はじめに

産業、住まい、教育といったあらゆる分野で復興に向けた取り組みが進む、大熊町。町民とともにまちづくりを進めているのが吉田淳町長です。

吉田町長は長年大熊町役場職員としてまちづくりにかかわり、町長となりました。ご自身にとっても大熊町はふるさとです。移住者が増えている大熊の姿をどのように感じていて、町の未来をどう描いているのか、お話を伺いました。

仕事づくりと暮らし、学びの充実を

大熊町には震災前、およそ11,500人が暮らしていました。2011年の東日本大震災と原発事故による全町避難、長期にわたる避難指示により町内の居住人口は大幅に減少しました。町では2027年までに人口を4,000人まで回復することを目指しています。吉田町長は町を維持するためには4,000人規模の人口は必要と話し、そのためにも「働く場の確保、住宅の整備、そして教育環境の充実に力を入れていきたい」と話します。

働く場の確保については大野駅西口に産業交流施設「CREVAおおくま」が2024年12月にオープンしました。企業が入居するオフィスビルで、全33室中約9割が埋まっており、入居の状況は好調。施設内では約300名が働く予定です。2階にはコワーキングスペースも設けられます。町内で働く人や仕事で町外から来た人などの間で様々な交流が生まれることが期待されており、吉田町長も「ぜひ様々な分野の民間の方々と協力しながら町を発展させていきたいと考えています。こちらも民間の方にどんどん進出していただけるように環境を整えていきます」と話します。

住宅の整備については、特定復興再生拠点区域の避難指示が解除された2022年から、かつての町の中心部であったJR大野駅周辺を含む下野上復興拠点の整備を進めています。今後も民間アパートや町営住宅の整備を進め、新たに町に移住する方々が安心して暮らせるようにしていきたいと力を込めました。

「町を存続させていくためには、ぜひとも若い方に町にかかわっていただきたい」と話す吉田町長。大熊町には様々な大学が研究やフィールドワーク、インターンシップなどで訪れており、多くの学生が活動しています。2024年8月には大阪大学の「大阪大学福島拠点」が町内に開設されました。近隣の町の方から「大熊では若い方がずいぶん活動していますね」と言われることを嬉しく感じており、さらに多くの若い世代が町に関わっていくことを心待ちにしています。

大野駅西交流エリアで進む再開発

大野駅西口では今まさに再開発が進んでおり、エリア全体のグランドオープンは2025年3月15日の予定です。「CREVAおおくま」に加え、商業テナント施設の「クマSUNテラス」がオープンします。

震災前、大野駅西口には商店街があり、町民が集う町の中心地でした。吉田町長は「西口を降りるとすぐ、商店街。小さな町の商店街といえばそうなんですけども、小さいお店がずっと連なっていました。歩行者天国もやっていましたし、年始の初売りの時にもたくさんの方が来てにぎわっていました」と当時を振り返ります。

駅の建物は今も昔も変わりませんが、駅周辺の状況は大きく変わりました。現在は休校していますが、大野駅から1キロ程の場所には双葉翔陽高校があり、通学のために駅を利用する高校生の姿がありました。「震災前の特急電車の本数は今よりも多かったように感じます。浪江駅には全部止まっていたと思いますが、大野駅には1本除いてほぼ止まったのかな。それだけたくさんの方が利用する駅でした」と話します。

「くまSUNテラス」にはコンビニエンスストアに加えて飲食店5店舗、物販店1店舗が入ります。敷地の東半分はステージ付きの芝生広場となっており、イベントやマルシェなどが楽しめる場所となっています。敷地内には屋内で遊べるキッズルームや噴水などを整備し、子どもも楽しく遊べるスペースが完成します。

吉田町長は「週末、ここに来れば何かがある、と思っていただいて町外からも多くの方に足を運んでいただきたいです。年間80万人を呼び込み、かつての町の賑わいを取り戻していきたいと考えています」と話します。

大熊の活性化のため、移住者に活躍の場を

吉田町長は大熊町にファミリー層や若い世代など多くの方が移住し、移住した女性たちのコミュニティなど、様々なつながりができていることを頼もしく感じています。2023年度には大熊町内で「学び舎ゆめの森」が開校しました。ファミリー層の移住が進み、2023年度の当初、20数人だった子どもたちの数は2024年度には70人以上となりました。0歳から15歳が同じ学び舎の中で過ごす「シームレスな学び」など先進的な教育が評価されていることを実感しています。

吉田町長は「田舎に移住すると、最初なじみにくさを感じてしまうという話がありますが、大熊ではあまりそのようなことは感じないと思います。もともと東京電力の企業城下町でしたから、町の中に町外から来た社員の方や子どもたちもたくさんいましたし、新しい方が来ても寛容な風土があります」と話します。

移住を考えている方々に対し、「ぜひご自身のやりたいことを積極的に取り組んでいただきたいと思います。大熊町にはみなさんの活躍の場がたくさんあります」と呼びかけました。

※この記事は「おおくまStyle」より転載しております