0838 神戸市灘区王子町1-4-8阪急王子公園高架下HASE65(ハーゼロコ)内
  • 電 話 : 0120-492-690
  • 事業内容 : 住宅及び商業施設並びに公共施設等の建築物における、木質系内外装材の販売/建築資材及び木製品の商品開発、OEM/国産地域材との共同プロデュース及びプロジェクト/株式会社西粟倉・森の学校ブランド製品の小売販売/森林や地域材活用のための社会活動及びイベント企画運営
  • シェアウッズ コーポレートサイト

●マルナカ工作所 概要

取材・文:浅倉彩

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