[上写真:左から島根県西ノ島町長 升谷健氏、宮崎県都農町長 河野正和氏、島根県邑南町長 石橋良治氏、
福井県小浜市長 松崎晃治氏、北海道鹿部町長 盛田昌彦氏]

2018年11月、にっぽんA級(永久)グルメのまち連合が発足した。
北海道鹿部(しかべ)町、福井県小浜(おばま)市、島根県西ノ島(にしのしま)町、島根県邑南(おおなん)町、宮崎県都農(つの)町の5市町村が参画。1市町村250万円を拠出し、食に関わる人材の募集・育成や、A級グルメの理念を広げるための情報発信、広報活動などで協働する。

11月13日に行われた設立調印式には、5市町の首長をはじめ、農林水産省食料産業局食文化・市場開拓課長の西経子氏、株式会社自遊人代表取締役の岩佐十良(とおる)氏が列席した。

記事のポイント

  • その地域でしか味わえない“えいきゅう”に守りたい食を観光資源に
  • A級グルメは「地域の歴史・文化・風土を皿の上に表現するローカルガストロノミー」
  • 参画地域の食材の特徴は?
にっぽんA級(永久)グルメのまち連合の発起人である島根県邑南町は、2011年にA級グルメ構想を立ち上げ、農林商工等連携ビジョンを策定。地元の高品質な農産物や食文化をフックに、町民の誇りを呼び覚まし、観光客や移住者を呼び込んできた。邑南町の成功を、趣旨に賛同する4市町に水平展開することで、「本当に美味しいものは地域にある」という概念を地域内外、日本全体に普及・定着させる。

邑南町の石橋良治町長は、連合発足に寄せて、
「地域に誇れる食材の特色を掘り起こし、世に出して脚光を浴びるなかで地域の誇り、つくる生産者の誇りを取り戻す。また、地域でお金がまわる持続可能な地域経済をつくる。それらを推進するためにもっとも重要な人材育成に、5市町村でノウハウを出し合って取り組んでいく」と宣言した。

「地域のA級グルメ」は世界に誇る文化遺産

農林水産省の西氏は、日本食・食文化によるインバウンド誘致を促す認定制度「SAVOR JAPAN(農泊 食文化海外発信地域)」を紹介。2013年に世界文化遺産登録された「和食」の定義、世界からの見られ方についても言及した。

農林水産省食料産業局食文化・市場開拓課長 西経子氏

「UNESCOの世界文化遺産に登録された和食は、文化。個別のメニューではなく日本人の食生活の文化的側面、とりわけ日本にしかなく、放っておいたらなくなってしまう大事なことがある、という主旨で登録されました。東西南北に長い国土の四季折々の自然を尊重する日本人の心意気が食に現れていることが評価されています。2869万人の訪日外国人が一番楽しみにしているのも食。そこで、『いつ、どんな文化的背景があってどの食材をどう料理して食べるのか』という地域の食のストーリーを組み立て、インバウンド客を呼び込む自治体を『SAVOR JAPAN』として認定する制度を始めました。食材だけに注目するのでなく、つくる人、紹介する人、運ぶ人、料理する人、食にまつわるいろいろな人の力を結集して広めよう、継承しようという、にっぽんA級グルメ連合の取り組みに賛同し、応援させていただきたいと思います。」

A級グルメ発案者が語るローカルガストロノミーの力

ゲストスピーカーとしてパネルディスカッションに登壇した岩佐氏は、「A級グルメ」による地域ブランディングのフロントランナーだ。岩佐氏が代表をつとめる株式会社自遊人は、雑誌「自遊人」やメディアとしての宿泊施設「里山十帖」を手がける。岩佐氏は2010年、会社がある新潟県南魚沼市で「雪国A級グルメ」プロジェクトをスタートさせた。

「B級グルメ全盛の中、“えいきゅう”に守りたいものを守っていこう、という趣旨でA級グルメというコンセプトを立ち上げました。立ち上げた直後に邑南町長からご相談いただき、雪国A級グルメと邑南A級グルメがほぼ同時にスタートしました。」

岩佐氏は、A級グルメを「地域の歴史・文化・風土を皿の上に表現するローカルガストロノミー」と定義する。その地域でしか味わえない食をつくることで、質の高い観光資源としてアピールし、高付加価値な観光産業の構築につなげる。

左から2番目:株式会社自遊人代表取締役 岩佐十良(とおる)氏

「JTBが行なった最近の調査では、旅行の動機の1位は美味しいもの。自然景観や自社仏閣よりも『食』なんです。雪国A級グルメでは、5つの基本条件を満たす旅館や飲食店、土産物や加工食品を認定。ネットワーク化することで、高品質な食を求める顧客との接点を増やしたり、加盟社どうしが勉強会や料理教室を通して切磋琢磨しながら、地域の食文化への造詣を深める。また、地域住民のみなさんにも伝える状況をつくってきました。」

その結果、観光客しか訪れなかった田舎料理店が地元の人にも評価されるようになり、口コミ&ランキングサイトで新潟県総合1位の常連になった。また、山奥の寿司店に毎日インバウンド客が訪れるようになった。ある人気蕎麦屋は、以前は4割だったそば粉の地元自給率が、契約栽培に切り替えることで10割に。

A級グルメが農業と観光と加工の3者を結んだことで、付加価値がついたのだ。

4市町それぞれの、ストーリーある食材

雪国A級グルメや邑南A級グルメのノウハウを糧に、農商工観光連携などによるローカルガストロノミーの構築を目指す4市町は、次のようなストーリーのある食材をもつ。

小浜市

  • 京都とのつながりの中で生まれ継承されてきた加工技術に特色
  • 鯖のへしこ、なれずし、浜焼き鯖、若狭小浜小鯛ささ漬などが「若狭もの」として珍重される
  • 2018年株式会社自遊人と地域産品のブランディングや情報発信等に関する連携協定を締結
  • 「御食国若狭おばま食文化館」で600の料理再現レプリカなど展示

鹿部町

  • 町内に8ものたらこ工場がある
  • ホタテの養殖がさかん
  • 鹿部町沿岸付近でしかとれない白口浜真昆布
  • 道の駅しかべ間歇泉公園で漁協の女性部が運営する「はまの母さん食堂」が人気。漁協で買い付けた新鮮な素材を家庭料理にして提供している

都農町

西ノ島町

  • プロトン凍結機で「いわがき」「烏賊」「鮮魚」を凍結商品として販売パッケージングと人工海水の最新技術で生きたままの烏賊を出荷。
  • パッケージングと人工海水の最新技術で生きたままの烏賊を出荷
  • 食材の鮮度やおいしさを維持することで魚価の向上を目指す
  • 3つの宿泊施設と連携

それぞれに全く異なる、多様な食資源を持つ4市町と、先を走る邑南町がタッグを組むことで、各地域にどんな豊かさが生まれ、日本から世界、そして次世代へと伝わるか。今後が楽しみだ。

取材・文:浅倉彩